目標管理制度(MBO)の徹底ガイド|概要から適切な運用方法までまとめて解説

目標管理制度とは、企業組織内において個別またはグループごとに目標を設定し、それに対する達成度合いで評価を決めるマネジメント手法です。今回は、 目標管理制度のメリットを最大限に発揮するためのポイントや、導入プロセスなどについて解説していきます。

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目標管理制度(MBO)とは何か

目標管理制度(MBO)とは何か

目標管理制度とはどのような内容なのでしょうか。まずは、目標管理制度の概要や目的について解説していきます。

目標管理制度の概要

目標管理制度は、英語で「Management by objectives」といい、MBOと略されます。直訳すると「目標によって管理する」という意味です。少し紛らわしいですが、「目標を管理する」という意味ではないことに注意が必要です。

目標管理制度では、目標を立てるのは「自分自身」です。企業は、従業員の目標とその達成度合いを管理・評価します。目標管理制度は、企業や上司から強制されたり命令されたりするのではなく、従業員が自ら目標を決めて行動できることが特徴です。

そのため、仕事へのモチベーションを向上させる効果があるといわれています。これが「目標によって管理する」という意味です。

目標管理制度の目的

目標管理制度の根底には、「従業員が企業や組織のことを考え、積極的に行動していく状況をつくりだす」という目的があります。人から強制されて業務をするのではなく、自分の考えや想いを活かしながら働ける職場環境は、やる気を維持しやすく、成果にもつながります。

そのため、上司の細かなマネジメントがなくても自己成長していける従業員を育成することが、目標管理制度の最終目的といえるでしょう。目標管理制度を適切に運用すると、優秀な人材の確保や企業の業績向上、従業員満足度の向上、マネジメントコストの削減などさまざまなメリットにつながる可能性があります。

目標管理制度が確立された背景

目標管理制度が確立された背景

なぜ多くの企業において「目標による管理」が制度として確立したのでしょうか。ここでは、目標管理制度が生まれた背景や日本企業への定着度について解説します。

目標管理制度が生まれた背景

「目標による管理」を最初に提唱したのは、「マネジメントの父」として現代の組織運営に多大な影響を与えているピーター・ドラッカーです。

彼は、1954年に著した「The Practice of Management(邦訳:「現代の経営」)において、目標管理の大切さを説いています。彼自身はユダヤ系であり、ナチスの迫害を避けてイギリスやアメリカに移住した経験などから、「良い組織であるかどうかに人種は関係なく、仕事の成果や結果で人を判断していくことが重要」という考えを持っていました。

「目標による管理」は、人種や性格的特性を超え、従業員の自由な意思と主体性を評価していくことで、各人の幸福と組織全体の活性化を目指すというドラッカーの人間観・組織観が基礎になっているのです。

日本における定着の状況

「現代の経営」は1965年に邦訳され、日本でも大いに注目されました。しかし、ドラッカーの真意に当てはまる「人を幸福にする組織づくり」はあまり着目されず、成果を上げられないままブームは過ぎ去りました。

その要因は、「ノルマ主義」や「成果主義」「売上至上主義」など、結果を重視するだけの制度になってしまった点にあります。多くの企業において、目標とは「売上をあげること」であり、自主性とは「勝手に成果を出してくれること」であると解釈されてしまったのです。

従業員を機械的にマネジメントする方法は、本来の「目標による管理」の目的とは裏腹なものでした。「目標による管理」は、アメリカでマネジメントのためのツールとして取り入れられたのに対し、日本では現在でも人事評価のための基準として使われる場面が多いです。

その他の人事評価に関する手法との違い

その他の人事評価に関する手法との違い

目標管理制度のほかにも、「目標」をキーワードにしたマネジメント方法は複数存在します。ここでは、目標管理制度とその他の人事評価制度との違いについて解説します。

業績評価制度(OKR)との違い

業績評価制度(OKR)とは、「Objectives & Key Results」の略称です。Objectivesは「達成目標」、Key Resultsは「主要な成果」という意味になります。

