中小企業の経営者や人事担当者のなかには、「人事評価制度が機能していない」「そもそも制度がないけど、これで良いのだろうか」と考えている方もいるのではないでしょうか。そこで当記事では、人事評価制度の狙いや導入方法を解説します。
目次
- 人事評価制度とは
- 3つの要素
- 人事評価制度は必要か
- 中小企業の人事評価制度の導入割合
- 評価制度がなくても会社は回る
- 評価制度による弊害
- 人事評価制度を導入する目的・狙い
- 会社…組織のマネジメント
- 社員…求められる成長のマイルストーン
- 人事評価制度の手法と対象
- だれを評価するか
- 人事評価制度の導入手順
- 1.会社のビジョンや戦略、課題の洗い出し
- 2.評価制度の作成
- 3.評価制度の運用
- 人事評価制度の好事例を紹介
- 武蔵野
- サイバーエージェント
- GEジャパン
- 人事評価を成功させるポイント
- 売上の先にある会社ビジョンの明確化
- ビジョンが評価基準に具体的に落とし込まれているか
- 適切なタイミングでのコミュニケーション
- まとめ
人事評価制度とは
組織運営を効率化するために人材の働きや貢献度を評価し、処遇に反映する組織管理手法です。
3つの要素
一般的な人事評価制度は、「評価」「等級」「報酬」の3要素で構成されます。
評価要素
人事評価制度のコアとなる部分で、定められた指標をもとに業績や勤務態度を評価する仕組みです。
この結果が、等級や報酬に影響を与えます。
等級要素
組織体系の中に主任や課長といった役職名や階級を設けることで、組織内で求められる役割や昇格ステップを見える化します。
等級を作ることで社内の序列関係を明確にでき、組織の効率的な管理が可能となります。
報酬要素
評価や等級に基づいて、従業員の給与・賞与を決める仕組みです。
この仕組みによって給与額に客観性を持たせ、納得感のある報酬額を決められます。
人事評価制度は必要か
中小企業の人事評価制度の導入割合
人事評価制度は、どの程度の企業で導入されているのでしょうか。
厚生労働省の平成14年雇用管理調査結果によれば、人事考課制度がある企業割合は51.0%です。
そのうち、従業員が100人未満の企業で人事考課制度があるのは39.4%です。
評価制度がなくても会社は回る
上記の厚生労働省の調査結果は、人事評価制度がなくても企業活動を続けられることを示しています。
そこでまずは、人事評価制度をあえて導入しない企業の考え方を整理します。
評価制度による弊害
人事評価制度は万能ではなくマイナスの影響を与える可能性もあるため、導入しない企業が多く存在すると考えられます。
コスト
人事評価制度を導入するためには、制度設計や社内への周知、運用、改善という作業が必要になります。
人材に余裕がない中小企業にとっては、厳しい人的コストが発生するのです。
外部のコンサルタントへ作業を外注する場合でも経営者を中心として全社を巻き込むため、自社人材の相応の稼働が求められます。
変化への対応の遅れ
評価制度を作ったあとは、一定期間の運用状況を見てから不満点や改善点への対応を行うのが一般的です。
一定期間の運用を行う中で決められたルールに行動が縛られてしまい、中小企業の強みである機動力の足かせとなってしまう可能性があります。
評価自体への嫌悪感
組織にはさまざまな方がいるため、評価されることでモチベーションや納得感が生まれるだけでなく嫌悪感を持つ場合もあります。
中小企業では従業員の業績や勤務態度がある程度共有されるため、制度がなくても評価や昇給額を決定できるという見方もあります。
人事評価制度を導入する目的・狙い
人事評価制度にはマイナスの側面もありますが、なぜ導入する企業があるのでしょうか。
会社と従業員のそれぞれに対する狙いは、以下のとおりです。
会社の狙い | 従業員の狙い | |
---|---|---|
組織のマネジメント | 求められる成長のマイルストーン |
会社…組織のマネジメント
人事評価制度は、組織のマネジメントツール(管理ツール)として活かせます。
組織のベクトルを揃える
経営者は多くの場合、その会社を使って達成したい目標(ビジョン)を持っています。
従業員にも経営者のビジョンに共感して入社する方がいますが、あまり多いとはいえません。ほとんどの場合、給料の良さや人間関係、残業の少なさ、家が近いなどの理由で入社するのが一般的です。事業が進むにつれて、経営者と従業員で会社の方向性や考え方にズレが生じてくるでしょう。
