租税条約とは?適用されるための手続きや適用が想定されるケースをわかりやすく解説

租税条約とは?適用されるための手続きや適用が想定されるケースをわかりやすく解説

租税条約は、二重課税の排除や租税回避の防止などを目的に締結される条約で、海外に子会社などがある場合、租税条約が適用される可能性があります。国際取引に係る税負担を軽減するには、租税条約について理解を深めることが大切です。今回は、租税条約の概要や適用が想定されるケース、手続きについてわかりやすく解説します。

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租税条約とは

租税条約とは

租税条約とは、二重課税の排除や租税回避の防止などへ対応することを目的に、二国間で締結される条約のことです。海外に進出した企業が日本国内と海外の両方で課税されると、二重課税になってしまいます。また、税の仕組みは国によって異なるため、国際取引が脱税や租税回避の手段に使われる可能性もゼロではありません。

そのため、二国間の健全な投資や経済交流が促進されるように、法的な安定性を確保し、二重課税や租税回避を防止する目的で「租税条約」が締結されます。2022年10月1日現在、日本の租税条約ネットワークは84条約等、150の国・地域に広がっています。

日本では、国内の税法よりも租税条約が優先されるのが基本です。ただし、国内法を適用したほうが有利な場合は、例外として国内法が優先されます。

「OECDモデル租税条約」が国際標準

租税条約は、1963年に作成された「OECDモデル租税条約」が国際標準となっています。

OECD(経済協力開発機構)とは、日本や米国、欧州各国などの先進国が加盟する国際機関です。先進国間の自由な意見交換を通して、「経済成長」「貿易自由化」「途上国支援」の3つに貢献することを目的としています。

OECDモデル租税条約は、OECD加盟国が租税条約を締結する際のモデルとなるものです。国際課税の変化や経済情勢に応じて、これまで複数回の改定が行われてきました。

OECD加盟国である日本は、基本的にOECDモデル租税条約に基づいた規定を採用しています。

租税条約の主な内容

租税条約の主な内容

租税条約では、課税関係の安定や二重課税の排除、脱税・租税回避への対応などの項目が規定されています。租税条約の主な内容は以下の通りです。

源泉地国が課税できる所得の範囲の確定

源泉地国とは、所得が生じる国のことです。租税条約では、源泉地国で生じた事業所得と投資所得について、課税できる所得の範囲を規定しています。

事業所得には「PEなければ課税なし」の原則があります。PEとは、恒久的施設のことです。一般的には、海外支店や12ヵ月を超えて存在する建設工事現場などが該当します。国内企業が海外で事業を行う場合、現地で課税されるのは、源泉地国に所在するPEの活動によって獲得した事業所得のみです。

配当や利子、使用料といった投資所得については、源泉地国において免税を含めた税率の上限が設定されます。例えば、国内の親会社が海外子会社から配当を受け取る場合、租税条約において、その配当に対して源泉地国が課税できる税率の上限が定められています。

居住地国における二重課税の排除方法

居住地国とは、法人の支店や事務所、事業の実質的な管理場所などが所在する国のことです。海外進出企業が現地(源泉地国)で獲得した所得に課税され、さらに国内(居住地国)でも課税されると、同じ所得に対する二重課税が生じます。この二重課税を排除する方法は、以下の2つです。

  • 国外所得免除方式
  • 外国税額控除方式

国外所得免除方式とは、国内で税金を計算する際に、海外で得た所得(国外所得)を対象外とする方法です。具体的には、「外国子会社配当の益金不算入制度」があります。一定の外国子会社から受け取る配当の95%は益金不算入となり、配当の大部分は課税所得に含まれないため、二重課税の排除につながります。

外国税額控除方式とは、海外で課税された税額を国内の納税額から控除する方法です。国内で税金を計算する際に「外国税額控除」を適用することによって、同じ所得に対する二重課税を回避できます。

税務当局間の相互協議・仲裁

租税条約では、二重課税に関する税務当局間の相互協議や仲裁についても規定されています。

国際取引で二重課税が生じた場合は、納税者の申し立てにより、税務当局間で相互協議が開始されます。企業にとって、相互協議は二重課税を排除する手段であると言えるでしょう。

租税条約は仲裁について規定されているケースもあり、相互協議がうまくいかない場合は、第三者による仲裁が行われます。

税務当局間の納税者情報の交換

租税条約では、税務当局間の納税者情報の交換についても規定されています。

脱税や租税回避の防止を目的として、二国間において、銀行口座情報を含めた納税者情報の交換が行われます。

租税条約の適用が想定されるケース

租税条約の適用が想定されるケース

海外進出企業において、租税条約はどのような場面で適用されるのでしょうか。

ここでは、租税条約の適用が想定されるケースを4つ紹介します。

海外子会社から配当を受ける場合

国内の親会社が、海外子会社から配当を受け取るケースです。配当所得は、租税条約で源泉地国における税率の上限が設定されています。海外現地の国内法上の税率と租税条約の税率を比較し、有利な税率を選択することが可能です。

