外形標準課税とはどういうものか解説しています。導入された目的(背景)や対象となる法人、令和6年度税制改正大綱による変更点や構成する要素、計算方法などについても紹介しています。外形標準課税について調べている方は参考にしてください。
2024.08.08(最終更新日:2024.08.14)
外形標準課税とはどういうものか解説しています。導入された目的(背景)や対象となる法人、令和6年度税制改正大綱による変更点や構成する要素、計算方法などについても紹介しています。外形標準課税について調べている方は参考にしてください。
2024.08.08(最終更新日:2024.08.14)
外形標準課税とは、従業員数や事務所の床面積、資本金など、一定の条件を満たした法人に対して「付加価値割」や「資本割」という外形基準によって課税される法人事業税の課税制度です。
法人事業税は、基本的に赤字となった企業を除くすべての法人に課されますが、例外として外形標準課税は赤字でも課税されます。これは、外形標準課税が所得ではなく、法人の事業活動の規模を外的に示す基準で課税されるためです。
法人が事業活動を行うにあたって、オフィスや店舗につながる道路や上下水道など、公共の施設や設備が整備されている必要があります。
こうした例のように、法人の活動においては様々な行政サービスを受けていることから、必要な経費を負担すべきである、という考えに基づいて課されるのが法人事業税です。
法人事業税は法人の所得に対して課されますが、すべての法人に対して法人事業税が課されているわけではなく、地方公共団体などの公共法人には納税義務がありません。また、公益法人や人格のない社団等の場合、収益事業から生じた所得のみに課税されます。
法人事業税は地方税であり、法人の事業所がある各地方自治体に納税します。法人が2つ以上の都道府県に事業所を有している場合、法人事業税の分割計算を行います。計算方法は、課税標準を一定の割合で分割して税額を計算します。
分割基準は法人の業種によって異なり、製造業であれば従業員の数、倉庫業であれば有形固定資産の価格が基準です。
各業種の分割基準は、以下になります。
業種 | 分割基準 |
---|---|
製造業 | 従業者の数 |
倉庫業、ガス供給業 | 有形固定資産の価額 |
電気供給業 | 有形固定資産の価額と発電に使用する有形固定資産の価額 |
鉄道事業、軌道事業 | 軌道の延長キロメートル数 |
非製造業(上記以外の業種) | 事務所等の数と従業者の数 |
複数の事業を営んでいる場合、メインとなる事業の分割基準を採用します。通常は売上金額の大きい事業をメインとします。
分割基準の「数」は、事業年度内の各月の最終日における数の合計になります。
従業者とは、基本的には給与の支払いを受けるべき人のことを指しますが、経営者である個人やその親族、または同居人のうち、その事業において給与を受けずに働いている人も対象となります。
法人住民税が地域社会の一構成員としての法人自体に課されるのに対し、法人事業税は法人の事業に対して課される違いがあります。納付先についても、法人住民税が都道府県・市町村のそれぞれに納めるのに対し、法人事業税の納付先は都道府県です。
法人住民税は法人税額に対して課される法人税割と、期末資本金及び期末従業員数に応じて課される均等割があるのに対して、法人事業税は基本的に所得に対して税金が課される点でも異なります。なお、法人事業税は、事業年度終了日から2ヵ月以内に申告・納税をする必要があり、納税は法人税に即しています。
法人税には中間申告と確定申告があり、法人事業税も同様に行います。中間申告の対象となるのは、前事業年度の法人税が20万円を超えた普通法人です。
外形標準課税の対象とならない普通法人には法人事業税の「所得割」が課され、所得のうち年400万円以下の金額に3.5%、年400万円超800万円以下は5.3%、年800万円を超える部分は7.0%の税率で計算します。以下は、法人ごとの税率です。
法人区分 | 課税標準 | 税率 |
---|---|---|
資本金 1億円超の普通法人 | 付加価値額 | 付加価値割 1.2% |
資本金等の額 | 資本割 0.5% | |
所得 | 所得割 1.0% | |
資本金 1億円以下の普通法人 公益法人等 投資法人等 | 所得 | 所得割 所得のうち 年400万円以下の金額 3.5% 年400万円を超え年800万円以下の金額 5.3% 年800万円を超える金額 7.0% |
特別法人 (農協などの協同組合や医療法人) | 所得 | 所得割 所得のうち 年400万円以下の金額 3.5% 年400万円を超える金額 4.9% |
電気供給業(小売電気事業等・発電事業等を除く) ガス供給業(導管事業) 保険業 を営む法人 | 収入金額 | 収入割 1.0% |
電気供給業(小売電気事業等・発電事業等) を営む資本金1億円超の普通法人 | 収入金額 | 収入割 0.75% |
付加価値額 | 付加価値割 0.37% | |
資本金等の額 | 資本割 0.15% | |
電気供給業(小売電気事業等・発電事業等) を営む資本金1億円以下の普通法人等 | 収入金額 | 収入割 0.75% |
所得 | 所得割 1.85% | |
ガス供給業(特定ガス供給業)を営む法人 | 収入金額 | 収入割 0.48% |
付加価値額 | 付加価値割 0.77% | |
資本金等の額 | 資本割 0.32% |
外形標準課税は、平成16年(2004年)から導入されました。
法人事業税は、企業が活動を行うにあたって地方自治体から受ける様々なサービスの対価として支払う税金ですが、外形標準課税導入前は赤字の法人が事業税の支払いを免除されており問題になっていました。
