【タイ進出】外国人事業法について

【タイ進出】外国人事業法について

企業等がタイヘの進出を考えた際、いくつかの進出形態がございます。要件等により100%出資が可能なケースもございますが、通常、外国法人は外資比率50%未満での出資となります。また、業種によっては進出不可のケースや別途ライセンスが必要なものもございますので、そちらについてご説明させていただきます。

 

※本稿は、みずほ銀行発信の『Asia Gateway Review』2024年2月号に寄稿した記事の転載になります。Asia Gateway Reviewはみずほ銀行シンガポール支店で編集され、主にASEAN関連のテータを中心に月一回発行されているニュースレターです。

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1. はじめに

本稿では、タイにおいて外国人(外国企業)として定義される自然人(法人)が規制対象となる外国人事業法及びその規制を緩和する投資奨励法について取り上げます。

2. 進出形態

まず、タイでの進出を考えた際の事業拠点の形態は、下記のとおり主に3つとなります。

A) 現地法人

タイでも日本同様、株式会社制度を採用しています。すべての株主が間接有限責任を負う形態であり、株主の譲渡制限の有無により非公開会社と公開会社に分けられます。タイに進出している多くの日系企業は非公開会社となり、発起人及び株主2名(以前は3名であったが、2023年2月7日の民商法改正により変更)にて設立が可能となります。

B) 支店

主に本店から遠隔にある地域において、本店と同様の営業展開をするために必要に応じて設置された事務所であり、営業活動が可能な進出形態となります。ただし、外国企業の支店が事業の認可を受けるには、活動資金として最低300万バーツをタイ国内に持ち込むことが必要となる他、外国人事業法による制限があるため、銀行等の金融業以外の設置は少ないのが現状となります。

C) 駐在員事務所

主として情報収集当の限られた「非営利活動」行うことを目的として登録される事務所となります。租税条約上の「恒久的施設(Permanent Establishment)」とみなされないことから、法人税課税は受けないものの、商行為(収入を得ることやタイ国内での商談行為など)を行うことができません。

タイヘの進出に当たり、主に上記3つの事業形態において法人または事務所を設立することとなりますが、外国人(外国法人)は外国人事業法により、制限を受けることとなります。そのため、外国人事業法について後述します。

3. 外国人事業法

外国人事業法(1999年改正、2000年3月施行)第4条に基づき、「外国人」とは以下の通り、定義されております。

A) タイ国籍を有していない自然人

B) タイ国内で登記していない法人

C) AまたはBに該当する者が、資本である株式を半数以上保有する法人、あるいはAまたはBに該当する者が、全資本の半分以上を投資した法人

D) Aに該当する者が業務執行社員または支配人として登録された合資会社または合名会社

E) ABまたはCに該当する者がタイ国内で登記し、資本である株式を半数以上保有する法人、あるいはABまたはCに該当する者が全資本の半分以上を投資した法人

また、規制業種を3種類43業種に分け、 それらの業種への外国企業(外国資本50%以上)の参入を規制しております。

I. (9業種) 外国企業の参入が禁止されている業種の通りです。

  1. 新聞発行・ラジオ局事業・テレビ放送事業
  2. 農業・果樹園
  3. 畜産
  4. 林業・木材加工
  5. タイ海域・経済水域内における漁業
  6. タイ薬草の抽出
  7. 骨董品(取引・競売)
  8. 仏像および僧鉢の製造・鋳造
  9. 土地取引

Ⅱ.(13業種) 国家安全保障または文化、伝統、地場工芸、天然資源・環境に影響を及ぼす業種として、 外国企業の参 入が禁止されている業種は以下の通りです。 ただし、内閣の承認により、商務大臣が許可した場合は可能となります。

