レバレッジドバイアウト(LBO)とは、M&Aで買収対象となる会社(売り手企業)の信用力を担保に融資を受け、買収資金を調達する手法です。少ない自己資金で大きな自己資本を持った企業を買収することで投資効率を高められる点が特徴となります。この記事では、LBOの基本的な仕組みやメリット・デメリット、事例を解説します。
目次
- LBOとは
- 企業買収方法の一つ
- PEファンドとは
- MBO、EBOとの違い
- LBOの仕組み
- LBOの手順・流れ
- 金融機関との交渉
- 特別目的会社(SPC)の設立
- 金融機関やファンドからの資金調達
- 規模が大きな場合はシンジケートローンが組まれるケースも
- 買収の実行
- SPCと買収対象企業の合併
- 借入の返済
- LBOのメリット
- 少ない自己資金で買収できる
- 借入金の返済リスクが少ない
- LBOのデメリット
- 買収企業から見たデメリット
- 買収対象企業から見たデメリット
- 「全資産担保の原則」が適用される
- LBOの事例
- 昭和電工による日立化成の買収
- ソフトバンクによるボーダフォンの買収
- まとめ
LBOとは
まず最初に、LBOの概要について解説します。
企業買収方法の一つ
レバレッジド・バイアウト(Leveraged Buyout、以下「LBO」)とは、企業買収の際に金融機関からの融資等を利用することで投資効率を高める買収手法です。自己資金が少ない際に、借入による資金調達で大きなリターンを得ることを目的として行われます。
LBOを多用するのは、主にプライベート・エクイティ・ファンド(以下「PEファンド」)です。PEファンドが投資を行う場合、投資効率を高めるためにLBOを採用されることが多くなります。また、LBOの際の借入は、一般的に「LBOローン」と呼ばれます。
PEファンドとは
PEファンドとは非上場会社の株式に投資をし、利益を出して投資家に還元するファンドのことです。非上場会社を上場させて株式を売却する、または企業価値を高めて取得価格以上で別の相手に転売するなどの方法で利益を得ます。
PEファンドがLBOによって取得を目指すのは、LBOローンを抱え返済していくことを考慮して、自己資本比率が高くキャッシュフローが潤沢な企業が多くなります。
MBO、EBOとの違い
「MBO(マネジメント・バイアウト)」と「EBO(エンプロイー・バイアウト)」を行う際には、LBOが活用される場合があります。
それぞれの内容と相違点について解説します。
MBOとは
MBOとは、Management Buy-Outの略語で、自社の経営陣が現在の株主から自社株を買い取って株主となる手法です。
多くのMBOでは、外部から資金調達が必要となり、PEファンドからの資金調達をするとともにLBOの仕組みを用いて資金調達を行います。調達した資金で自社の事業部門、もしくは全株式を取得して経営権を掌握することが多くなります。
EBOとは
EBOとは、Employee Buyoutの略語で、MBOと同様の手法を経営陣ではなく従業員が行うケースをいいます。従業員は一般的に資金力が無いため、PEファンドの支援やLBOローンを活用して資金を調達し、事業買収や経営権を取得します。
後継者がいない場合の事業承継対策として用いられることが多く、企業を存続させる目的で使われます。
LBOの仕組み
レバレッジとは、「てこの原理」を意味します。LBOにおいては、融資を活用することで少ない自己資金でも投資効率を高められるという特性が「てこの原理」になぞらえられています。
例えば、自己資金とLBOローンでの調達比率が1:9だったとします。企業価値100の企業を買収し、価値が110に上がったタイミングのリターン(投資金額に対して得られる収益の割合)は、以下のとおりです。
- 全額自己資金の場合:10%
- 自己資金+LBOローン:100%
このように、LBOを活用したほうが自己資金のみで買収するよりも売却した際の投資効率が高くなることがわかります。
LBOの手順・流れ
LBOの一般的な流れは以下のとおりです。
- 金融機関との交渉
- 特別目的会社(SPC)の設立
- 金融機関やファンドからの資金調達
- 買収の実行
- SPCと買収対象の企業の合併
- 借入の返済
金融機関との交渉
資金調達に先駆けて、買収対象企業は金融機関とのLBOローンにかかる融資条件を交渉します。一般的には複数の金融機関と交渉し、好条件を引き出します。
その際、金融機関がLBOローンの審査を行うために必要な買収対象企業の資料を提出する必要があり、資料の入手はデューデリジェンスの中で進められることが多くなります。
交渉後、LBOローンの実行と条件が約束されたコミットメントレターが金融機関から提出されますが、買収資金が調達できることを証明するため、買収対象企業の株主(売手)に提出する例もあります。
また、上場企業を買収する公開買付けの場合では、コミットメントレターに基づく融資証明書を公開買付届出書に添付することになります。
特別目的会社(SPC)の設立
買収資金を調達したら、株式取得の受け皿とする目的のために特別目的会社(Special Purpose Company以下「SPC」)を設立します。
