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「組織再編」とは?代表的な4つの手法や得られるメリットをわかりやすく解説

「組織再編」とは?代表的な4つの手法や得られるメリットをわかりやすく解説

昨今、「組織再編」という言葉が、新聞やニュース等のメディアで多く使われるようになりました。その主な背景として、急激な社会情勢の変化が関係していると考えられます。この記事では、組織再編とはなにか、代表的な手法やメリットなどについてわかりやすく解説します。

組織再編とは

組織再編とは

「組織再編」とは、会社の組織・形態を大きく変更して新たに編成し直すことをいいます。

 

例としては、複数の企業の統合や分離などが挙げられます。

 

組織再編を行う目的

事業の拡大と縮小

組織再編は、より高い競争力を身に付けるために他社から経営権を取得するなど、事業の拡大目的に使用されます。

 

また、不採算事業から撤退したい場合や効率的な運営などのためにグループ内事業の統廃合目的に使用されるケースもあります。

 

組織再編の対象は企業グループ内・外両方のケースがある

組織再編の当事者は外部のみならず、同一グループ内の企業同士で行われるケースもあります。

 

外部の企業との組織再編は同業他社・事業の買収により、競争力の強化を図る目的で行われます。

 

一方で、同一グループ内での組織再編は複数の子会社同士の合併や会社分割により、グループ管理の効率化を図る目的で行われるのです。

 

組織再編の手法 ~M&Aの意味と各手法の定義~

組織再編の手法~M&Aの意味と各手法の定義~

M&A=Mergers(合併)と Acquisitions(買収)

M&Aとは企業の合併・買収のことです。2つ以上の会社が1つになるのを合併、ほかの会社を買うのを買収といいます。

 

M&Aの広義としては企業の合併・買収だけでなく、業務提携までを含める場合もあります。

 

組織再編を行う際の手法は、合併、会社分割、株式交換、株式移転などがあります。

 

 

合併

2つ以上の企業が合体して、1つの企業となることです。

 

合併により消滅する会社の権利義務の全部を、存続する会社に承継します。

 

 

会社分割

企業の一部の事業を分割し、ほかの会社に総合的に承継することをいいます。

 

パターンは、「新設分割」と「吸収分割」の2つあります。

 

合併と異なり、部分的に事業を受け渡せます。

 

株式交換

既存の会社間同士で行われる、組織再編手法です。

 

完全子会社となる会社の株式を完全親会社となる会社に譲渡し、完全親会社となる会社は対価として自社の株式を完全子会社となる会社の株主に割り当てる方法です。

 

株式移転

完全子会社となる会社の株式を新設した完全親会社となる会社に譲渡し、完全親会社となる会社は対価として自社の株式を完全子会社となる会社の株主に割り当てる方法です。

 

株式移転は株式交換に似ていますが、新たに親会社を新設するという点が異なります。

 

株式移転は、昨今多く見られるホールディングス(純粋持株会社)の設立に使われる手法です。

 

M&Aスキームは戦略ごとに使い分ける

M&Aを実行できた場合でも、すべてのディールが成功につながるとは限りません。

 

あくまで一般論ですが、M&Aの成功確率は30%〜50%といわれています。無計画にM&Aを実行しても、「買収資金が無駄になる」「多額の損失を被る」などの失敗に陥る可能性が高いと考えられます。

 

よって、M&Aの成功のための戦略を入念に計画し、上述のM&A手法を適切に選択することが成功の要因と考えられます。

 

M&Aスキームを組み合わせた組織再編手法

ここで、M&Aスキームを組み合わせた組織再編手法について紹介します。株式交換と合併の2つを採用する場合の組織再編のケースです。

 

例えば、株式交換により完全子会社化した後、人事制度の統合等の子会社管理に注力します。その後、グループ子会社として安定的に機能した際に合併し、組織再編によるシナジーを享受する形で段階的に行う手法もあります。

 

