決算賞与とはどんなものかについて解説しています。支給時期がいつかや平均相場・支給額についてや、通常賞与(ボーナス)との違い、企業が決算賞与を支給するメリットやデメリット、実際に支給する際の注意点についても紹介しています。決算賞与について調べている方は参考にしてください。
目次
- 決算賞与とは
- 決算賞与の支給時期はいつ?
- 決算賞与の平均相場・支給額
- 決算賞与と通常賞与(ボーナス)の違い
- 企業が決算賞与を支給するメリット
- 従業員のモチベーションアップにつながる
- 要件を満たすことで損金算入が可能
- 企業が決算賞与を支給するデメリット
- キャッシュフローが悪化する
- 従業員の期待値コントロールが必要
- 決算賞与を支給する際の注意点
- 役員への支給分は損金算入できない
- 決算期末から1ヵ月以内に支給する
- 事前通知の金額どおりに支給しないと損金算入できない
- 通知後支払われなかった人がいた場合は損金算入できない
- まとめ
決算賞与とは
決算賞与とは、企業がその事業年度の業績に応じて支給する賞与です。夏や冬に定期的に支給される通常の賞与(ボーナス)とは異なり、その年度の業績によって金額が変わる「臨時的な賞与」という位置づけとなります。
決算賞与の支給によって、従業員のモチベーションを向上させることが期待できます。また、損金算入することによって法人税の納税額を抑えるといったメリットもあります。
決算賞与の支給時期はいつ?
決算賞与の支給時期は、法人税法施行令72条の3第2号にて企業の決算月から1ヵ月以内と定められています。
たとえば決算月が3月である場合、企業は3月中に金額を決定し、従業員に通知して4月末日までに支給します。
詳細は後述しますが、法人税法上に損金算入するための要件があるため、決算月が何月であっても「決算月から1ヵ月以内」に支給することがほとんどです。
出典:国税庁公式サイト「決算賞与金の税務上の取扱いについて」
決算賞与の平均相場・支給額
通常賞与(ボ―ナス)は、その業界の平均額を参考にしながら、勤続年数や実績に応じた企業独自の基準があります。業績がよほど悪化しない限りは、例年決まった時期に算定基準に応じた金額が支給されます。
これに対して決算賞与は、その事業年度でどのくらいの利益を上げられたのか、利益はあっても手元資金はあるのか、どの従業員に支給するのかといった様々な要素で、支給額は大きく異なります。
労働の対価である給与とは違い、決算賞与は必ず支給されるものではなく、業績がよくても支給されない場合があります。したがって、決算賞与については平均相場といった目安になるものはなく、金額相場も存在しません。
決算賞与と通常賞与(ボーナス)の違い
決算賞与と通常賞与(ボーナス)で、異なる点は主に2つあります。
1つ目は支給時期です。決算賞与は、企業の業績に応じて支給されるため、決算後に支給されます。一方、通常賞与は「夏季賞与」「冬季賞与」といった、例年決まった時期に支給されます。
2つ目は支給額です。決算賞与は業績やその他要素によって支給額が変動します。一方、通常賞与は企業によって算定方法が定められた支給額となります。
両者の共通点は、必ずしも支給されるものではないということです。企業側にとっては、決算賞与も通常賞与も支給義務はありません。
企業が決算賞与を支給するメリット
ここでは、企業にとって決算賞与を支給するメリットを解説します。
従業員のモチベーションアップにつながる
決算賞与の支給は従業員のモチベーションを高め、仕事の質やパフォーマンス向上が期待できます。その結果、業務の効率化が進んだり、新しいアイデアが生まれたりするかもしれません。
また、決算賞与を受け取った従業員は、利益を還元してくれた企業に対して貢献したいという「帰属意識」が高まります。これにより、組織としての結びつきを一層強くしてくれるでしょう。
要件を満たすことで損金算入が可能
企業が決算賞与を支給すると、一定の要件を満たしている場合は法人税の負担を軽減できます。
法人税は企業が得た所得に対して課税されます。所得の計算は、簡単に表すと「所得 = 益金 - 損金」です。決算賞与を損金として計上できれば課税される所得が減り、結果的に法人税が軽減されることになります。
業績がよく利益が大きく出た企業にとっては、従業員に賞与を支給しつつ、法人税の納税額を抑えられるため、大きなメリットになるでしょう。
損金として計上するための要件
決算賞与を損金算入するためには、法人税法施行令第72条の3第2号に定められている要件を満たす必要があります。要件は以下の3つです。
- その支給額を、各人別に、かつ、同時期に支給を受けるすべての使用人に対して通知をしていること
- 1の通知をした金額を通知したすべての使用人に対しその通知をした日の属する事業年度終了の日の翌日から1ヵ月以内に支払っていること
- その支給額につき1の通知をした日の属する事業年度において損金経理をしていること
上記をすべて満たす場合に、決算賞与を損金算入することが可能となります。
本来、損金はその事業年度中に事象が発生し、債務が確定して支払いが行われるため、その事業年度内において決算賞与を支給済みである場合には、問題なく損金算入の要件を満たしていることになります。
法人税法施行令72条の3第2号は、実際の支払日が翌事業年度であっても、要件を満たせば前事業年度の損金に計上ができる旨を定めています。
出典:国税庁公式サイト「No.5350 使用人賞与の損金算入時期」
出典:法人税法施行令「第七十二条の三(使用人賞与の損金算入時期)」
企業が決算賞与を支給するデメリット
