法定福利費とはどんな費用かについて解説しています。似たような言葉の「福利厚生費」との違いや、健康保険料、雇用保険料などの詳細な計算方法、実際に支払いを行う際の仕訳などについてや、建設業では法定福利費を内訳明示した見積書が必要な理由などについても紹介しています。法定福利費について調べている方は参考にしてください。
目次
- 法定福利費とは
- 福利厚生費との違い
- 法定福利費となる保険料
- 健康保険料
- 厚生年金保険料
- 介護保険料
- 子ども・子育て拠出金
- 雇用保険料
- 労災保険料
- 法定福利費の計算方法
- 健康保険料の計算方法
- 介護保険料の計算方法
- 厚生年金保険料の計算方法
- 子ども・子育て拠出金の計算方法
- 雇用保険料の計算方法
- 労災保険料の計算方法
- 法定福利費の仕訳方法
- 従業員の給与から天引きしたときの仕訳
- 法定福利費を納付したときの仕訳
- 建設業では法定福利費を内訳明示した見積書が必要
- まとめ
法定福利費とは
法定福利費とは、従業員の福利厚生のために会社が負担する費用のうち、法律で義務付けられているものを指します。具体的には以下の費用が法定福利費に含まれます。
- 健康保険料
- 厚生年金保険料
- 子ども・子育て拠出金
- 介護保険料
- 雇用保険料
- 労災保険料
法定福利費には、雇用主である会社が全額負担するものと、雇用主と従業員の両者で負担するものがあります。
福利厚生費との違い
法定福利費と混同されやすい費用として、福利厚生費があります。福利厚生費は、その名の通り従業員の福利厚生のために支払われる費用です。従業員の働きやすさやモチベーションを向上させるために、給与や賞与とは別に会社から従業員に支給されます。
福利厚生費は、大きく二種類に分類されます。ひとつは法定福利費、もうひとつは法定外福利費です。法定福利費は、上述した通り法律によって会社の支払義務が明記された費用を指します。それに対し、法定外福利費は会社に支払義務はなく、あくまで会社が独自に設定するものです。
法定外福利費の例としては、社宅家賃や通勤手当、家族手当などが挙げられます。このように、法定外福利費は福利厚生費の一部です。
しかし、法定外福利費のみを指して福利厚生費と呼ぶケースもあります。この場合、法律で定められた法定福利費と、それ以外の福利厚生費という並列の関係になります。
法定福利費となる保険料
法定福利費は、大きくは社会保険料と労働保険料の2つに分けられ、さらに社会保険料は3つ、労働保険料は2つに細かく分けられます。
5つの保険料のうち、労災保険料は全額会社負担となりますが、他の保険料は会社と従業員の両者で負担します。
社会保険料 | 健康保険料 |
---|---|
厚生年金保険料 (子ども・子育て拠出金含む) | |
介護保険料 | |
労働保険料 | 雇用保険料 |
労災保険料 |
すべての法人事務所、および5人以上の常時従業員を雇用する個人事務所は、社会保険に加入しなければなりません。
正社員だけでなく、所定の労働時間を満たしたアルバイト・パートタイマーも社会保険の被保険者となります。
労働保険は、雇用形態に関わらず従業員を雇用しているすべての事務所に加入義務があります。労働保険のうち、労災保険は雇用形態に関わらずすべての従業員が対象です。
出典:国税庁公式サイト「健康保険料の事業主負担による経済的利益」
出典:日本年金機構公式サイト「厚生年金保険の保険料」
出典:全国健康保険協会公式サイト「介護保険制度と介護保険料について」
出典:厚生労働省公式サイト「労働保険とは」
健康保険料
健康保険とは、従業員やその扶養家族が病気やケガなどで医療機関を受診した際に適用される保険です。健康保険によって受診時の自己負担額が軽減されます。また、病気やケガ、出産によって休業する場合にも、傷病手当金や出産手当金が支給されます。
健康保険料は、会社と被保険者である従業員が折半して負担します。従業員の扶養家族は、保険料を負担する必要がありません。
厚生年金保険料
厚生年金保険は、従業員の老齢や障害、死亡に対する保険です。日本国民は国民年金に加入しているため、原則65歳から老齢基礎年金を受給できます。厚生年金保険の加入者には、国民年金に上乗せする形で老齢年金が給付されます。