戦略に応じてM&Aスキームをうまく使い分けることは、M&Aの成功確率の向上につながります。

 

M&Aのメリット

M&Aのメリット

合併

余剰人員の適正配置

合併によるM&Aのメリットの1つに、重複した余剰人員を適正配置できる点があります。

 

例えば、複数の会社に跨った総務・人事・経理などを一本化することにより、そこで余剰となった人員を、営業部門に配置換えする等して、人員を適正配置することも可能です。

 

会社分割

一部の事業のみ譲渡可能

売手は一部の事業のみを分社化等により譲渡でき、事業の選択と集中を効率的に実行することが可能です。そのため、事業譲渡にかわる手段として柔軟に活用できます。

 

また、重要性の低い事業を他社に譲渡すれば、主要事業への経営資源の集中が図れます。

 

さらに、一部のみを事業承継したいケースでも、会社分割により承継させたい事業を切り離すことが容易に可能です。

 

意思決定スピードの向上

会社分割により重複する事業の統廃合の結果、事業の集中化による状況把握・判断の迅速化につながりやすくなります。

 

これにより経営者の意思決定がスピーディーに行われ、組織全体への伝達スピードも向上します。

 

株式交換

子会社の独立性が担保される

株式交換により完全子会社となっても、法律上は親会社とは別の法人格です。そのため企業買収目的で株式交換を活用しても、株主が代わるだけで従来の会社のまま継続できます。

 

よって企業買収の際に、取引先や従業員からの抵抗を軽減することが可能です。

 

株式交換後も、子会社の会社組織そのものに大きな変更は生じません。よって株式交換は、子会社の独立性が担保されたM&A手法といえます。

 

買収資金が不要

仮に株式の有償譲受により会社を完全子会社化しようとする場合には、多額の現金を支払う必要があります。

 

その一方で株式交換を活用して親会社は対価として自社の株式を渡せば、現金の支払いは不要です。

 

そのため多くのケースでは、株式交換の対価は親会社の株式で支払われています。

 

株式移転

組織の内部統合が容易

合併による経営統合では、ある日突然に異文化の企業が一つになり、例えば異なる給与体系が統一される等によって従業員のモチベーション低下が生じやすくなります。

 

株式移転では、各々の会社が別法人として存続するため、経営統合にかかわる作業を焦って進める必要が生じません。

 

買収資金が不要

株式の有償譲受などと異なり買収の対価として新設親会社の新株を発行できるため、買収資金の事前準備は不要となります。

 

M&A事例の紹介

M&A事例の紹介

ここ最近における組織再編手法によって行われた、有名なM&A事例について紹介します。

 

LINEとZホールディングス(以下、ZHD)の経営統合

2021年に行われた、IT企業同士における非常に有名なM&A事例です。

 

当事者企業は、メッセージ送受信サービスを運営するLINEとECサイトなど200超のサービスを展開するZHDです。

 

M&Aの目的・背景

両社の経営統合の目的は、各企業の既存事業強化と新規事業への投資にあります。

 

また、当M&Aにより「マーケティング事業」「フィンテック事業」などでのシナジー効果を見込んだことが、経営統合に至った背景です。

 

M&A手法の概要

両社は、以下の流れで経営統合を図りました。合併、会社分割、株式交換といった複数のスキームが絡む複雑な取引である点が特徴です。

 

  1. NAVERとソフトバンクによるLINE株式の公開買付け及びスクイーズアウト
  2. LINEによるZHD株式の公開買付け
  3. 汐留ZHDとLINEの吸収合併
  4. JV化取引(ソフトバンクとNAVERが保有するLINEの議決権割合を、50:50とする調整取引)
  5. LINEの全事業を、会社分割によりLINE承継会社へ承継
  6. ZHDを完全親会社、LINE承継会社を完全子会社とする株式交換

 

