日本企業が海外に進出するメリットや問題点について解説しています。現在の情勢や成功例、為替リスクや現地管理の課題点、それらの対応策についても解説しています。海外進出を検討している企業担当者の方は参考にしてください。
目次
- 日本企業の海外進出の現状
- 日本企業の海外進出意欲
- 海外進出のメリット
- 販路拡大
- 低コスト
- 新たなビジネスチャンス
- 海外進出の問題点
- リソース不足
- 為替リスク
- 現地管理
- 課題への対応策
- フィジビリティスタディ(実現可能性調査)
- 外部リソースの活用
- グローバル人材の採用・育成
- まとめ
日本企業の海外進出の現状
2020年から2022年にかけて、グローバル市場は新型コロナウイルス、ロシア-ウクライナの関係など、様々な外的要因によって激動の時期を迎えています。
各国で進められたロックダウンなどの人的移動の制限は、当該国に製造拠点を移管した企業や営業拠点を設置した企業にとっては死活問題となっています。また、港湾・陸送物流の現地人員不足などもあり、サプライチェーンが断絶され、進出企業のみならず輸出型企業にも大きな影響を与えています。加えて、現在の円安水準により、海外投資金額が上昇し、回収リスクが高まっている状況にあると言えます。
従前は、よく「日本の市場は縮小しており、成長をしている海外に活路を見出す」や「海外のコストメリット(原材料・人件費・税金等)を活かしグローバルな競争力を得る」というようなことが言われていましたが、現在の状況下においては、そのように考えている日本企業であっても事業コストの高まりと先行きの不透明感は拭えず、海外進出が検討の段階で止まっている企業も多いのではないかと思われます。
日本企業の海外進出意欲
JETROのアンケート調査(2021年度)では、日本企業の海外進出意欲について、「海外進出の拡大を図る」が23.1%、「新たに進出したい」が24.6%となっています。この中で注目したいのは、「新たに進出したい」と回答した企業のパーセンテージです。
上記の表は2013年から2021年にかけての「新たに進出したい」と回答した企業のパーセンテージです。2013年以降からコロナ禍にかけて、微増減はあるものの、推移としては大きく変わらない数値であると認識できます。
※「新たに進出したい」と回答した企業は、現在、海外に拠点を有さず、今後新たに設置をしたい企業という定義がなされています。
これに対し、外務省調査での、実際に海外に拠点を設置した企業数は以下の通りです。
コロナ前では、年間6,000を超える海外拠点拡大がなされておりましたが、2020年以降、当該海外拠点数はマイナスに転じています。
上記は、海外撤退企業数が進出企業を上回る結果となったことのみならず、「日本企業は引き続き海外投資への意欲は消えてはいないものの、様々な外的要因、リスク増の状況から、二の足を踏んでいる企業が多くある」ということを示しているように思われます。
直近のジェトロ海外調査部の報告では、特に医療機器、食品・BPO、人材を取り扱う業界で海外進出・拡大の意欲が高まっているとの統計が発表されています。
海外進出のメリット
前述の通り、激動を迎えているグローバル市場ですが、日本企業の長期的課題解決のためには、やはり海外進出は様々なメリットがあると考えられます。筆者が考える海外ビジネスのメリットは以下の通りです。
- 販路を拡大できる
- コスト安を享受できる
- 新たなビジネスチャンスにつながる
販路拡大
海外の販路を開拓出来れば日本国内での売上UPよりも高い水準で販売を拡大できる可能性があります。
新興国の成長スピードは総じて速く、うまくいけば販路拡大は日本に比べ格段にしやすいものと考えられます。また、業種によっては日本ブーム(旅行・アニメ・和食ブームなど)需要の取り込みなども期待出来る場合があります。
【海外進出成功事例1】
業種 | 消費財製造業 |
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年商 | 70億円(国内売上50億円、海外売上20億円) |
上場/未上場 | 未上場 |
進出前、海外売上は全て国ごとに契約をしている販売代理店への売上であった。この度、北米の販売代理店との契約が更新時期に迫るに当たり、値下げ交渉が激化することが考えられたため、独自での進出を模索。
進出後に使っていた販売代理店の顧客全ての引継ぎに成功し、代理店形態では出来ない独自の販売網も構築。代理店が得ていた売上、及び利益を全て取り込むことに成功した。
低コスト
【海外進出成功事例2】
業種 | アパレル縫製業 |
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年商 | 600億円(連結) |