また、万が一障害を負った際は、国民年金に上乗せして障害年金を受け取れます。もし被保険者が亡くなった場合は、配偶者に生涯にわたって遺族厚生年金が給付されます。厚生保険料は、会社と被保険者である従業員が折半して負担します。
介護保険料
介護保険は、介護を必要とする人をサポートするための保険です。
加入する被保険者を年齢によって2つの区分に分けていて、65歳以上を第1号被保険者、40歳以上64歳以下を第2号被保険者としています。
以下の支給要件に該当する介護保険の被保険者が訪問介護や訪問看護といったサービスを利用した場合に、費用の一部が保険から支払われます。
区分 | 対象年齢 | 支給要件 |
---|---|---|
第1号被保険者 | 65歳以上 | 要介護状態または要支援状態 |
第2号被保険者 | 40歳から64歳 | 老化に起因する疾病によって要介護または要支援状態になった場合 |
介護保険料の支払方法も、被保険者の区分によって変わります。
区分 | 対象年齢 | 保険料支払方法 |
---|---|---|
第1号被保険者 | 65歳以上 | 原則、年金からの天引き |
第2号被保険者 | 40歳から64歳 | 健康保険料、または国民健康保険料と一体的に徴収 |
第2号被保険者の介護保険料は、健康保険料と同様に、会社と従業員で折半となります。
子ども・子育て拠出金
子ども・子育て拠出金は、国や地方自治体が行う子育て支援サービスのために事業者から徴収する費用です。事業者からの拠出金を原資として、以下の子育て支援サービスが行われます。
- 児童手当
- 放課後児童クラブ
- 病児保育
- 延長保育
- 企業主導型保育事業
- 企業主導型ベビーシッター利用者支援事業
子ども・子育て拠出金は、厚生年金保険料とまとめて全額会社負担であり、従業員の負担はありません。
子どもの有無に関係なく、従業員の人数分の徴収がなされます。
出典:厚生労働省公式サイト「子ども・子育て支援法の一部を改正する法律案の概要」
雇用保険料
雇用保険は、労働者支援のための保険です。労働者が失業した場合や、働き続けることが困難になった場合に、生活・雇用の安定と就職の促進を図るための給付等を受けられます。
具体的には、以下の給付や事業を行うための保険です。
- 失業等給付
- 求職者支援事業
- 育児休業給付
- 雇用安定事業
- 能力開発事業
雇用保険料は会社と従業員が負担しますが、業種によって保険料率が変わることに加えて会社が負担する割合の方が大きくなります。
出典:厚生労働省公式サイト「雇用保険制度の概要」
出典:厚生労働省公式サイト「令和5年度雇用保険料率のご案内」
労災保険料
労災保険は、労働者の業務または通勤の傷病や傷害、死亡に対する保険です。
以下の3つが、労災保険の対象となります。
- 業務災害:労働者が業務を原因として被った負傷、疾病、障害または死亡
- 複数業務要因災害:二つ以上の事業の業務を要因とする傷病等
- 通勤災害:通勤によって労働者が被った傷病等
労災保険における労働者とは、「職業の種類を問わず、事業に使用される者で、賃金を支払われる者」です。アルバイトやパートタイマー等の雇用形態は関係ありません。費用は原則として会社負担であり、従業員の保険料負担はありません。
法定福利費の計算方法
ここからは、法定福利費の計算方法をひとつずつ解説していきます。
法定福利費は、被保険者の年収や居住地などによっても変動します。
ここでは、以下のAさんの例を使って計算します。
- 東京都在住の40歳会社員
- 協会けんぽ加入で小売業を営む会社に勤務
- 対象年度:2023年(令和5年度)
- 標準報酬月額:30万円
- 賃金総額:360万円
標準報酬月額とは、被保険者が事業主から受ける毎月の給料などの報酬の月額を区切りのよい幅で区分したものです。賃金総額には、年間の給与・賞与だけでなく、各種手当も含まれます。
健康保険料の計算方法
健康保険料は、標準報酬月額×健康保険料率で計算します。健康保険料率は都道府県によって変動し、2023年(令和5年度)における東京都の健康保険料率は、10%です。
Aさんの場合、月々の健康保険料は、