決算賞与の支給は従業員のモチベーションを上げ、節税効果を期待することもできますが、以下のようなデメリットもあります。
キャッシュフローが悪化する
企業が決算賞与を支給すると法人税の節税にはなりますが、単純に手元資金が減るためキャッシュフローは悪化します。
人間にとっての血液のように、資金は企業の中を流れます。資金の流れが止まると、企業は生きることができずに倒産してしまいます。
数字上の利益だけを見て決算賞与の支給金額を決定すると、黒字倒産という状況にもなりかねません。数ヵ月分の運転資金や設備投資用の資金、臨時的な出費に対応できるだけの資金を手元に残しておきましょう。
決算賞与の支給金額を検討する際は、キャッシュフロー計算書を確認し、来期以降の設備投資計画や資金調達・返済計画等についても配慮する必要があります。
従業員の期待値コントロールが必要
決算賞与を支給すると従業員のモチベーション向上に期待できますが、反対に支給されなかった場合にモチベーションがダウンすることも考えられます。
従業員の意欲を向上させつつ、良好な業績状態を維持するためには、中長期的な従業員の期待値コントロールが必要になります。年に1回の決算賞与の支給だけで従業員のモチベーションを高く維持することは困難でしょう。
決算賞与について、目標を達成した場合としなかった場合の明確な支給条件を従業員に周知する、算定の仕方を工夫するなど、様々な角度から期待値のコントロール方法を検討しましょう。そもそも決算賞与は支給せずに、通常賞与を上乗せするといった選択肢もあります。
決算賞与を支給する際の注意点
決算賞与を支給する際の注意点を4つ解説します。
役員への支給分は損金算入できない
役員に対する決算賞与については、損金算入できません。
役員報酬(給与、賞与含む)については、法人税法で詳細に規定されています。これは役員報酬の支給を自由に認めると意図的に課税所得や税金を調整できてしまい、租税回避行為につながる恐れがあるためです。
役員報酬の支給について、中小企業が知っておくべき制度は「定期同額給与」と「事前確定届出給与」の2つです。
まず、給与にあたる「定期同額給与」とは、決算後3ヵ月以内の株主総会で決めた金額を毎月払うことです。特別な事情がある場合を除き、毎月同じ金額を支払わなければ損金算入が認められません。
また、賞与にあたる「事前確定届出給与」では、事前にボーナスの金額を決めて税務署に届出書を提出する方法を採ります。届出に記載した支給日と支給額が、1日でも、1円でもずれてしまうと損金算入が認められません。
このように役員報酬には詳細な規定があり、損金算入には制限が設けられているため、決算賞与のように臨時的な賞与については損金算入できない仕組みになっています。
決算期末から1ヵ月以内に支給する
決算賞与を損金算入するためには、法人税法施行令第72条の3第2号の定める要件を満たす必要があります。
その要件のうちの1つとして、「事業年度終了の日の翌日から1ヵ月以内に支払っていること」が挙げられます。たとえば12月決算の企業であれば、1月31日までに支給しなければならないことに注意が必要です。
また、税務調査に対応できるよう、決算期末から1ヵ月以内に振込んだことを証明できる状態にしておきましょう。銀行振込みで支給した場合には振込記録があれば確認できますが、現金で支給した場合には支給した従業員から領収証をもらうなどの工夫をしましょう。
事前通知の金額どおりに支給しないと損金算入できない
その事業年度の終了の日までに、決算賞与の支給額を従業員に通知しなければならないとされています。さらに、その通知した支給額を支払わなくてはいけません。実際の支給日までの間に利益の予想額が異なるなどして支給額を変更した場合には、要件を満たせず損金算入ができなくなるため注意が必要です。
損金算入できない理由は、企業会計原則の考え方などの詳細は省略しますが、通知の金額どおりの支給ではない場合でも損金算入を認めると、課税所得や税金を自由に調整できてしまうためです。その事業年度にわざと大きな金額を損金算入して、実際には翌事業年度に少額を支給した場合、その事業年度の課税所得について意図的な減少を許すことになります。
そのため、税法は事前通知の金額どおりに支給することを要求しているのです。
通知後支払われなかった人がいた場合は損金算入できない
法人税法施行令において前事業年度の損金として計上できる要件を定めているのは、意図的な課税所得や税金の自由な調整を許さないためです。そのため、事前に通知したすべての従業員に対して支給されなければ損金算入は認められません。
たとえば通知した前事業年度末には在籍した従業員が翌月の支給日までに退職しており、振込リストから漏れるなどの原因で支給されないケースが考えられます。この場合、税務上全員分の決算賞与の損金算入が認められなくなってしまいます。事前の決定どおりに支給するよう、退職者が漏れていないか注意しながら支給しましょう。
まとめ
決算賞与とは、企業がその事業年度の業績に応じて支給する賞与です。定期的に支給される通常賞与(ボ―ナス)と違い、その期の利益や資金状況を見ながら支給を決定するため、臨時的な賞与として支給されます。
決算賞与の支給によって、従業員のモチベーションや企業の組織力が向上したり、税法上の支給額を損金算入することで税負担の軽減に繋がります。
一方で、手元資金が減少してキャッシュフローが悪化すること、支給されなかった場合の従業員のモチベーション低下などがデメリットとして挙げられます。
決算賞与は必ずしも実施する必要があるものではないため、メリット・デメリットを考慮しながら実施を検討しましょう。