業績評価制度では、まず企業全体における達成目標と主要な成果を設定します。この目標はとても高度なものにすることが多く、その目標とリンクさせながらチームやメンバー個人の目標を設定していきます。企業の全体目標に向かって、チームや個人が取り組みます。

業績評価制度は目標管理制度と違い、達成できるかどうか分からない高い目標を設定します。達成率も5~6割で良いとされており、大きな目標に挑戦する姿勢を重視するマネジメント手法です。そのため、目標を確実にクリアすることが大切な目標管理制度と目的や運用が異なるといえるでしょう。

KPI管理との違い

KPIとは、Key Performance Indicator(重要業績評価指標)の略称です。KPI管理では、達成しなければならない最終目標を設定し、そこにたどり着くまでにクリアしなければならない中間指標をいくつか定めます。これらの中間指標を一つひとつクリアしていくことで、必要なプロセスを確実に実施し、目標に到達しやすくなるのです。

KPIのメリットは、大規模かつ中長期のプロジェクトなどにおいて、一歩一歩確実な進行と的確な進捗管理ができる点です。KPI管理では、組織やプロジェクトの目標達成を第一にしているので、目標管理制度のような自主性を重視した目標設定は行われません。

ノーレーティング(No Rating)との違い

ノーレーティング(No Rating)は、直訳では「ランク付けしない」という意味になります。

こちらは、従業員をランク付けせず、数値や記号を使わないで評価するマネジメント手法です。ノーレーティングの評価は常にリアルタイムで行われ、従業員は自分の仕事の進み具合に対し、客観的なフィードバックを受けられます。

上司との対話や従業員の自主性、個人の強みなどが重視される点で目標管理制度と類似していますが、ノーレーティングは従業員に目標設定や評価への納得感を与え、業務のスピードや多様性に対応していくために行われます。

目標管理制度のメリット・デメリット

目標管理制度のメリット・デメリット

ここからは、目標管理制度におけるメリットとデメリットについて解説していきます。

目標管理制度のメリット

評価しやすい

目標管理制度の最終目標は人事評価ではありませんが、評価する際に分かりやすい指標となります。数値など客観的な目標設定がされるため、達成したかどうかの判断も容易です。

また、自分で立てた目標なので、なぜ達成できたのか・できなかったのかという点は従業員自身が一番理解しています。評価される従業員にとっても、透明性が高く納得感のある評価ができるのです。

モチベーションが向上する

一般的に、従業員の目標は企業や上司が決定します。しかし、目標を達成するまでには少なからず労力がかかります。

そのため、従業員の性格や企業の雰囲気、目標の内容によっては「強制されている」「負担を強いられている」と感じる状況が生まれるでしょう。このような感情は、従業員のモチベーションを削いでサボりや離職につながる可能性があります。

上述したように、主体的に取り組める環境はポジティブな感情を生み出します。また、達成することで企業に貢献していると実感できると、組織における自分の役割や存在価値を感じられるでしょう。そのため、適切な目標管理制度の運用は、従業員のモチベーションを向上させる効果があります。

組織の一体感が高まる

目標管理制度においては、上司と部下のコミュニケーションが重要な役割を果たします。企業や組織、個人にとって適切な目標を設定するためには、さまざまな角度からお互いの考えを話し合う機会が必要です。

また、目標を一つひとつ達成していくプロセスを報告したり、フィードバックしたりすることで、「目標」を起点に上司と部下の間に交流の機会と信頼関係が生まれます。目標管理制度の適切な運用は、豊かな職場環境を形成して離職やメンタル不全の防止にも一役買うでしょう。

目標管理制度のデメリット

ノルマ主義に陥りがち

企業組織で最も重要な目標は「売上目標」です。目標管理制度において目標を設定する際、売上目標をメインに置く企業は少なくありません。

いくら自主的に定める目標とはいえ、低すぎる売上目標は認められにくいでしょう。そのため、結局は企業が求める程度の売上目標を設定することになり、目標管理制度が形骸化してしまうのです。

形骸化した目標管理制度はノルマ主義と変わらず、企業や上司から課せられたノルマをこなさなければならない状況になります。これでは、自主性が育たず、目標管理制度のメリットを活かせません。

