• 税務・会計

債務超過とは?貸借対照表の見方や赤字との違い、解消する方法や防ぐための対策を解説

債務超過とは?貸借対照表の見方や赤字との違い、解消する方法や防ぐための対策を解説

債務超過とはどのような財政状態か解説しています。貸借対照表(バランスシート)を確認する際のポイントや赤字・資金ショートとの違い、債務超過を解消するための方法や防ぐための対策についても紹介しています。債務超過について調べている方は参考にしてください。

債務超過とは

債務超過とは

「債務超過」とは、貸借対照表において資産より負債が多くなってしまった状態のことです。資産をすべて帳簿上の価格で売却してもなお負債が残ってしまう状態であり、会社として存続の危機を迎えていると判断されます。

 

上場企業の場合は、証券取引所の規程によって1年以内に債務超過の状態を解消しないと上場廃止になります。

 

債務超過の状態では倒産リスクが高まりますが、他に倒産リスクが高い状態として「赤字」や「資金ショート」があります。

 

赤字との違い

「赤字」とは、損益計算において費用が収益を上回った状態です。

 

債務超過は貸借対照表を基準として残高の状態を示すものですが、赤字は損益計算書を基準として一定期間における損失を示します。

 

例えば、2024年4月期で考えると、債務超過は2025年3月時点での残高状態を指す一方で、赤字は2024年4月~2025年3月の期間に損失を出したことを示します。

 

資金ショートとの違い

ショートとは、英語で「不足した」という意味を持っています。資金ショートとは、現在手元にある現預金が不足しており、支払いが困難な状態を指します。

 

債務超過は負債が資産を上回っている状態であるものの、手元に資金が残っているのであれば支払いは可能です。

 

しかし、資金ショートの状態になると、借入金の返済や取引先・従業員への支払いができず、倒産してしまう可能性が非常に高くなります。

 

債務超過を貸借対照表で判断する方法

債務超過を貸借対照表で判断する方法

会社が債務超過であるかどうかは、貸借対照表を見ればすぐにわかります。

 

貸借対照表の左側である資産の部の合計から、貸借対照表の右側である負債の部の合計を引いた金額がマイナスであれば債務超過になります。

 

また、純資産の部の合計がマイナスで表示されている場合も同様です。

 

貸借対照表(B/S、バランスシート)とは?読み方や見方、損益計算書との違いを解説

債務超過になった際に考えられる影響

債務超過になった際に考えられる影響

債務超過は財政が良くない状態であるため、その会社にとって様々な悪影響があります。

 

ここでは、債務超過になった際に考えられる影響についてそれぞれ解説します。

 

倒産する恐れがある

債務超過になっても、手元に資金が残っており取引先や従業員への支払いができるのであれば即時に倒産とはなりません。借入金の返済期日が長い場合では、その後の売上を返済に充てることで倒産を免れることもできます。

 

しかし、債務超過が常態化してしまうと資金が枯渇していき、倒産の危険性は高まります。

 

債務超過の状態が続くような状態は、倒産が迫っているものと考えましょう。

 

金融機関からの融資が難しくなる

金融機関が融資の審査を行う際は、返済が滞りなく行われるかを判断するため、過去数年分の会社の財務状態を確認します。

 

債務超過が起こっている場合、会社の財務状態が良くないという明確な判断がなされてしまいます。債務超過状態の会社は滞納リスクが高いため、金融機関にとってよほどの好条件が見出せない限りは融資を受けられません。

 

万が一融資を受けられたとしても、融資額の制限や金利の引き上げ、返済期間が短く設定されるなど、厳しい融資条件が課されるのが一般的です。

 

また、滞納リスクが高まったと判断されることにより、既に借り入れをしている金融機関からは返済期日がまだ先であっても早期返済を要求される可能性があります。

 

融資条件の悪化や早期返済の要求によりその後の資金繰りが悪化し、事業継続がさらに苦しくなってしまう恐れがあります。

 

