昨今、経済活動の大部分が情報技術(IT)と切り離せなくなっており、情報化戦略の立案やIT投資の決定を求められる企業が少なくありません。CIOは、このような現代において企業の競争力を高めるために重要な役割を担うポジションといえます。この記事では、CIOの役割や求められるスキル、CTOやCDOとの違いなどについて解説します。
目次
- CIOとは
- CIOの歴史・背景
- CIOの役割
- 情報を活用した経営戦略の立案・実行
- 業務プロセスの改革
- 新しい情報・デジタル技術の導入
- 情報技術に関するリスク管理
- CTO、CDOとの違い
- CTOとの違い
- CDOとの違い
- CIOに求められるスキル
- 経営者としての視点
- ITリテラシーの高さ
- 情報セキュリティ意識の高さ
- マネジメントスキル
- CIOを設置する効果
- 情報技術に関する投資が効果をあげやすくなる
- 環境変化に対応した経営ができる
- 顧客満足度や従業員満足度が向上する
- CIOを設置する方法
- 従業員の中から育成・登用する
- 外部から採用する
- 専門家を派遣してもらう
- まとめ
CIOとは
CIOとは、「Chief Information Officer」の略で、最高情報責任者と訳されます。
ほかにも「情報システム担当役員」や「情報統括役員」など、企業によってさまざまな呼び方があります。「情報」と付くことからも分かる通り、主に情報化戦略を立案し、実行する役割を担います。
CIOの歴史・背景
CIOは、アメリカや欧州などの情報先進国における企業では重要なポジションと位置付けられており、ハイレベルなキャリアパスと認識されています。日本でも、情報技術の活用が重視されるなかで徐々に注目され始めました。
しかし、これまで日本企業におけるシステム開発では、SIerなどのベンダー企業に全委託するものが多く、CIOの存在はあまり重要視されていませんでした。これには、情報技術と自社の経営戦略が深く結びついてこなかったという背景があります。
近年は、DX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組む企業が増えていることから、自社でIT人材を抱える重要性が浸透してきました。しかし、長年外注先に頼ってきた多くの企業は、社内のIT人材育成やノウハウの蓄積が進んでおらず、CIOを設置して本格的にDXに取り組むまでには至っていません。2020年に一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)がおこなった調査によると、専任・兼任を含めCIOを設置している企業は15%程度という結果が出ています。
このように、日本においてCIOの重要性は浸透していない企業が多いのが実状です。
出典:一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)「企業IT動向調査報告書 2021」
CIOの役割
CIOは具体的にどのような役割を担うのでしょうか。
情報を活用した経営戦略の立案・実行
CIOで最も重要な役割は、企業経営における情報技術の活用と管理、そして情報を活用した経営戦略の立案・実行です。
顧客情報や製品情報、マーケット情報など、企業は日々さまざまなデータを蓄積しています。これら膨大なビッグデータのなかには、事業に革新をもたらし、大きく前進させる重要な情報が隠れている可能性があります。
情報を活用した経営戦略の立案・実行は、これらのデータを可視化し、企業経営に役立つ形に整えていくことから始まります。そして、有用なデータと適切なシステムを合わせることで新たな可能性を見出し、事業を合理化・効率化します。CIOには、このような情報活用の流れの整備を指揮する役割があります。
業務プロセスの改革
業務プロセスの改革に向けて、ITリソースを調達し管理することも、CIOが担う役割の一つです。
少子高齢化による労働人口不足が叫ばれるなか、古いシステムや人間の手作業に頼っていては、それらが事業発展の重い足かせとなる可能性があります。そのため、CIOは社内の部署ごとに業務プロセスを正しく分析し、効率性や生産性の面で最も適したシステムを選択・導入していきます。
新システムの導入や既存業務プロセスの刷新は、多大な労力を要します。これは、大企業はもちろんのこと、中小企業においても同様です。CIOは確かな知識とリーダーシップをもって、情報を活用する経営戦略に沿った情報技術の導入・活用を主導し、企業DXを推し進めていきます。
新しい情報・デジタル技術の導入
情報技術関連の技術発展はめざましく、次々と便利な技術が登場しています。例えば、近年では産業分野でAIの活用が進んでおり、生産性の向上や労働力不足への対応などさまざまな課題を解決しています。