上場/未上場 | 上場 |
大手ファストファッション小売業を複数顧客に持つOEM縫製業の企業が人件費圧縮のためにバングラデシュへ進出。ローカルの工場を買収した上で進出を行ったため半年で自社製品の製造を開始出来た。
価格競争に打ち勝つことで顧客のシェアを拡大することのみならず、タイミングの良いキャパシティの増強で今まで製造を行ってこなかった、コロナ禍でのマスク・医師衣・患者衣需要なども取り込むことに成功した。また、海外顧客との取引も始めることが出来、更なる事業拡大を達成した。
新たなビジネスチャンス
日本では新たな市場参入が難しい陳腐化したプロダクトでも、海外では未開発の市場である場合があったり、コアな技術を要しない製品が海外の主流であったりと、市場が異なれば新たなビジネスチャンスにつながる場合もあります。
また、国内では取引出来なかったようなグローバル企業と取引が実現し、日本に帰国した際にビジネスとしてつながった例などもあります。
【海外進出成功事例3】
業種 | 食品系商社 |
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年商 | 200億円(国内売上:150億円、海外売上:50億円) |
上場/未上場 | 未上場 |
大手小売業に対し生鮮食品を卸している商社が、シンガポールの顧客に対しビジネスを拡大させたことに伴い現地化を模索。
華僑のネットワーク(販路)を有しているパートナーと合弁で進出することにより同国の最大手小売業との契約を勝ち取ることに成功。海外ビジネス拡大を果たした。
海外進出の問題点
上記のような成功例があっても海外進出の成功率は30%~40%であると言われています。
むしろ問題が多くある中でその課題の解決を一つずつ丁寧に行ってきた企業が海外進出の恩恵を受けていると言ってもよいのではないでしょうか。
以下、筆者が手掛けた海外進出案件の中での代表的な課題を列挙します。
- リソース不足(経営資源(材料・人材など)、機能(販売網・技術・ノウハウ)など)
- 為替リスク
- 現地管理(子会社管理の難易度、カントリーリスクヘッジ、現地法規制の対応など)
リソース不足
海外進出をする上でのリソース不足を嘆く企業も多いことでしょう。 経営資源であるヒト・モノ・カネ・情報が全て揃わなければ海外進出は果たせません。
また、現地特有の事情に対応することが出来るような機能・リスクヘッジ策を有することも必要となります。
課題例1
米国に進出を計画している同社が、大手顧客への販売のため、現地法人の設立を企画。売上の大半を見込んでいたジャイアントリテーラーが契約に際し、同現地法人に対して物流網、及び受発注の自動化を求めてきたため、3PLの最適選定とERP、EDIの導入という課題が発生。
同社は日本の中小企業であり、取引していた物流業者も米国の対応は不可能であったため、米国内での商流、サプライチェーンに係るノウハウ、及び物流人材、IT人材の不足等の対応に迫られた。
為替リスク
特に海外から仕入れを行う(海外に工場を持ち、製造を行った後、日本に輸入するような企業も同様)企業では、昨今の円安による打撃は大きいものと思われます。
このように、急激な円高/円安による為替リスクも見逃せない課題となり得ます。
課題例2
海外に工場を保有している同社は、同工場で原材料を仕入、日本に完成品を販売した後、日本の顧客に販売を行っていた。
仕入れはISドル建てで行っており、昨今の円安の状況を鑑み日本の顧客との販売価格の交渉を行ったが、契約上、交渉が限定的であり、営業利益の減少を招いた。
現地管理
現地法人の管理については、言語・商習慣・法令・文化等の違いもあり、難易度が高く、昨今の原材料費・物流費の高騰等・調達複線化の動きが加速する中で、親会社との情報共有はより密に行う必要性が上がってきています。
また、ロシアに対する経済制裁、ミャンマーのクーデターなどに代表される社会情勢、異常気象に起因する災害等のカントリーリスクなどへの対応、不正を防止する子会社管理など、現地管理が複雑化しており、日本親会社としては、より高度な管理手法を持つことが求められています。
課題例3
シンガポールに販社を有している同社では、ローカルとの合弁会社であったがゆえに管理部門機能を合弁パートナーに任せていた。合弁パートナーから派遣されたCEOは優秀であり、日本からも3カ月に1回のペースで出張を行い、定期的な報告も受けていた。
しかし、同CEOが退任し、代替人材の手配が追い付かなかったため、管理水準が低下。業績についての管理が出来ず、不透明な送金も発覚したが、原因解明が出来ない状況が続いた。
課題への対応策
海外進出の課題に対する対応策は、業界・進出地域・その時々の情勢などにより多種多様になるものですので、現地の最新情報を収集することが重要になります。