取引先からの信用が低下する

債務超過が起こっていることが周囲に知られると、健全な経営ができていないことが示されるため、取引先からの会社の信用が低下してしまいます。

 

取引先の信用を失うと、場合によっては取引停止や契約不可などを通告されることもあります。

 

現実的には、取引先に債務超過を知られる機会は多くありません。債務超過であるという情報が取引先に渡り、その後の関係が悪化すれば、売上を伸ばして債務超過の状態を解消するのがさらに困難になります。

 

人材確保が難しくなる

債務超過で経営状態が悪いということが社内に知れ渡ると、倒産により職を失うことを恐れた従業員が転職する可能性が高くなります。

 

そうした情報が社外にまで広まると、新規の採用にも悪影響が出てしまう可能性があります。

 

上場廃止の可能性がある(上場企業の場合)

証券取引所が定める基準により債務超過の状態が1年以内に解消しない場合、その企業は上場廃止になってしまいます。

 

上場企業が債務超過になってしまった場合は、通常よりも速やかにその状態を解消しなければなりません。

 

債務超過になる原因

債務超過になる原因

債務超過になる主な原因として、大きく分けて3つが挙げられます。

 

ここでは、3つの原因についてそれぞれ解説します。

 

赤字の常態化

損益が赤字の会社は、費用が収益を上回ってしまっている状態のため、常態化すると会社から資金がどんどん無くなっていきます。

 

例えば会社の創業直後であれば、軌道に乗るまでの期間は赤字になりやすいものであるとの見方もできます。その上で黒字化の見通しが立っているのであれば、直ちに心配する必要はありません。

 

しかし、赤字が何年も続くようであれば、会社のビジネスモデル自体に問題がある可能性が高く、早急に見直しを図る必要があります。

 

資産価値の毀損

資産の評価損や特別損失によって債務超過に陥る場合があります。

 

評価損とは、会社が保有している商品や有価証券、不動産などが取得時よりも値下がりしてしまった場合に発生する損失です。例えば、会社が保有していた有価証券の時価が大幅に下落してしまい、債務超過に陥るというケースがあります。

 

また、特別損失とは、会社の本業とは関係ない要因で一時的に発生した損失です。例えば、地震や火事といった災害、盗難、労働争議や訴訟によって発生する損失が挙げられます。

 

こうした事象によって大きな損失が発生すると、債務超過になる可能性が高まります。

 

簿外債務の発生

簿外債務とは、貸借対照表に計上されない債務のことです。

 

本来、すべての債務を貸借対照表に計上する必要がありますが、買掛金や引当金などの債務が何らかの事情によって貸借対照表に計上されない場合があります。

 

例えば、他社の債務保証をしている場合やリース債務の未計上、買掛金や未払金の計上漏れなどがある場合には簿外債務が発生します。これらは後に支払いが必要となるものであるため、本来は負債として貸借対照表に計上すべきものです。

 

何かしらのきっかけで簿外債務を認識し、貸借対照表にまとめて計上することで、一気に債務超過になってしまう場合があります。

 

なお、意図的に簿外債務をそのままにしていた場合は、粉飾決算となります。

 

債務超過を解消する方法

債務超過を解消する方法

債務超過が常態化してしまうと倒産の可能性が高まるため、債務超過はできるだけ早く解消する必要があります。

 

債務超過を解消するためには、会社の収益となる資産を増やしていく必要があります。

 

ここでは、債務超過を解消する手段について解説します。

 

経営改善(利益を上げる)

債務超過を解消するためのシンプルな施策は、経営改善をして利益を上げることです。

 

利益を上げて会社に入ってくる資金や売上債権を増やすことで資産を増やし、資産額が負債額を上回ることを目指します。

 

利益を上げるためには、「売上の増加」と「コストの削減」の2つの側面からのアプローチがあります。売上は即座に増やすのが難しいため、まずはコスト削減から行い、並行して売上を増やす施策を打っていく方向性がよいでしょう。

 