CIOは、このような情報をいち早くキャッチし、新しい情報技術を取り入れることで業務改善や経営課題を解決できるか、事前に効果検証を行いつつデジタル技術の導入を推進します。
情報技術に関するリスク管理
情報技術は利便性が高い反面、機密データの漏洩や改ざんなどの危険を伴います。
CIOは、これらの情報技術に関するリスクマネジメントについて責任を負う役割もあります。特に、政府や教育、製造、医療分野などにおいてセキュリティ対策は非常に重要です。企業の信頼性を確保する為に、CIOの役割の大部分を情報技術のリスクマネジメントとする企業もあります。
システムやセキュリティソフトをすべて一新できれば良いのですが、実際は古いシステムを改修して使い続けている場合や、いくつかのシステムを組み合わせて長年使っている企業も少なくありません。CIOは、このような複雑な状況を正確に把握し、リスクを管理する必要があります。
CTO、CDOとの違い
CIOと類似する言葉に、CTOやCDOがあります。同じような役職と思われがちですが、三者にはそれぞれ異なる役割があります。ここでは、CIOとCTO・CDOの違いを解説します。
CTOとの違い
CTOは「Chief Technical Officer」の略であり、技術関連最高責任者と呼ばれる役職です。CIOとCTOは、いずれも技術部門を管轄する役職である点が共通しています。
しかし、CIOが情報技術に特化した役職である一方、CTOは情報技術を含めた企業の技術全般を管轄する役職です。CTOは、自社の製造技術や研究開発などを担い、専門的な知識で自社の製品やサービスの改善・向上を目指します。
これに対してCIOは、企業全体の業務内容やプロセスを把握し、情報技術を活用した業務の改善や経営戦略の実現を目指します。ただし、企業によってはCTOがCIOの役割を兼ねることもあります。
CDOとの違い
CDOは「Chief Digital Officer」または「Chief Data Officer」と呼ばれる役職であり、最高デジタル責任者あるいは最高データ責任者を意味します。CIOとCDOはいずれもデジタルデータに関わる責任者ですが、これら2つの役職にも相違点があります。
CIOは、社内の業務プロセス改善や、情報セキュリティ対策、システム導入など、「内部から」情報技術を利用していきます。業務効率化や既存システムの活用など手堅い戦略を採る場合が多く、企業のIT部門を統括する役割を担います。
一方、CDOはデジタルデータを活用した幅広い戦略を統括し、組織を横断したデジタル改革や新たな事業モデルの開発など、より広い視野で経営を俯瞰し、新たなアイデアを創出することが求められるポジションです。必要な能力には、デジタルマーケティングやデータアナリティクスなどがあり、自社や顧客、競合他社に関するビッグデータを解析しながら、顧客の満足度向上や課題を解決する役割を果たします。
両者は似た領域で活躍しますが、CDOにはデジタルや情報技術を活用した経営スキルが求められ、CIOにはデジタルや情報技術の適切な運用やセキュリティとの整合性を保つ役割が求められます。ただし、日本においてはこの二つの職種は役割が明確に区別されていないことも多いのが実状です。
CIOに求められるスキル
CIOにはどのような能力が必要なのでしょうか。ここでは、CIOに求められるスキルについて解説します。
経営者としての視点
情報技術を活用した経営戦略の策定や実行は、コストや時間を必要とするため、すべてが企業にとって「投資」であると言えるでしょう。
CIOは、この投資を行うべきか、しっかりと判断する必要があります。目先の効果や損失にとらわれるのではなく、中長期的に見て、事業にポジティブな影響を及ぼすかどうかを判断するなど、経営者としての視点が必要不可欠です。
ITリテラシーの高さ
ITリテラシーとは、情報技術全般を理解し、使いこなす力のことです。CIOを務める人であれば、パソコンやインターネットに関する基本的な知識のある人が大半です。
また、パソコンやスマホ、インターネット、SNSなどの情報ツールは日進月歩で進化しています。一昔前は、SNSを広報活動などの事業に活用する企業はごくわずかでしたが、今やSNSマーケティングは企業広報の基本となっています。CIOは常に新しいものに興味を持ち、メリットやデメリットを学んでいく姿勢が大切です。
情報セキュリティ意識の高さ
CIOには、情報技術を活用した戦略的な経営視点だけでなく、セキュリティ意識の高さも求められます。戦略を実行する行動力に加え、会社を情報セキュリティリスクにさらさないための、危機意識を常に持っていなければなりません。企業システムがサイバー攻撃にあった際に、適切に対処できる能力はもちろんのこと、想定しうるセキュリティトラブルを未然に防ぐ備えも必要です。
