繰越欠損金とはどのような金額かを解説しています。繰越期限や控除限度額、利用条件や仕訳の例、税効果会計や回収可能性などについても紹介しています。繰越欠損金について調べている方は参考にしてください。
目次
- 繰越欠損金とは
- 欠損金の繰戻還付とは
- 繰越欠損金の利用条件
- 欠損金が生じた事業年度に青色申告している
- 欠損金が生じた以降の事業年度も確定申告をする
- 帳簿書類などを10年間保存する
- 繰越欠損金の繰越期限
- 繰越欠損金の控除限度額
- 中小法人等の場合
- 中小法人等に当てまらない法人の場合
- 繰越欠損金の「税効果会計」とは
- 繰越欠損金を計上する際の仕訳
- 繰越欠損金を解消する際の仕訳
- 繰越欠損金の回収可能性がなくなった際の仕訳
- まとめ
繰越欠損金とは
繰越欠損金とは、法人税の計算において、過去に発生した赤字を繰り越し、利益が出た年に差し引ける制度です。
欠損金は、法人税の計算をする上で、損失と利益を差し引きした際に損失のほうが大きかった場合の差額をいいます。その欠損金のうち、繰り越している過去の欠損金が、繰越欠損金です。
繰越欠損金には繰り越せる期間に制限があり、最大で10年間です。ただし、2018年4月1日前に開始した事業年度において生じた欠損金の繰越期間は、9年間になります。
出典:国税庁ホームページ「No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除」
欠損金の繰戻還付とは
利益が多く出て法人税を納めたものの、次の事業年度に業績が落ち込んで赤字となった場合、欠損金を前事業年度に繰り戻して、納めた法人税の還付を受けられます。これを欠損金の繰戻還付といいます。
下記の算式により計算した金額の還付が受けられます。
還付額 = 前期法人税額 × (当期欠損金額(注) / 前期所得金額)
(注)前期所得金額が限度
ただし、「中小企業者等」に当てはまらない場合、1992年4月~2024年3月に終了する事業年度については、その間に発生した欠損金を繰戻還付できません。
ここでいう中小企業者等とは、各事業年度終了の時において資本金の額または出資金の額が1億円以下であるものを指します。
また、大法人との間に完全支配関係がある法人や、公益法人等または共同組合等などの法人は、中小企業者等に該当しません。
繰越欠損金の利用条件
繰越欠損金は、過去10年以内に開始した事業年度の欠損金に限ります。
また、繰越欠損金の生じた会社を買収して合併した場合、合併した会社の繰越欠損金を引き継げるのは「適格合併」の場合に限ります。
適格合併とは、下記の要件を満たす合併を指します。
- 金銭等不交付要件
- 完全支配関係継続要件
- 株式継続保有要件
- 事業継続要件
- 従業者引継要件
- 事業関連性要件
- 事業規模要件、または、経営参画要件
合併にあたっての持分比率などによって、どの要件を満たすべきかが変わるので、注意してください。
この他にも、繰越欠損金を利用するには一定の条件があります。それぞれ解説します。
欠損金が生じた事業年度に青色申告している
欠損金の繰越控除ができるのは、欠損金が生じた事業年度において青色申告で確定申告している法人に限ります。
青色申告は、期末に貸借対照表と損益計算書を作成できるような正規の簿記によることが原則とされ、基本的に複式簿記による記帳を求められます。
帳簿および書類は、原則7年間保存しなければなりません。
また、青色申告する場合、事前に青色申告の承認申請書を税務署に提出する必要があります。
欠損金が生じた以降の事業年度も確定申告をする
繰越欠損金の控除をするには、欠損金が生じた以降の事業年度も法人税の確定申告をしなければなりません。
なお、欠損金が生じた事業年度に青色申告をしていれば、以降の事業年度が白色申告だったとしても繰越欠損金は適用できます。
白色申告とは、単式簿記での記帳が認められ、借方と貸方の両方を記載する複式簿記と比べて簡易的な記帳で済みます。
青色申告よりもシンプルに申告できますが、税制上のメリットが青色申告よりも少ない方法です。
帳簿書類などを10年間保存する
法人税法では、帳簿と、取引等に関して受領した書類を、事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から7年間保存しなければならないと定めています。
ただし、繰越欠損金を利用する場合は、欠損金が生じた事業年度から10年間の保存が必要です。
帳簿には、例えば総勘定元帳、仕訳帳、現金出納帳、売掛金元帳、買掛金元帳、固定資産台帳、売上帳、仕入帳などがあります。
書類とは、例えば棚卸表、貸借対照表、損益計算書、注文書、契約書、領収書などが挙げられます。
出典:国税庁公式サイト「No.5930 帳簿書類等の保存期間」
繰越欠損金の繰越期限
繰越欠損金の期限は、10年です。繰越欠損金が生じた事業年度の末日から10年後の事業年度の末日まで控除できます。
例えば、2024年4月1日から2025年3月31日の事業年度に繰越欠損金が発生した場合、2035年3月31日までの事業年度まで繰り越して控除が可能です。
ただし、2018年4月1日前に開始した事業年度に生じた欠損金の期限は9年なので注意しましょう。
例えば12月決算の会社において、2018年1月1日から2018年12月31日の事業年度に発生した欠損金は、事業年度の開始が2018年4月1日より前のため、9年間しか繰り越せません。
繰越欠損金の控除限度額
繰越欠損金を控除できる額には限度があり、中小法人等とそれ以外の法人で異なります。
中小法人等とは、普通法人のうち資本金の額または出資金の額が1億円以下であるもの、または資本もしくは出資を有しないもの、公益法人等、協同組合等、人格のない社団等です。
ただし、下記は中小法人等に該当しません。
- 資本金の額もしくは出資金の額が5億円以上の法人または相互会社等である法人による完全支配関係がある普通法人