三菱UFJリースと日立キャピタルの吸収合併

2020年9月24日に、三菱UFJリースを存続会社、日立キャピタルを消滅会社とする吸収合併契約の締結が公表されました。存続会社の三菱UFJリースは、東証1部上場のリース会社です。

 

そして消滅会社の日立キャピタルは、日立製作所と三菱UFJフィナンシャルグループの持分法適用対象であるリース会社です。また三菱UFJリースと同様に東証1部上場企業でした。

 

M&Aの目的・背景

吸収合併の背景には、金融の枠を超えたサービス提供のニーズに応えていく点にありました。

 

両社の合併によるビジネス領域の相互補完や経営基盤の強化をベースに、新たな価値創造と企業価値増大の実現を掲げました。

 

M&A手法の概要

2021年4月1日を効力発生日とした三菱 UFJ リースを吸収合併存続会社、日立キャピタルを吸収合併消滅会社とする吸収合併により、新たに三菱HCキャピタルが生まれました。

 

合併比率は三菱UFJリース:日立キャピタル = 1 : 5.1となります。

 

組織再編に伴う課題と対策

組織再編に伴う課題と対策

上述のM&Aを採用した組織再編によって、課題が生じることもあります。ここでは組織再編に伴う3つの課題と、その対応策について解説していきます。

 

課題1:社内風土・社内ルールの統合

合併が行われると、異なる沿革の企業同士が1つになります。社内風土や人事制度などを統合するためのストレスが、通常生じます。

 

また合併により一方の会社が消滅するので、今まで築いた伝統等だけでなく、優秀な社員も失う可能性もあり、会社にとって重大な損失につながる可能性があります。

 

対応策として、PMI(組織再編におけるシナジーを高めるためのプロセス)について、専門家と連携し検討を進めることです。社内の組織統合については急がず、PMIに沿って数年間の計画で少しずつ進めていくことが重要であると考えられます。

 

 

課題2:組織再編コストの増大化

組織再編には、多くの費用がかかります。外部の専門家への依頼時に発生するコンサルティング費用や各種調査において発生する士業報酬など、多岐に渡ります。

 

また、小規模の合併でも多額のコストが発生します。合併に伴うシステム統合や株主や債権者への対応コストだけでなく、想定外のコストが発生するケースも考えられます。

 

対応策として、複数の専門家のファームに外注している業務をできるだけ一元化させましょう。

 

複数の専門家に作業を振り分けず、組織再編における業務を包括的に依頼可能な専門家へ委託する方法があります。これにより、不必要な中間コストなどの削減が可能です。

 

課題3:求められる人材像の変化

組織再編を行うことで、経営方針が大きく変わる場合があります。よって、従来のノウハウでは不十分になり、求められる人材像・スキルも変わる可能性が高いです。そのことが従業員にストレスを与え、会社が安定的に機能しなくなる恐れがあります。

 

対応策として、新たな人材の採用や既存社員の配置転換を通じて、適材適所に人員を配置する方法があります。また、キャリア開発や社員教育の研修を取り入れることで、新しいスキルの習得を図るのも有効な手段です。

 

雇用調整による新陳代謝を行ってもよいでしょう。人事部門の変革が、組織再編を成功に導くための重要な要素であると考えられます。

 

まとめ

組織再編はその手法や問題点を把握できていても、いざ自力で成功させるのは一般的に難しいと考えられます。どの手法を採用すれば良いか迷った場合はM&Aアドバイザーなどの専門家からアドバイスを受け、適切な再編スキームを選択することが重要です。

 

また組織再編の手法はディールの実態によって、最適な場面やメリット・デメリットが異なります。過去の成功事例を参考に、自社の達成したい目標などに応じて最適な手法を選択していきましょう。

  • 井上 智博

    監修者

    井上 智博

    株式会社AGSコンサルティング
    マネジメントサービス第2部門長

    2004年にAGSグループ入社、2006年に税理士登録。法人税務、M&A業務を経て、事業承継業務に従事。年間100件超の事業承継案件に関与。

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