ときには社内の新企画に対して、情報セキュリティリスクの面から見直しを求めることもあるでしょう。CIOは情報技術のトップを担う役職として、冷静な判断力と決断力が必要です。
マネジメントスキル
CIOは、情報技術に関連したプロジェクトにおける責任者としての立場もありますので、プロジェクトメンバやステークホルダに配慮しながら、プロジェクトを推進する必要があります。
CIOの管轄する範囲は社内のすべての情報技術に関連する分野であるため、さまざまな部署の責任者と良好な関係を構築することで、プロジェクトは進めやすくなるでしょう。
このように、CIOには組織を俯瞰しながらマネジメントを行う能力も必要といえます。
CIOを設置する効果
日本ではCIOを設置していない企業も多く、CIOの効果や役割が不明確であるという声をよくお聞きします。そこでここからは、CIOを設置する効果について解説します。
情報技術に関する投資が効果をあげやすくなる
DXの失敗事例の中には、「要件定義を十分に行わずに新しいシステムを導入したが、効果が分からずコストを無駄にしてしまった」というものがあります。
新しいシステムは機能の目新しさが魅力的で、営業に勧められると導入可否の判断軸が揺らいでしまうことも少なくありません。実際、新システムを導入する際にあまり比較検討をしなかったという企業もあるようです。
CIOは、システムに関して投資効果やリスクの評価・検証を行うため、ITに関する投資の是非を検討する際に頼りがいがある存在といえるでしょう。
環境変化に対応した経営ができる
技術は日々、着実に進化しており、これらの技術が社会に実装されていくことで、人々の生活の利便性はより高くなっていきます。
最先端の技術に知見のあるCIOを設置することで、社会の変化や技術革新をいち早く察知し、自社の経営戦略に沿った革新的なサービスを生み出、社内業務の改革を推進すことができるようになるでしょう。
顧客満足度や従業員満足度が向上する
小規模な店舗や個人にもデジタル技術が浸透し、スマートフォンやパソコンがあれば、これまでとは比較にならないほど容易に、様々な取引を行うことが出来るようになっています。
このように情報技術の適切な活用は、顧客の利便性を高め、顧客満足度の向上にもつながります。CIOを設置する事で、どのような情報技術を活用すれば顧客の利便性を向上させることができるのか、より高い視座に立って検討を行うことができるようになるでしょう。
また、従業員の働き方に関しても同様です。業務の効率化は長時間労働を防ぎ、ワークライフバランスを向上させ従業員満足度を向上させることにもつながります。
CIOを設置する方法
CIOを務めるためには、高い能力を有する人材が必要です。企業がCIOを設置しようとしたとき、どのように人材を採用すればよいのでしょうか。
従業員の中から育成・登用する
情報部門で情報技術に精通した人物をCIOに抜擢する方法があります。また、幹部候補の人材に情報技術関連の教育をするなど、従業員のなかから育成・登用することも可能です。
しかし、情報部門出身者は経営的な視点が欠けていたり、経営部門出身者はITの知識が不足していたりするケースが多く、うまくいかない場合もあります。このような場合は「完璧なCIO」を求めず、管理職レベルの人材に従来の業務の傍ら、CIOとしての役割の一部を担わせていくという方法が有効です。
最近では、CIOに必要な知識を学ぶためのオンライン講習などもあるため、有効利用する事をおすすめします。
外部から採用する
他社でCIOとして活躍した実績のある人材を、外部から採用する方法もあります。この方法であれば、採用する人材の実績や評価などをあらかじめ把握できます。
ただし、すでにCIOを務めるほど高い能力を持った人材を採用するためには、給与や待遇などの条件面を考慮する必要があります。
専門家を派遣してもらう
早急に課題を解決したい場合や、第三者の目線で組織の内部を見てもらいたい場合などは、外部の専門家を派遣してもらうのも有効な方法です。
専門家とともに課題を整理し、経営上の優先順位付けを行った上で対策を取ることができるので、費用対効果の高い方法でスピーディーに自社の情報分野を強化できます。
まとめ
CIOという役職は、日本ではまだ広く認知されていませんが、情報化の進んだ現代社会において情報技術に関する投資で効果を上げ、顧客や従業員の満足度を向上させるために必要不可欠な役割です。CIOを設置することで、経営戦略の実現や情報セキュリティ対策、社内の業務効率化といった企業経営における攻めと守りが強化できます。
当記事で解説したCIOの役割や効果を参考に、CIOの設置を検討してみてはいかがでしょうか。