例えば、業務フローの見直しやシステム導入によって人件費を削減したり、賃料の安い所にオフィスを引っ越したり、テレワークに移行して賃料を削減したりするなど、より効果が期待できるところから取り組みましょう。

 

増資

増資とは、経営者や投資ファンド等からの出資を募り新株を発行することで資本金を増やす方法です。資本金は金融機関からの融資とは違い返済期限がないため、債務超過の解消に即効性のある有効な手段です。

 

増資にあたっては、出資元を探す難しさや、経営者の持株比率が低下して思い通りの経営ができなくなったりする懸念があります。

 

また、資本金の増加により納付する法人住民税の金額が上がってしまう場合もあるため注意が必要です。税法上の優遇措置は、資本金の額を基準としているものがあり、増資によって資本金が増加すると優遇措置を受けられなくなる可能性があります。

 

DES(デットエクイティスワップ)

「DES」とは、会社の借入金などの債務を株式に転換する増資手法の1つであり、債権者に対して借入金を自社の株式に振り替えるものです。

 

借入金が自己資本に変わることによって、返済期限と借入金の利子支払が無くなるため、資金に余裕ができ、債務超過の解消に役立ちます。

 

DESを実行するには債権者の同意が必要なため、会社の独断では実行できない点に注意が必要です。

 

資産の売却

会社が遊休資産や有価証券を保有している場合、それらの売却によって得たお金を債務の返済に充てることで、債務超過を解消できる可能性があります。

 

上場している会社の有価証券であればすぐに売却できますが、遊休資産や非上場企業の有価証券はすぐに売れるとは限らないため、時間をかけて買い手を見つけることが必要です。

 

また、債務超過の解消のための手段として、不動産担保ローンの活用も検討できます。

 

債務免除

債務免除とは、債権者によって債務を免除してもらうことです。免除を受けた分だけ債務が無くなるため、認められれば債務超過の解消につながります。

 

ただし、債権者側のメリットは非常に小さいため、自社経営者からの借入金でもない限り実現が難しいのが実情です。

 

また、免除された債務分の金額は「債務免除益」として計上する必要があり、法人税や事業税が増加します。繰越欠損金が生じている場合は、その金額内に債務免除額を抑えることで税負担を軽減できます。債務免除によるみなし贈与についても留意が必要です。

 

国の制度や融資を活用する

「民事再生法」や「会社更生法」を活用することで、会社を存続させつつ債務を減額して、財務体質を改善できます。民事再生法と会社更生法はどちらも債務を圧縮できるものの、担保権の行使や現経営陣が続投できるか、かかる費用や年数などに違いがあります。

 

民事再生法では、担保権の付いた債権は整理できません。担保権が設定されている債権があり、それも整理したい場合は会社更生法の選択を検討する必要があります。

 

会社更生法では、整理できる債務の範囲が広く、管財人がワンマンで手続きを行うため、大胆な意思決定をスムーズに行えます。民事再生法では現経営陣が続投できますが、会社更生法では手続き開始に伴い現経営陣は全員退任し、管財人に経営権や会社財産の処分権が委任されます。

 

会社更生法は株式会社しか利用できないため、株式会社以外の組織形態であった場合は民事再生法を選択する必要があります。会社更生法の方が強力かつ大規模な手続きですが、民事再生法に比べてかかる費用が大きいため、実質的に大企業しか取れない手段です。処理に必要な年数も、民事再生法に比べて会社更生法の方が長くなります。

 

その他の手段として、地方公共団体が行っている制度融資、政府系中小企業金融機関の再生融資制度、新事業活動促進法の経営革新支援を活用することで融資を受けられる可能性があります。

 

必要に応じて、国や地方公共団体などの制度を活用することも検討しましょう。

 

