有名企業の名前で「◯◯ホールディングス」というワードをよく見かけます。何を意味するのかわからない方も多いと思いますが、これは「持株会社」のことです。今回はこの持株会社について、その定義・内容や設立前に気を付けるべきポイントについて解説していきます。
2022.08.26(最終更新日:2024.08.14)
有名企業の名前で「◯◯ホールディングス」というワードをよく見かけます。何を意味するのかわからない方も多いと思いますが、これは「持株会社」のことです。今回はこの持株会社について、その定義・内容や設立前に気を付けるべきポイントについて解説していきます。
2022.08.26(最終更新日:2024.08.14)
持株会社とは、「他の会社をコントロールするために、その会社の株式を所有している会社」のことをいいます。法律上は持株会社を親会社、株式を持たれている方の会社を子会社と呼び、こちらの方が馴染み深いのではないでしょうか。
ただし、投資目的や、相互持合いにより取引関係を強固なものにしようとする目的で通常の株式会社が他の会社の株式を所有している場合は、持株会社とはいえません。子会社の事業をコントロールする目的で株式を所有する場合のみ、持株会社と呼びます。
詳細は後述しますが、持株会社は「純粋持株会社」「事業持株会社」「金融持株会社」に区分されます。
実務では会社名に「◯◯持株会社」という社名にすることはなく、持株会社のことを英語で表現した「ホールディングス」という名称を用いる会社が多くなっています。
どのような場合に企業は持株会社化するのでしょうか。
その会社が上場か非上場か、中堅規模か大規模かによっても異なりますが、主に以下のような目的があるといわれています。
一つの事業を子会社として切り分けることで、事業会社の事業運営に対する裁量権と責任がはっきりと分かりやすくなります。
株主が持株会社だけの場合、持株会社傘下のグループ企業はそれぞれの経営意思決定について外部株主からの影響を受けにくくなり、より迅速な意思決定を下せるようになります。
グループ全体の利益向上の観点から、資金・人員・ノウハウなどの経営資源を各子会社へ再分配することで、より経営が効率化されます。
出資元がそれぞれ別の会社の株式を一つのオーナーへ集約するために、持株会社化することがあります。
株式が分散されることがなくなり、事業継承や持株会社の社長交代がよりスムーズに行える効果があります。
事業持株会社から純粋持株会社へ移行する場合や、対外的に企業買収を行うアピールとなる場合があります。
冒頭の見出しにて述べましたが、持株会社は「純粋持株会社」「事業持株会社」「金融持株会社」に区分され、それぞれに特徴があります。
純粋持株会社とは、単体では事業を営まず、子会社株式所有だけを存在目的とする持株会社のことを指します(上述したホールディングスはこの純粋持株会社を意味することがほとんどです)。
株式所有を通じて、子会社の事業運営をコントロールし、収入源は子会社からの配当金が一般的です。
事業持株会社とは、子会社の株式所有だけではなく、単体でも事業を営んでいるような持株会社のことを指します。
子会社からの配当収入のみならず、自らが運営している事業からの収益も得ます。
主たる事業があり、副次的な事業を子会社化するような場合は、事業持株会社が適しています。
金融持株会社とは、銀行・証券会社・保険会社などの金融機関の株式を所有することにより、各子会社をコントロールする会社のことを指します。金融持株会社は販売・製造などの事業活動を直接行わない点は純粋持株会社と同様ですが、子会社のほとんどが金融機関という点が特徴的です。
例えば、日本郵政は「株式会社ゆうちょ銀行」や「株式会社かんぽ生命」を子会社とし、みずほフィナンシャルグループは「株式会社みずほ銀行」や「みずほ信託銀行株式会社」を子会社とする金融持株会社です。みずほグループをはじめ、メガバンクグループのホールディングスはこれに該当します。
事業戦略に合わせて様々な組織再編手法があり、その中の一つに持株会社制度があります。
経営者がどのような経営を行うかでその組織形態も変わってきます。 持株会社は、大きく分類すると集中型と分散型の2つになります。
集中型組織とは、取締役によって構成される取締役会などの一つの機能に経営の権限が集中している組織のことをいいます。
分散型組織とは、権限が各機能に分散している組織の事をいいます。これには事業部制、カンパニー制、分社制そして持株会社制の4種類があります。
事業部制とは、製品ごと、地域ごと、顧客ごとといった区分ごとに部門を置き、それぞれの部門に権限と責任を持たせる形式です。
カンパニー制とは、上記のような部門ごとに独自に経理などの管理部門を置き、各事業部を独立した会社のように見立てる形式です。
分社制とは、各事業部門を法的に会社として独立させる形式です。
持株会社制とは、分社制により設立された会社の株式を所有して、各子会社への管理機能を高めるための形式です。
一見するとカンパニー制と同じように思えますが、カンパニー制はあくまで一つの会社内での話であり、持株会社制度は別の法人格にまで分ける点が異なります。
持株会社では、親会社が子会社の発行する株式を所有することで子会社をコントロールすると述べました。
ここでは、株式を所有することや子会社をコントロールすることについて掘り下げていきます。
株式の所有者は、株式に付与されている議決権を会社の最高意思決定機関である株主総会で行使することで、会社経営に対し意思を伝えられます。