標準報酬月額30万円 × 健康保険料率10% = 30,000円
となります。健康保険料は会社と従業員で折半のため、会社とAさんの負担額はともに
30,000円×1/2=15,000円
となります。
出典:全国健康保険協会公式サイト「令和5年度都道府県単位保険料率」
介護保険料の計算方法
介護保険料は、標準報酬月額×介護保険料率で計算します。介護保険料率は全国一律で、40歳から64歳までの介護保険第2号被保険者の場合、2023年(令和5年度)の介護保険料率は、1.82%です。
Aさんの場合、月々の介護保険料は、
標準報酬月額30万円 × 介護保険料率1.82% = 5,460円
となります。介護保険料は会社と従業員で折半のため、会社とAさんの負担額はともに
5,460円 × 1/2 = 2,730円
となります。
出典:全国健康保険協会公式サイト「協会けんぽの介護保険料率について」
厚生年金保険料の計算方法
厚生年金保険料は、標準報酬月額×厚生年金保険料率で計算します。厚生年金保険料率は全国一律で、2023年(令和5年度)の厚生年金保険料率は、18.3%です。
Aさんの場合、月々の厚生年金保険料は、
標準報酬月額30万円 × 厚生年金保険料率18.3% = 54,900円
となります。厚生年金保険料は会社と従業員で折半のため、会社とAさんの負担額はともに
54,900円 × 1/2 = 27,450円
となります。
出典:日本年金機構公式サイト「令和2年9月分(10月納付分)からの厚生年金保険料額表(令和5年度版)」
子ども・子育て拠出金の計算方法
子ども・子育て拠出金は、標準報酬月額×子ども・子育て拠出金率で計算します。子ども・子育て拠出金率は全国一律で、2023年(令和5年度)の子ども・子育て拠出金率は、0.36%です。
Aさんの場合、月々の子ども・子育て拠出金は、
標準報酬月額30万円 × 子ども・子育て拠出金率0.36% = 1,080円
となります。子ども・子育て拠出金は全額会社負担です。
出典:日本年金機構公式サイト「令和2年9月分(10月納付分)からの厚生年金保険料額表(令和5年度版)」
雇用保険料の計算方法
雇用保険料は、賃金総額×雇用保険料率で計算します。雇用保険料率は会社の事業種類によって異なり、2023年(令和5年度)の雇用保険料率は以下のとおりです。
業種 | 雇用保険料率 | 労働者負担 | 事業者負担 |
---|---|---|---|
一般 | 1.55% | 0.6% | 0.95% |
農林水産・清酒製造 | 1.75% | 0.7% | 1.05% |
建設 | 1.85% | 0.7% | 1.15% |
小売業を営む会社に勤務するAさんの場合、月々の雇用保険料は、
賃金総額360万円 × 雇用保険料率1.55% × 1/12 = 4,650円
となります。会社の負担額は、
賃金総額360万円 × 事業者負担率0.95% × 1/12 = 2,850円
となります。従業員であるAさんの負担額は、
賃金総額360万円 × 労働者負担0.6% × 1/12 = 1,800円
となります。
出典:厚生労働省公式サイト「令和5年度雇用保険料率のご案内」
労災保険料の計算方法
労災保険料は、賃金総額×労災保険料率で計算します。労災保険料率は会社が営む事業の種類によって細かく分かれており、全額会社負担です。
小売業を営む会社に勤務するAさんの場合、月々の労災保険料は、
賃金総額360万円 × 労災保険料率3.0% × 1/12 = 9,000円
となります。
法定福利費の仕訳方法
ここでは、法定福利費の仕訳方法について解説します。
法定福利費の仕訳が発生するのは、従業員の給与から天引きした場合と、法定福利費を納付したときです。前章のAさんの例を使って解説します
Aさんの法定福利費をまとめると、以下のようになります。
各法定福利費 | 算定基礎金額 | 保険料率 | 月額保険料 | 従業員負担 | 事業者負担 |
---|---|---|---|---|---|
健康保険料 | 標準報酬月額 30万円/月 | 10% | 30,000 | 15,000 | 15,000 |
介護保険料 | 1.82% | 5,460 | 2,730 | 2,730 | |