一般的には、租税条約の税率の方が国内法上の税率に比べて低いことが多いため、租税条約の税率を選択した方が有利になります。ただし、国によって租税条約上の税率を適用するために必要な手続きが異なるため、実際に適用する際は現地での必要手続きの確認が必要となります。

また、租税条約とは別に海外子会社からの配当については、日本の国内法にて特例的な措置が認められており、以下の要件を満たす場合は、「外国子会社配当の益金不算入制度」の適用を受け、配当金額の95%部分につき免税の適用を受けることも可能です。

  • 国内の親会社が発行済株式の25%以上を保有
  • 親会社の株式保有が6ヵ月以上

従業員が海外で勤務する場合

国内の親会社の従業員が、海外で勤務するケースです。給与所得については、原則として従業員が勤務する国に課税権があります。

ただし、以下3つの要件をすべて満たす場合は「短期滞在者免税」が適用され、海外現地において給与所得が免税となります。

  • 海外現地での滞在日数が183日を超えない
  • 国内企業から給与が支払われる
  • 国内企業が給与を負担する

上記の要件を満たさない場合は、給与所得に対して国内と海外の両方で課税されるため、二重課税となります。

この二重課税を解消するには、確定申告で外国税額控除の適用を受け、外国で支払った税金を控除するのが有効です。

海外企業とライセンス契約を締結する場合

国内企業が海外のブランド品を販売するために、海外企業とライセンス契約を締結し、使用料(ロイヤルティ)を支払うといったケースです。

国内企業が海外企業に使用料を支払う際は、日本の国内法に基づいて源泉徴収が必要です。ただし、相手国と租税条約を締結している場合は、ほとんどのケースで源泉徴収税率が低くなります。税率が低ければ相手企業の手取りが多くなるため、ビジネスを進めやすくなるでしょう。

海外子会社と親子ローンを行う場合

海外子会社が、国内の親会社から借り入れをしているケースです。海外子会社から親会社へ支払われる返済金には、元本の他に利息が含まれています。

この利息については、原則として子会社が所在する国の国内法に基づいて課税されます。日本と相手国との間で租税条約が締結され、利息に対して上限税率が定められている場合は、国内法と租税条約を比較して有利な税率を選択することが可能です。

こちらも前述の「海外子会社から配当を受ける場合」同様、租税条約上の税率を適用する場合には、現地側での手続きが必要なるケースがあるので注意が必要です。

租税条約の軽減税率が適用されるための手続き

租税条約の軽減税率が適用されるための手続き

租税条約自体は、法律と同じように自動的に適用されます。ただし、租税条約に規定されている軽減税率の適用を受けるには、原則として届出が必要です。支払者(源泉徴収義務者)を通して、税務署に「租税条約に関する届出書」を提出します。

この届出書の提出に関して、所得の源泉地の違いにより、所得の受益者が国内企業と海外企業のどちらになるかで届出先が異なる点に注意が必要です。 日本が所得の源泉地で、海外企業が所得の受益者である場合は、日本企業が国内で届出書を提出します。

一方で、日本の親会社が海外子会社から配当や利子を受け取るケースのように、海外が所得の源泉地で、日本企業が所得の受益者である場合は、海外企業がその国で届出書を提出するのが一般的です。

特典条項を有する場合

特定の国との租税条約では、「特典条項」が定められているケースもあります。

特典条項は、租税条約を締結した国において実体のない法人(ペーパーカンパニー)を設立し、その法人を介して取引をすることで、租税条約の軽減税率の適用を不当に受けようとする法人を除外することが目的です。

特典条項の適用対象となる所得について、軽減・免除の適用を受ける場合には、届出の際に「居住者証明書」などの提出が求められます。

まとめ

租税条約は、国際取引を円滑に進める上で重要な役割を果たします。

相手国によって租税条約の内容は異なるため、国ごとに租税条約の有無、内容を確認し、国内法と租税条約を比較して、より有利な税率を選択することが大切です。

海外に子会社や取引先がある場合は、租税条約について理解を深めておきましょう。

  • 監修者
    八鍬 信幸

    株式会社AGSコンサルティング
    ASTHOM事業部長・税理士

    八鍬 信幸

    大学卒業後、KPMG税理士法人(国際部)に入社し、外資系企業向けの税務アドバイザリー業務に従事。 2014年 AGSコンサルティングシンガポール社に入社し、日系企業の海外進出コンサルティング業務に従事。

    2017年からAGSマレーシアの立ち上げを担当し、2018年からマレーシアの現地大手アカウンティングファームのCrowe Malaysiaへ出向。シンガポール・マレーシアを拠点として、クロスボーダーM&Aも含めた日系企業の海外進出をサポートしている。