法人は赤字であっても地方自治体からのサービス提供を受けているため、外形標準課税を設定することによって地方自治体からサービスを受ける法人から確実に事業税を徴収できるようにする狙いがあります。
そうした公平性確保の観点を含め、外形標準課税導入の目的は、以下の4つに整理されます。
外形標準課税の対象となる法人は、各事業年度終了の日における資本金または出資金の額が1億円を超える法人が対象です。
外国法人については、国内に恒久的施設を有し、各事業年度終了の日における資本金の額が1億円を超えると外形標準課税の対象になります。
なお、以下の法人については、外形標準課税の対象となりません。
令和6年度(2024年度)税制改正大綱により、外形標準課税が見直されました。
ここでは、改正の背景及びその内容について解説します。
改正前の外形標準課税では、資本金1億円という表面的な要素のみを課税の基準としていたため、資本金の額を減少させる減資や、分社化・持株会社化により資本金を操作して課税対象企業から免れるケースが存在していました。
こうした問題も原因となり、平成18年度と令和2年度を比べると、対象企業が2/3にまで減少しているという調査データもあります。実態を鑑み、減資や分社化・持株会社化した法人に対して新しく基準が設けられることになりました。
外形標準課税の対象が「資本金1億円超の法人」という点に変更はありません。現行の要件は維持された上で、「減資」と「100%子法人等」への対応について以下のような見直しが入りました。
当事業年度の前事業年度に外形標準課税の対象であった法人であって、当該事業年度に資本金1億円以下で、資本金と資本剰余金の合計額が10億円を超える法人
資本金と資本剰余金の合計額が50億円を超える法人又は相互会社・外国相互会社(特定法人)の100%子法人等うち、当該事業年度の資本金が1億円以下で、資本金と資本剰余金の合計額(公布日以後に、当該100%子法人等がその100%親法人等に対して資本剰余金から配当を行った場合においては、当該配当に相当する額を加算した金額)が2億円を超える法人
外形標準課税の対象となる法人の場合、法人事業税は「所得割」「付加価値割」「資本割」の3つが課されます。法人事業税は地方税であり基準が都道府県ごとに違うため、ここでは東京都の場合の税率と算定方法を例として解説します。
令和4年(2022年)4月1日以後に開始する事業年度の場合、資本金1億円以下の法人の所得割の税率は以下になります。
事業税の区分 | 税率(%) |
---|---|
年400万円以下の金額 | 3.5% |
年400万円を超え年800万円以下の金額 | 5.3% |
年800万円を超える金額 | 7.0% |
一方で、資本金1億円超の外形標準課税適用法人の場合、標準税率は1.0%、超過税率は1.18%になります。
超過税率に該当するかどうかは、以下の図を参考にしてください。
法人の所得に対して税率をかけて所得割は算定されます。なお法人の所得とは、その事業年度の益金から損金を引いた額であり、法人税の計算で使用する課税所得と同じです。
付加価値割は、単年度損益という税務上の当期の損益に収益分配額を加えた額に対して、1.26%をかけた金額になります。3つの収益分配額と、単年度損益についてそれぞれ解説します。
役員への報酬や従業員への給与など、法人税法上で損金に算入される報酬給与の額です。
その他にも、退職金・確定拠出年金・派遣会社に支払う報酬などがあり、派遣会社に支払う報酬は先方の手数料見合いを差し引いた75%分が対象となります。ただし、通勤手当は対象になりません。
純支払利子とは、支払利子から受取利子を控除した金額です。
支払利子の代表的なものとして、借入金や社債の利息の他、ファイナンス・リース取引の際にリース料に含まれる支払利子相当額も対象になります。
受取利子の代表的なものとして、預金利息や貸付利息、有価証券利息、還付加算金などがあります。
純支払賃借料は、支払賃借料から受取賃借料を控除した金額です。
事務所や倉庫、借地の他、社宅の家賃も対象になります。
単年度損益は、法人の所得から繰越損失を引く前の金額です。法人事業税の所得割の所得は繰越損失を引いた後の金額であるため、間違えないようにしましょう。
資本金等の額に0.525%をかけた金額です。
「資本金等の額」とは、法人税法上の資本金等に無償増減資がある場合の加減算をした金額と、資本金及び資本剰余金の合算額または出資金の額とを比較して大きい金額を基礎として、以下の順序で計算を行った金額になります。
対象の会社が持株会社である場合、特例の適用が受けられます。
持株会社とは、発行済株式総数の50%超を保有する子会社の株式簿価が、総資産の50%超の会社を指します。持株会社がある場合、資本割の課税標準となる資本金等の額から、当該資本金等の額に総資産のうちに占める子会社株式の帳簿価格の割合を乗じて得た金額を控除します。
課税標準となる資本金等の額 = 資本金等の額-資本金等の額×子会社株式の簿価/総資産
各事業年度終了の日における資本金の額が1億円を超える場合、外形標準課税の対象となります。
対象となる場合、法人事業税は所得割・付加価値割・資本割の3つから構成され、このうち資本割は法人が赤字であっても税金が課されます。
なお、令和6年度(2024年度)税制改正大綱により、元々外形標準課税の対象法人が減資や分社化・持株会社化によって資本金を減らし、課税対象から外れようとする行為に制限が設けられました。
これまで外形標準課税の対象ではなかった企業の方も、改めて一度内容を確認しておくことをおすすめします。