債務超過でも活用できる中小企業支援制度

債務超過の状態でも受けられる中小企業支援制度について、以下にまとめました。

制度解説
政府系金融機関の融資制度セーフティネット貸付や事業再生支援資金など、事業再生支援を目的とした様々な融資制度が用意されています。
それぞれ利用できる融資制度や諸条件が異なるため、まずは各機関の窓口に相談しましょう。
商工組合中央金庫の事業再生・経営改善制度過剰債務の対応や経営危機への改善支援があります。
事業再生に向けた支援プログラムの作成によって、資金サポートを受けられる可能性があります。
地方自治体の融資制度債務超過の状態でも、地方自治体の融資制度を活用できる可能性があります。
まずは自治体の担当窓口に相談しましょう。
中小企業等経営強化法の経営革新支援具体的な数値目標を含んだ経営革新計画を作成し、都道府県または国の承認を受けることで、低利融資制度などの支援措置を利用できる可能性があります。
都道府県の中小企業活性化協議会すべての都道府県が設置している中小企業の支援機関で、商工会議所などが運営しています。
債務超過の解消を目的とした再生計画の作成支援を受けられます。
商工会議所の経営安定特別相談室破産や倒産の不安を抱えた中小企業向けの相談窓口です。
全国の主要商工会議所や都道府県の商工会連合会にて設置されており、弁護士など専門家に無料で相談できます。

 

債務超過を防ぐための対策方法

債務超過を防ぐための対策方法

債務超過に陥ってしまうと、金融機関から借入金の早期返済を求められたり、追加の融資が受けにくくなったりと、資金繰りが厳しくなります。その状態を防ぐためには、そもそも債務超過にならないように事前に対策しておくことが大切です。

 

ここでは、債務超過を防ぐための対策方法について解説します。

 

経営の問題点を専門家に分析してもらう

経営に課題を感じたら、専門家に相談することを検討しましょう。

 

専門家による第三者からの視点で経営の課題が洗い出されるため、自社だけでは気づけなかった問題点の発見が期待できます。課題の解決についても、第三者が入った方がスムーズに進むことも多いです。

 

AGSグループでは経験豊富な公認会計士・税理士が会社の財政状況を分析し、課題解決に向けた提案やお手伝いをさせていただいております。

 

会社の財務状況に不安がある、資金繰りに苦慮されている場合は、ぜひ一度ご相談ください。

→財務改善に関するご相談はこちらから

 

試算表(P/L・B/S)を常にモニタリングできる体制を作る

月次の会計を早期に締め、試算表の数値をモニタリングすることで、経営状態の変化にいち早く気付けます。特に貸借対照表の資産に対して、負債が大きくなってきている場合は危険信号です。

 

その他に確認すべき問題発生の兆候としては、売上の減少や原価・販管費の増加による利益の減少、現預金の減少や債務の増加などがあります。

単月では変化がわかりにくいため、数か月分や数期分の数値と比較して推移が確認できる状態を作りましょう。

 

そのためには、経理作業の早期化や、試算表・経営資料の作成、資料のチェックと方針を決める経営会議の設定など、数値情報を常にモニタリングできる体制の整備が必要です。

 

会社が抱えている経営の問題を早期に発見することで、大事になる前の対策が可能となります。

まとめ

債務超過とは?貸借対照表の見方や赤字との違い、解消する方法や防ぐための対策を解説

債務超過になると、金融機関から借入金の早期返済を迫られたり、追加の融資が難しくなったり、取引先からの信用低下や人材確保が難しくなるなど、様々な悪影響が生じます。

 

債務超過が常態化すると倒産のリスクが高まるため、可能な限り速やかに状態解消が必要です。

 

債務超過になってしまったら、自社の経営改善を図りつつ、資産の売却や増資などで財務状態の改善を進める施策を打ちます。

 

そもそも債務超過に陥らないようにするためには、専門家に協力を依頼し経営課題の分析を行うことが重要です。また、月次の試算表を定期的にモニタリングして、経営環境の変化に早期に気付ける体制を構築しましょう。

  • 水戸部 達也

    監修者

    水戸部 達也

    株式会社AGSコンサルティング
    東海エリア名古屋副支社長・税理士