人事評価制度は、どういう行動や成果を出す人が評価されるのかを明確にします。経営者が従業員に対して求める行動や成果を評価指標にすると、考え方を揃えることが期待できます。
人材配置で業務を効率化
人事評価制度を運用すると、従業員それぞれが個性を持った異なる人間であることが浮き彫りになります。
人は苦手なことよりも得意なことの方が成果を出しやすいので、従業員の個性と担当業務が整合すれば組織全体の生産性の上昇が期待できます。
社員…求められる成長のマイルストーン
従業員も人事評価制度があることで、より成果を出しやすくなる可能性があります。
会社からの期待を理解できる
人は社会性を持つ生き物なので、誰かから期待されるとより高い成果を上げられる場合があります。特に会社で働く場合には会社の進む方向性を把握して、どんな成果がどう評価されるかを理解することが重要です。
その結果、目の前の仕事に納得して向き合い、成果を上げやすくなると考えられます。
モチベーション向上
等級や給与額という社内ガイドラインに沿った定量的なものだけでなく、周りのフィードバックのような定性的な評価も得られます。
これらの評価は自分の行動や成果を反映するため、仕事のモチベーションとなるでしょう。
人事評価制度の手法と対象
ここからは、具体的に人事評価制度の内容を見ていきましょう。まずは、評価の手法を4つ紹介します。
目標達成度
目標達成度によって評価する手法は、最もイメージしやすいと思います。
受注成績やアポイント件数、ミスやクレームの少なさなどの数値目標を設定して、管理する手法です。
数値で測れない成果
会社の業績に直結するものの数値で測れない成果として、企画提案力やコスト削減の取組み、顧客管理などがあります。
これらの項目は会社によって異なりますが、ビジョンや戦略の中で何が求められているのかを考えることで見えてくるでしょう。
スキル
個人ができることや、資格などの獲得自体を評価する手法です。
スキルを仕事に活かせたかどうかは、目標達成度や数値で測れない成果として評価します。
スキル評価はあくまでも、そのスキルが増えたことに対するものです。
評判(勤務態度等)
人事評価においては、個人の直接的な成果を評価することも大切です。
しかし、職場の雰囲気を良くしたり忙しくても親身に相談に乗ったりなど、上記の手法ではうまく評価できない要素も重要です。
これらの要素を実態に合わせて評価するためには、アンケートなどによって周囲からの評判を聞くという手法が適しています。
だれを評価するか
上記4つの評価手法は全従業員に等しく適用されるわけではなく、評価対象の部署や役割によって柔軟に設計する必要があります。
以下、代表的な評価対象者ごとの評価の特徴を紹介します。
営業・マーケティング
営業やマーケティングに求められるのは、集客や売上といった数値目標が設定できる成果です。
したがって、個人やチームの業績を評価指標にすることが馴染みやすいといえます。
技術系
開発活動が売上に結びつくのには、時間がかかります。
売上への貢献だけでなく開発自体のプロセスを細分化した目標値の設定や、効率性、アイデア力といった成果も対象になると考えられます。
バックオフィス
成果が見えにくい部門でこそ、定型業務の効率化やミスの少なさ、簿記や労務系のスキルといった評価指標を検討してみてください。
バックオフィス部門が営業や技術系部署に寄り添った仕事ができると会社としての一体感が出るので、評判評価も重要です。
経営陣
教科書的にいえば、経営者を評価するのは株主の役割になります。
それは会社全体として利益をあげて持続的な成長を実現できているかという、分かりやすくかつシビアな評価になるでしょう。
一方で経営者は、従業員からの評判評価を定期的に受けることで、従業員との良好な関係を維持できます。
人事評価制度の導入手順
人事評価制度の導入は、以下の3段階で進めましょう。
- 会社のビジョンや戦略、課題の洗い出し
- 評価制度の作成
- 評価制度の運用
1.会社のビジョンや戦略、課題の洗い出し
人事評価制度の狙いは、経営者と従業員の意識のベクトルを揃えて事業活動を効率化することにあります。
したがって、会社自身がそもそも何のために存在しているのか、どこを目指すのかを明らかにする必要があります。会社として目指すビジョンや達成するための戦略、現状の課題を明確にすることで、従業員に出してほしい成果が分かるのです。
このビジョンや課題の洗い出しを行わないと、ただ売上を上げる方だけが評価されるいびつな人事評価制度になる可能性があります。