自律的なメンバーが少ないと評価者に過度な負担がかかる

目標管理制度では、「目標を達成しているかどうか」が重要な評価ポイントになります。

そのため、上司は常に部下の目標をチェックし、達成できているか、つまずきは無いかを管理しなければなりません。目標管理制度によって従業員の自主性が育つと、結果としてマネジメントの負担は軽減されますが、そこにたどり着くまでにはかなりの労力がかかるでしょう。

実際、「仕事が忙しくて余裕が無い」「面談に時間がかかるので面倒」といった理由で目標管理制度を導入しない企業は少なくありません。

設定した目標以外のことをしなくなる

目標管理制度では、設定された目標を達成したかどうかが評価のポイントとなりますが、実際の業務には定量的な目標で測れないような定性的な業務や役割が存在します。

目標の達成と人事評価を100%リンクさせてしまうと、後輩へのアドバイスやオフィスの掃除などといった「メインではないが大切な業務」が、おざなりになってしまう可能性もあります。自分の目標だけに取り組むのではなく、会社のための行動が評価される仕組みづくりをしましょう。

目標設定のポイント

目標設定のポイント

目標管理制度を適切に運営するためには、最初の目標設定が重要です。

目標は、企業側が押し付けるものであってもいけませんが、従業員に任せると的外れなものになる可能性があります。達成可能な目標の立て方として注目を集めているのが「SMARTの法則」と呼ばれるもので、目標設定において非常に効果的であるとされています。

ここでは、SMARTの法則に基づいた目標設定のポイントを解説します。

SMARTの法則とは

SMARTの法則は以下のような頭文字を取った言葉であり、この5つの因子を満たすことで適切な目標の設定と達成ができるとされています。

  • Specific:具体的、分かりやすい
  • Measurable:計測可能、数字になっている
  • Achievable:同意して、達成可能な
  • Relevant:関連性
  • Time-bound:期限が明確、今日やる

Specific:具体的で分かりやすい目標設定

目標は、できる限り具体的な指標を用いて設定するようにしましょう。

「努力します」「頑張ります」「意識します」といった、成果を測定できない目標は不適切です。

「営業活動に力を入れる」という目標ではなく、「どういったタイミングで」「どの客層を狙って」「どのようなアプローチをするか」といった具体的な文言で表すと、達成度合いを観測しやすくなります。

Measurable:定量的で計測可能な目標設定

「定量的で計測できること」も目標設定のポイントの一つです。例えば、「できるだけたくさんの顧客に訪問する」では、何件以上訪問したときに目標達成といえるのか不明瞭です。

また、「できるだけ」ということは、そのときの状況によって、可能な訪問件数が変化してしまうということです、これでは適切な評価ができません。

このような状況を避けるため、「毎月〇〇件の顧客訪問をする」といったように、目標のなかに根拠のある数値を入れましょう。目標として設定した数値よりも多いのか少ないのかで判断することで、客観的で的確な評価ができます。

Achievable:達成可能な目標設定

設定する目標は、従業員が達成可能な範囲で、企業や組織が求める基準を満たしている必要があります。

いくら達成度合いを評価されるからといって、容易に達成できる目標を設定しても意味がありません。目標達成のプロセス上に、従業員にとっての「挑戦」や「成長」の要素を含めつつ、努力することで達成できる目標レベルを定めることが大切です。

ただし、高すぎる目標はかえって従業員のモチベーションを下げる可能性があるので、目標レベルの設定には注意しましょう。

Relevant:関連性のある目標設定

目標管理制度は、人が「働くこと」のなかに意味を見出し、豊かな人生を形成することを目的にしています。

そのため、目標を達成したその先に自身の将来の夢や計画が実現するビジョンが描けることが重要です。

企業の発展やチームの成長といった、会社の利益だけを目標とするのではなく、社員本人の自己成長や幸福感などと関連付けると良いでしょう。

Time-bound:期限が定められた目標設定

目標達成までの期間は、3~6ヶ月の範囲で設定します。

この期間があまりに短いと大きな目標は達成できず、働き方にも無理が生じます。一方、あまりに期間が長すぎると目標そのものが古くなってしまったり、モチベーションを維持できなくなったりする可能性があります。