特に上記の事例で挙げたリソース不足の解消は、海外進出の可否を決定づけるものであるため、自社が投下出来る経営リソース及び賄うことが出来ないリソースの特定は海外進出の意思決定において重要なファクターとなります。
また、前述の通り、グローバル市場は激変の状況を迎えており、進出後の事業運営時におけるリスクマネジメント手法、及び子会社管理の方法を進出前に企画(親会社側の管理体制含む)しておくことも重要です。
フィジビリティスタディ(実現可能性調査)
多くの企業は海外進出にあたり、定量面・定性面の両面でその実現可能性を調査しますが、この調査局面で網羅的な検討がなされておらず(見積りが甘く)、進出後に想定外の事態に陥り投資回収が不可能となるケースや、思わぬリスクに直面し、事業撤退を余儀なくされるケースなどが散見されます。
定性面調査は、実施する事業の外資規制、商流、現地での不足機能・リソースの特定、補完計画の策定(合弁パートナーからの経営資源の投下、企業買収による補完等も検討)など、欠けると海外進出の実現そのものの可能性が著しく低下する事項の調査を意味します。
定量面の調査は、ターゲット顧客、製品・サービス、マーケティング、機能内外製、差別化、利益源、事業展開シナリオ等の検討から導きだされる売上の試算、また、材料費、労務費、物流コスト、販管費、税金などのコスト試算(PL計画)、及びキャッシュフロー試算(投下資本計画)を意味します。
海外進出を企画されている会社は単に外資規制及び数値面のスタディのみを行うのではなく、自社の不足リソースを挙げていき、その補完可能性を探っていくことが望まれます。また、前述したカントリーリスクの対応や子会社管理等の手法についても、この時点で綿密に検討を行うことが望ましいと考えられます。
外部リソースの活用
海外進出を行うに際し、自社のみで100%のリソースを賄うことは難しいケースが多く、外部リソースの活用を積極的に検討するべきと考えられます。 現地事情に精通した商社、物流業者、金融機関、コンサルタント、法律事務所、会計事務所などの活用や、ローカルパートナーが自社の不足機能・リソースを補完出来る場合があります。
外部リソースをうまく活用するためには、フィジビリティスタディにて、海外事業における自社の不足リソースの特定が適切になされていなければならず、また、外部リソース側の能力も適切に評価することが必要となります。
なお、クロスボーダーの合弁事業組成や、M&A(企業買収)による海外進出は、逆に合弁先や買収対象会社の不足リソースを自社が補完することで、海外で行う事業に高いシナジー効果を生み出せる場合もあるため、ローカルパートナーの状況をデューデリジェンス等で十分に把握するのが望ましいと考えられます。
現在の海外情勢で不透明さが増し、日系企業の海外進出のハードルが高まる中においては、ローカルパートナーを得て海外進出をするケース(ローカルとの合弁)や、海外企業を買収するケース(M&A)は、今後増加していくのではないかと考えられます。
グローバル人材の採用・育成
内部のリソースにも目を向ける必要があります。特に人材確保が重要です。「核となる人材」という言い方がよくなされますが、人材は海外事業が成功するか否かの最も重要なファクターだと考えられています。
文部科学省が定義するグローバル人材とは、要素Ⅰ: 語学力・コミュニケーション能力、要素Ⅱ: 主体性・積極性、チャレンジ精神、協調性・柔軟性、責任感・使命感、要素Ⅲ: 異文化に対する理解と日本人としてのアイデンティティー、とされています。
筆者が考える最も重要な要素は要素Ⅱであると考えています。語学力などの見えやすいスキルを過度に重視した育成を行うよりも、グローバルに物事を考え、ローカルに最適な解を出せるような発想を持つ人材が最もグローバル事業で活躍出来ている感覚があります。
また、2021年度の「ジェトロ地域分析レポート」では、海外に進出済の企業の5割超でITが活用できる人材の不足を感じているという結果も出ています。
海外ビジネスでもデジタル技術が浸透を見せる中、親会社との補完関係を構築できるITグローバル人材の確保・育成は今後も在外子会社が抱える大きな課題として残るものと思われ、この分野に限らず、専門領域でのグローバル人材の確保も重要な課題として認識されています。
まとめ
これまで、日本企業の海外進出に際する成功事例、その課題等をご紹介させて頂きました。
海外進出の検討に当たり検出される課題は各社様々であり、画一的な解はありません。海外進出を志向される企業におきましては、グローバル市場が激動する中で、従前よりも、各社ごとに検出される課題に対して丁寧に取り組むことが求められています。本コラムが少しでも検討企業のご参考になれば幸いです。
新たな市場で成功するための準備を十分に行い挑戦していきましょう。