  1. 製造・販売 ・補修
    銃 銃弾 ・ 火薬・爆発物及びそれらの部品、 武器および戦闘用船・飛行機・車両、 全ての戦争用備品・部品
  2. 国内陸上・海上・航空運輸および国内航空事業
  3. 骨董品・民芸品販売
  4. 木彫品製造
  5. 養蚕・絹糸・絹織布・絹織物捺染
  6. タイ楽器製造
  7. 金銀製品・ニエロ細工・黒金象眼・漆器製造
  8. タイ文化・美術に属する食器製造
  9. サトウキビからの製糖
  10. 塩田·塩土での製塩
  11. 岩塩からの製塩
  12. 爆破・砕石を含む鉱業
  13. 家具および調度品の木材加工

Ⅲ.(21業種)外国人に対して競争力が不十分な業種であるとして、外国企業の参入が禁止されている業種は以下の通りです。ただし、外国人事業委員会の承認により、商務省事業開発局長が許可した場合は可能となります。

  1. 精米・製粉
  2. 水産物の養殖
  3. 植林
  4. ベニア板·チップボード・ハードボード製造
  5. 石灰製造
  6. 会計サービス
  7. 法律サービス
  8. 建築設計サービス
  9. エンジニアリングサービス
  10. 以下を除く建設業
    ・外国人投資が5億バーツ以上で、特殊な技能を要する建設業(インフラ、通信など)
    ・その他の省令で規定された建設業
  1. 以下を除く代理·仲介業
    ・証券・農産物の先物取引、金融商品売買に関するサービス
    ・同一グループ内の生産に必要な財取引
    ・外国人資本1億バーツ以上の国際貿易仲介
    ・その他省令で規定された代理・仲介業
  2. 骨董品・美術品以外の国際間競売、その他省令で定める競売
  3. 伝統的な国内農産物または法令で禁止されていない農産物の国内取引(農産物の先物取引を除く)
  4. 最低資本金1億バーツ未満または1店舗あたり最低資本金2,000万バーツ未満の小売業
  5. 1店舗あたり最低資本金1億バーツ未満の卸売業
  6. 広告業
  7. マネージメントを除くホテル業
  8. 観光業
  9. 飲食物販売業
  10. 植物の繁殖・品種改良事業
  11. 省令で定めるものを除くその他サービス業

さらに資本金についても、外国企業の最低資本は200万バーツ以上が必要となります。ただし、外国人事業法の規制業種 に基づく、特別の認可を取得する必要のある業種の場合は、原則として最低資本は300万バーツ以上として規制されております。

端的に申し上げますと、外資企業は実施できる事業が限られており、かつ、外資比率は50%未満の会社のみ設立が可能となります。また、製造業は100%比率での設立も可能であるものの、組み立て工程のみである場合等、全ての製造業が100%比率であるわけではなく、50%未満での設立となるケースがあることも留意が必要となります。

4. 終わりに

タイでは上述のとおり、外国人事業法による外資規制を行い、自国資本保護政策を行っております。一方で、外資誘致政策として投資奨励法による規制緩和を行っている側面もございます。タイはこの規制及び政策を使い分け両立させることで自国の経済発展を促しております。

通常であれば外国人事業法により外資比率が50%未満の法人しかできない一方で、投資奨励法の条件を満たすことで外資比率を50%以上とした法人の設立が可能であることや各種恩典を受けることも可能なケースもあるため、適切な専門家への依頼相談をすることが重要となります。

【参考資料・ウェブサイト】
DBD(タイ商務省事業開発局)

監修者

  • 山嵜 正博

    株式会社AGSコンサルティング
    シンガポール支社・米国公認会計士

    山嵜 正博

    会計システム開発中に米国公認会計士を取得し、監査法人に入所。主に上場企業に対する会計監査及び決算支援の業務に携わる。

    2022年株式会社AGSコンサルティングに入社。2023年、AGSコンサルティングタイデスクとして来タイ。海外進出支援、会計税務の実行支援、内部統制支援、クロスボーダーの財務デューデリジェンスなどの、日系企業のタイ展開を総合的にサポートしている。