- 完全支配関係がある複数の資本金等が5億円以上の法人または相互会社等に発行済株式の全部を保有されている普通法人
- グループ通算制度上の大通算法人
中小法人等の場合
中小法人等は、繰越欠損金の全額を控除できます。中小法人等の資本金の額または出資金の額は、期末時点の金額で判定します。
ただし、資本金または出資金の額が1億円以下でもあっても、大企業のグループ会社は、資本金または出資金が1億円超の法人と同様に控除できる額に制限があります。
中小法人等に当てまらない法人の場合
資本金または出資金の額が1億円を超える法人の場合、控除できる額に上限があります。各事業年度に控除できる上限額は、繰越欠損金を控除する前の所得の一定割合です。
事業年度が開始した時期によって割合が異なり、下記の通りです。
繰越控除をする事業年度 | 損金算入控除限度額 |
---|---|
2012年4月1日から2015年3月31日までの間に開始した事業年度 | 所得の金額の80% |
2015年4月1日から2016年3月31日までの間に開始した事業年度 | 所得の金額の65% |
2016年4月1日から2017年3月31日までの間に開始した事業年度 | 所得の金額の60% |
2017年4月1日から2018年3月31日までの間に開始する事業年度 | 所得の金額の55% |
2018年4月1日以後に開始する事業年度 | 所得の金額の50% |
出典:国税庁ホームページ「No.5800 一定の大法人等の100%子法人等における中小企業向け特例措置の不適用について」
繰越欠損金の「税効果会計」とは
「税効果会計」とは、主に上場企業で用いられる会計手法で、会計上の収益・費用と、税務上の益金・損金に差異が生じている場合に、その差異を調整し、税金費用を適切に期間配分する手続きです。
会計上の利益と、税務上の所得では計算方法が異なるため、その差異による不整合を修正することで、税引前当期純利益と法人税等が対応する損益計算書となります。
税効果会計では「繰延税金資産」と「繰延税金負債」の2種類の資産負債科目を使用し、将来の課税所得を減額するものを繰延税金資産、将来の課税所得を増額するものを繰延税金負債として処理します。
繰越欠損金は将来の課税所得と相殺するものであるため、繰越欠損金の発生時点で繰延税金資産として認識されます。
繰越欠損金を計上する際の仕訳
税効果会計では、法人税、法人住民税、法人事業税の表面税率を基に、総合的な税率である「法定実効税率」を算出します。ここでは分かりやすく法定実効税率を「30%」と仮定して、繰越欠損金の仕訳方法を解説します。
例えば繰越欠損金が100万円発生し、上限まで控除可能とすると、繰延税金資産の金額は下記の通りです。
繰延税金資産 = 繰越欠損金100万円 × 法定実効税率30% = 30万円
繰延税金資産の仕訳は下記になります。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
繰延税金資産 | 300,000 | 法人税等調整額 | 300,000 |
「法人税等調整額」は損益計算書の科目として、税引前当期純利益の下に記載されます。
繰越欠損金を解消する際の仕訳
繰越欠損金の解消に合わせて、計上時と逆の仕訳を行い、繰延税金資産を取り崩します。
例えば繰越欠損金のうち10万円を所得と相殺した場合、繰延税金資産の取崩額は下記の通りです。
繰延税金資産の取崩額 = 繰越欠損金の解消額10万円 × 法定実効税率30% = 3万円
仕訳は下記になります。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
法人税等調整額 | 30,000 | 繰延税金資産 | 30,000 |
繰越欠損金を解消し終わる前に、法人税等の税率が変更された場合には、その変更された税率に基づき、繰延絵税金資産および繰延税金負債を計算し直します。
再計算のタイミングは、税率変更が公布された時点の事業年度です。
例えば3月決算の会社で、公布が2025年2月15日であれば2025年3月期の事業年度で認識し、公布が2025年4月2日であれば2026年3月期の事業年度で認識します。
繰越欠損金の回収可能性がなくなった際の仕訳
繰延税金資産として計上できる額は、将来回収可能な金額分になります。
繰越欠損金は翌期以降が黒字でなければ控除できません。また、繰越欠損金には繰り越せる期限が存在します。
控除しきれない繰越欠損金が生じる場合があり、これを「回収可能性がない」といいます。
回収可能性がないとわかった繰越欠損金については、繰延税金資産を取り崩す仕訳を行わなければなりません。
例えば、繰越欠損金のうち20万円について回収可能性がないと分かった時点で、下記の計算で算定した繰延税金資産を取り崩す仕訳を行います。
繰延税金資産 = 繰越欠損金20万円 × 法定実効税率30% = 6万円
仕訳は下記になります。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
法人税等調整額 | 60,000 | 繰延税金資産 | 60,000 |
まとめ
繰越欠損金は過去に発生した赤字を将来の課税所得と相殺し、税負担を減少させます。
ただし、繰越欠損金の繰越可能期間は10年、2018年4月1日前に開始した事業年度については9年間です。
繰越欠損金は、中小法人等なら欠損金の全額を相殺できますが、中小法人等以外の法人は相殺できる欠損金の額に限度が設けられています。
さらに、繰越欠損金を利用するには、欠損金が生じた事業年度に青色申告をしており、帳簿書類などを保存しているなどの要件があります。
赤字は会社にとって本来好ましいものではありませんが、繰越欠損金として利用すれば、翌期以降の税負担を軽くできます。繰越欠損金をうまく活用して会社の経営に役立てましょう。