「議決権」とは、株主総会の一員としてその決議に加わり、賛成もしくは反対意見へ票を入れることができる権利のことをいいます。
子会社の議決権を、全体のうちどの程度所有しているかによって、子会社をコントロールできる程度も変わってきます。
親会社が子会社の発行している株式の全てを所有している場合、これを「完全支配関係がある」といい、親会社のことを完全親会社、子会社のことを完全子会社と呼びます。
このとき、完全子会社の株主は完全親会社だけになり、他に反対意見をいってくる株主がいないため、完全親会社は完全子会社に対して、絶対的なコントロール力を持つことになります。
親会社が子会社の発行している株式の100%未満、50%以上を所有している場合、これを「支配関係がある」といいます。
会社経営を進めるために株主総会で決議する事項の多くは、決議の50%以上、つまり過半数の賛成票によって決議されます(決議事項の重要性によっては、過半数以上の賛成票が必要となる場合もあります)。
したがって、50%以上の株式を所有していれば、「その子会社をコントロールしている」ということです。ただし、親会社以外の株主もいる点が完全支配関係とは異なります。
会社株式の50%未満を所有している場合は支配関係にあるとはいえません。
ただし、その場合でも少数派の株主には数々の権利が法律上認められています。
例えば、1株でも所有していれば、株主名簿の閲覧請求権などがあり、一定数以上の株式を所有していれば、株主総会の議題提案権などがあります。
持株会社化することには下記のようなメリット・デメリットが存在します。
主なメリットとして、以下の3つが挙げられます。
持株会社はグループ全体に関する意思決定に集中し、実際の事業を各子会社に一任することで、迅速な意思決定が可能です。
また、その事業特有の事情を反映し、人事制度を柔軟に決めやすくなることも考えられます。
つまり、経営が効果的かつ効率的になる可能性があります。
持株会社が所有するグループ以下では、各企業が独立採算制を採っているため、各事業での責任の所在の明確化が可能です。
仮に、グループ内の一企業で損害賠償請求などの経営にとって重大な問題が生じた場合でも、他のグループ企業に影響を及ぼすことはないので、グループ全体でのリスクヘッジとなります。
グループ外から企業を買収してきた場合、持株会社の企業グループとして位置づけることが容易になるため、迅速かつ潤滑な買収手続が可能です。
また、新しく買収した企業が他の子会社と企業文化・慣習の面から衝突を起こすような場合でも、親会社たる持株会社がコントロールする機能を発揮できるため、企業間の衝突を避けやすくなります。
主なデメリットとして以下の3つが挙げられます。
グループ内の各子会社は、それぞれの責任で独立採算制を採っており、経営方針も会社ごとに裁量があることが多くなっています。
そのため、場合によっては他の子会社間同士で連携がうまくいかなかったり、グループ全体に不利益な影響があったりする可能性もあります。
グループ会社ごとに部門や部署が重複し、グループ全体でみれば、かえってコストがかかりやすくなってしまう構造です。
これについては、グループ企業内の総務・経理などの間接業務を一か所にまとめるシェアードサービスセンターを活用することで、重複するコストを削減できるといわれています。
持株会社制度を用いる場合、親会社では単体の財務諸表だけでなく、連結決算という企業グループ全体での経営成績・財政状態をまとめた連結財務諸表を作成しなければ、グループ全体が見えなくなります。
そのため、連結会計の実務に秀でた経理能力を持つ人材が必要になります。
持株会社を設立する意味や制度上のメリット等について解説してきましたが、実際に設立する場合どのようなことを検討する必要があるのでしょうか。
設立前にチェックすべきことについて述べていきます。
まず持株会社を設立するにあたって、その目的を具体的に表現することが必要となります。
その目的に沿って、より適切な組織体系を目指していきます。
設立にあたっては、企業結合に関する会計基準や事業分離に関する会計基準等、また運用に関しては、連結決算への対応等、特有の会計ルールに則る必要があります。
税務については、設立時には組織再編税制、運用時にはグループ法人税制や、場合によってはグループ通算制度の導入の可否といった特有の税制に対応することも必要です。
新しく会社を設立する場合はもちろんのこと、例えばグループ外から企業を買収してグループ傘下に収める場合、その会社の既存従業員に少なからず影響を与えます。
新たな労働契約、就業規則の整備や退職金の発生について検討を進め、できる限り従業員の不安を取り除き、事業運営に極力影響が出ないようにするのが大切です。
法務関連の手続きにおいて、法的効力が発生する日から逆算して計画を立て、効力発生のために必要な書類や手続きを漏れなく実行する必要があります。
実務において組織再編のための手法は様々ありますが、手法によって手続完了のタイミングが異なるため、法務に強い人材や外部専門家の力を借りつつ、いつどんな手続が発生するかを考慮して緻密に計画しましょう。
持株会社には多数のメリット・デメリットが存在し、実行するためにはさまざまなことを検討する必要があります。
事業を多角化・発展させていきたいと考えている経営者にとっては、有効な手段となるでしょう。
この記事を参考にして、持株会社設立について考えてみてください。