厚生年金保険料 | 18.3% | 54,900 | 27,450 | 27,450 | |
子ども・子育て拠出金 | 0.36% | 1,080 | 0 | 1,080 | |
社会保険料合計 | 91,440 | 45,180 | 46,260 | ||
雇用保険料 | 賃金総額 360万円/年 | 1.55% | 4,650 | 1,800 | 2,850 |
労災保険料 | 3.0% | 9,000 | 0 | 9,000 | |
労働保険料合計 | 13,650 | 1,800 | 11,850 | ||
合計 | 105,090 | 46,980 | 58,110 |
従業員の給与から天引きしたときの仕訳
法定福利費は、事業者負担分と従業員負担分を併せて会社が納付します。従業員負担分は毎月の給与から「預り金」として天引きされます。会社が代理で納付する従業員負担分を、給与支払時に一時的に預かるのです。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
給与手当 | 300,000 | 普通預金 | 253,020 |
預り金 | 46,980 |
法定福利費を納付したときの仕訳
法定福利費は、従業員から預かった従業員負担分と事業者負担分をまとめて会社が納付しますが、社会保険料と労働保険料で納付のタイミングと仕訳が異なります。
社会保険料の仕訳
社会保険料は毎月末に日本年金機構に納付します。
事業者負担分は「法定福利費」、従業員負担分は「預り金」で処理します。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
法定福利費 | 46,260 | 普通預金 | 91,440 |
預り金 | 45,180 |
労働保険料の仕訳
労働保険料は年に1回、6月1日から7月10日の間に、所轄の労働局または労働基準監督署に納付します。労働保険料の算定基礎額は年間の賃金総額となるため、年度が終了するまで金額が確定しません。
したがって、賃金総額見込額をベースに算出した概算保険料を前払いの形で納付し、翌年に賃金総額確定額をベースに確定納付を行います。
概算保険料の納付の仕訳は以下のとおりです。費用が確定していないため、費用科目ではなく資産科目の「前払費用」を使用します。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
前払費用 | 69,096 (5,758×12) | 普通預金 | 69,096 |
翌年の確定納付の際の仕訳は以下のとおりです。前年に納付した前払費用を法定福利費と預
り金に振替をします。
概算納付との差額が出た場合は、追加納付または還付となります。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
法定福利費 | 47,496 (3,958×12) | 前払費用 | 69,096 |
預り金 | 21,600(1,800×12) |
建設業では法定福利費を内訳明示した見積書が必要
建設業においては、下請企業が元請企業に工事見積書を提出する際、法定福利費の内訳を明示することが義務付けられています。
建設業界では、公平で健全な競争環境を構築するとともに、就労環境の改善による建設業の持続的発展に必要な人材の確保を図るため、社会保険等未加入対策に取り組んでいます。
法定福利費を内訳明示した見積書を活用することにより、下請企業の社会保険等の加入に必要な金額で受注できるようになり、社会保険の未加入を防ぐ狙いがあります。
出典:国土交通省公式サイト「法定福利費を内訳明示した見積書の作成手順」
まとめ
法定福利費は、従業員の福利厚生のために会社が負担する費用のうち、法律で義務付けられたものです。事業者負担分と従業員負担分があり、それらをまとめて会社が納付します。
法定福利費は大きく社会保険料と労働保険料に分けられ、保険料の種類によって計算方法が異なります。社会保険料と労働保険料では納付のタイミングや仕訳が異なることにも注意が必要です。
法人や従業員を雇用している場合、法定福利費はある程度まとまった支出となります。具体的な内容をしっかりと把握しておきましょう。