2.評価制度の作成
従業員もしくは役割ごとに求める成果や成長が明確になったら、対象者ごとの評価項目を作成します。
なお従業員の少ない中小企業では等級を細かく設定するより、役割に合わせた評価項目を作ることにウエイトを置いて良いと考えられます。
3.評価制度の運用
各従業員の評価を実施した後は管理職レベルで全体を俯瞰して、バラツキを調整しながら今後のポイントを明確化します。次に評価結果を本人に伝え、役割や今後の目標を共有しましょう。定期的な面談を通じて、目標の進捗や悩みを共有しながら次の評価に臨んでください。
人事評価制度の重要性は、設計2、運用8といわれます。また「不満の出ない人事評価制度はない」といわれるくらい、運用を続けるにはパワーが必要です。多くの失敗は運用フェーズに存在しているので、不満は会社の成長のために貴重な意見と捉え、改善を繰り返す覚悟が重要です。
人事評価制度の好事例を紹介
武蔵野
行動指針と報酬制度の連携
清掃用具のダスキンや経営コンサル事業を展開する武蔵野は、どんな行動が給与や賞与にどれだけ影響するかを経営計画書に明記しています。
部下と飲みに行くと加点、クレームを隠すと減点のように誰が見ても解釈の余地がない具体的なルールです。
明確なルールによってマネージャーの行う指導や評価に軸ができ、結果として納得感のある育成の仕組みになっています。
サイバーエージェント
メンバーの目標と役割を明確化し強みを活かす
サイバーエージェントの取締役である曽山哲人氏は、自身の著書である『強みを活かす』の中で、従業員の弱みを補うよりも強みを伸ばす重要性を語っています。
成果を引き出すために部下に目標を与えて役割を明確化し、マネージャーが定期的に評価を伝えることが重要です。
強みを理解するため、ワークショップや対話、面談といった多くの試行錯誤を繰り返しているのです。人事評価を、人材開発という高いレベルで運用している好事例といえます。
GEジャパン
A/B/Cでは伝わらない個々人への期待
世界的企業GEの日本法人であるGEジャパンは、従業員が多い大企業ならではの工夫で人事評価を行っています。
ABC評価を撤廃し、マネージャーを中心にディスカッションベースの評価を繰り返して従業員の個性や成果を浮き彫りにします。
従業員が多くなると画一的な評価が没個性的な理解につながり、制度の有用性を損ねることを示した事例といえます。
人事評価を成功させるポイント
売上の先にある会社ビジョンの明確化
会社は営利組織なので、売上を伸ばして利益を出してくれる人を評価したいと思うでしょう。
しかし、人事評価では会社のビジョンとどのように貢献してほしいのかを明確に伝えることがスタートになります。 人事評価制度は単体で存在するのではなく、企業のビジョンや事業戦略といった大きな流れを実現する手段に位置づけられます。
したがって、人事評価制度には出来合いのパッケージセットは存在しません。導入には、経営者自らが時間と労力をかける覚悟が必要です。
ビジョンが評価基準に具体的に落とし込まれているか
評価基準にはさまざまな種類がありますが、どれも会社のビジョンや従業員に求める成長のベクトルと整合することが重要です。
例えば会社が顧客満足度の向上を目標としているのに、人事評価項目が売上高や利益率に関するものばかりだとしましょう。その場合、従業員は会社からどういった行動や成果が求められているのかが理解できません。
評価基準は、会社から従業員への強いメッセージであると捉えるべきです。
適切なタイミングでのコミュニケーション
人事評価制度の運用の中で、マネージャーと部下との定期的なコミュニケーションが非常に重要です。
目標の進捗の共有や日々の不満を拾いながら働き方の軌道修正が期待できるので、月に1回、最低でも3ヶ月に1回はコミュニケーションを取る時間を設けましょう。 部下を信頼して仕事を任せるのと、相談されるまで放っておくのは全く違います。
人事評価制度は運用面で多くの不満が想定されるため、日々のコミュニケーションが進めていくためのポイントといえます。
まとめ
中小企業にとって、人事評価制度は必ず作成するべきものではありません。
しかし、人事評価制度は変化の激しい経営環境や競争にさらされている中小企業にこそ、有効な組織管理ツールになりえます。
経営者の言葉が現場に届かなかったり向いている方向が違っていたりするケースでは、制度が会社の一体感を取り戻す可能性もあります。効果的な人事評価制度の導入を、ぜひ検討してみてください。