そのため、目標を設定する際は「いつまでに達成する」といった時間軸をしっかりと意識することが大切です。

目標管理制度の導入プロセス

目標管理制度の導入プロセス

企業の方向性を定める

目標管理制度において、従業員個人の目標を適切に設定するためには、企業全体の目標がしっかりと定まっていなければなりません。

例えば、ある従業員が「顧客満足度の向上」を目標に掲げたとします。お客様のためを考えて行動する姿勢は素晴らしいものですが、従業員個人の解釈でいろいろな取り組みをしているうちに、企業の考え方とズレてきてしまう可能性があります。

このように、あらかじめ企業がしっかりとした方向性を定めていなければ、従業員は適切な目標を設定できません。目標とする内容は決して強制されるものではありませんが、従業員を良い方向にサポートするためにも、企業側が目指すべき方向性を定めておくことが大切です。

測定しやすい部署から導入する

目標管理制度を導入する場合、目標が設定しやすい部署から導入すると良いでしょう。例えば、営業部など定量的な目標を設定しやすい部署は目標管理制度と相性が良いといわれています。

一方、間接部門(総務、人事、経理、社内ITなど)で導入しようとしても効果が出にくいことがあります。これらの部署は、達成するべき目標が営業職などに比べると数字で見えにくく、行動を起こしてもすぐに結果が見えてこない場合が少なくありません。

そのため、これらの部署で目標管理制度を導入する場合は、全体の業務を細分化し、達成度合いが定量化しやすい業務のみ適用するなど、工夫が必要です。 まずは営業部などで目標管理制度のノウハウを蓄積し、効果的な運用ができるようになってから他の部署に導入していくと良いでしょう。

マネジメント体制を構築する

目標管理制度を「ただのノルマ主義、成果主義」と思っている人は多いため、部下と重要な接点を持つミドルマネジメント層は、特に制度の理解度を深めてもらうことが重要です。

現場のプレイヤーと管理職の役割を担うプレイングマネージャータイプの場合、自分ができた業務や目標を部下にも設定させてしまう場合があります。上司のなかに「自分のときはこれくらいできたので、部下もできるはずだ」といった考えがあると、それに合わせて部下も目標を設定せざるを得ない状況になりがちです。

これでは、本当に自分が取り組みたいことが目標のなかに盛り込めないだけでなく、到底達成不可能な目標を設定することになってしまうでしょう。目標管理制度では、あくまで従業員の想いを起点に主体性を大切にした目標設定が望まれます。

制度にしばられず、臨機応変に

業務を遂行する過程では、さまざまな出来事があります。

例えば、会社の経営が急にうまくいかなくなったり、これまでの仕事内容を一変させなければならない状況が発生したりすると、せっかく設定した目標が実現不可能になることがあります。設定した目標がそのまま放置されたり、目標の内容を忘れてしまったりすることも少なくありません。目標は状況に応じて柔軟に変化させていくことが大切です。

また、目標管理制度だけに偏った評価をしていると、目標が達成できなかった従業員が自信を失ってしまう状況も発生します。そのため、設定した目標以外にも、従業員の魅力を発掘する「360度評価」など、ほかの人事評価手法を取り入れて誰もが納得して働ける体制を構築することが大切です。

まとめ

目標管理制度は、「目標」をキーワードに従業員のポジティブな働き方をサポートする制度です。この「目標」は、企業の意向に沿う必要がありますが、できる限り従業員の自主性のもと設定することが大切です。

目標を達成する気持ちよさや、組織から認められる安心感を形成するマネジメント手法として目標管理制度を活用し、豊かな職場づくりに役立てましょう。

  • 監修者
    杉浦 亮介

    株式会社AGSコンサルティング
    HRコンサルティング事業部長

    杉浦 亮介

    お客様の半歩先の事業構造に合わせた人事制度、後継者育成計画コンサルティングを提供している。