SPCで取得された株式には担保が付されるとともに、SPCの株主負担は回避される形でSPC下の買収対象企業の信用力で資金調達が実施されます。
金融機関やファンドからの資金調達
SPCは、金融機関やファンドから買収資金の調達を行います。
資金調達に先駆けてSPCと買収対象企業間で株式譲渡契約を締結しますが、SPCには融資の担保となる資産がないため、買収対象企業の資産や将来のキャッシュフローが担保となる点がポイントです。
規模が大きな場合はシンジケートローンが組まれるケースも
多額な融資が必要となる場合、「シンジケートローン」となるケースもあります。
シンジケートローンとは、金融機関等の複数の貸付人で構成されるシンジケート団で行われる融資のことで、金融機関としてリスクを分散する仕組みです。
買収対象企業にLBOローンの融資が残存しているとキャッシュフローに競合する関係となってしまいます。そこで、既存の融資は全額返済させ、LBOローンに置き換えることになります。
買収の実行
SPCは、自己資金やLBOローンなどで調達した資金を使って買収対象企業の株式を買い取ります。
LBOローンを組成したり、リターンを最大化したりするには経営権の完全な掌握が重要なため、100%の株式取得を目標とすることが多くなります。買収が完了するとSPCは親会社、買収対象企業は完全子会社となります。
SPCと買収対象企業の合併
買収対象企業の株式取得後は、一般的にSPCと買収対象企業が合併することが多くなります。買収が完了した時点ではSPCにLBOローンなどの債務があり、買収対象企業のキャッシュフローを返済原資としたいためです。ただし、M&A対象会社の許認可等との関係上支障がある場合には、合併を行わないケースもあります。
合併がなされない場合、買収対象企業からの配当や経営指導料等がSPCの返済原資となります。この場合、LBOローンの弁済が買収対象企業の債権者の弁済に劣後することになるため(「構造的劣後関係」)、これを避けることも合併の目的です。
借入の返済
実質的に買収された企業が、融資先へ借入金の返済を行います。
返済にあたり、LBOローンにともなう多くの特約条項に抵触しないよう社内の管理体制を整備する必要があります。また、LBOローンの返済や金利負担は決して軽いものではないため、企業経営にとって資金繰りコントロールが今まで以上に重要なポイントとなるでしょう。
LBOローンの返済が順調に進むと、PEファンドのようにバイアウトすることで大きなリターンを確保できます。なお、企業売却を想定していない事業会社であってもLBOローンは活用可能です。
LBOのメリット
LBO活用する際のメリットは、以下のとおりです。
少ない自己資金で買収できる
LBOの最大のメリットは、少ない自己資金で企業買収ができる点です。
LBOの資金は買収対象企業の信用にもとづいて金融機関から借り入れ、買収対象企業の負債となるため、買い手側の資金力はあまり重要視されません。
借入金の返済リスクが少ない
LBOでは資金調達をSPCが行い、ノンリコースの適用が一般的です。
ノンリコースとは、買収資金を調達する際に借入を行う法人の株主の信用力ではなく、買収対象企業の信用力のみで融資がなされることをいいます。
そのため、買い手企業のリスクは出資金部分のみという有利な条件で買収できます。
LBOのデメリット
ここまでLBOのメリットについて解説しましたが、注意すべきデメリットも存在します。
買収企業から見たデメリット
買収企業側から見たLBOのデメリットは、以下のとおりです。
借入金が高額で高金利
LBOでは少ない自己資金で買収を図るため、借入金額は高額になります。金融機関もリスク排除のために融資の審査において多くの資料を要求するため、事務手続きの負担も大きくなります。
また、LBOローンは高金利となる傾向があります。シンジケートローンが組まれる場合、手数料としてアレンジメントフィー(LBOローン組成フィー)やエージェントフィー(LBOローン管理フィー)も必要となります。
そのため、自己資金のある事業会社や、自己信用で低金利融資が利用できるケースでは、LBO以外の方法が合理的といえます。
制約を受ける可能性がある
LBOに関する契約には複雑な特約条項が含まれており、それによって買収対象企業の行動が大きく制約される可能性があります。
そのため、買収企業にとって経営の自由度が低下する可能性が考えられます。
買収対象企業から見たデメリット
買収対象企業から見たLBOのデメリットは、以下のとおりです。
金融機関から制約や条件を課される
LBOローンを組むうえで、買収対象企業には多大な負担がかかります。
LBOローンは株主の信用が補完されないノンリコースローンであることから、金融機関から通常の融資契約とは異なる下記の指示を受ける可能性がある為です。
- モニタリングのため提供する情報の深度と頻度の増加
- 財務上の制約の増加(財務コベナンツ)
- 様々な作為・不作為義務の要請
「全資産担保の原則」が適用される
「全資産担保の原則」とは、LBOローンの保全を図るため、設定可能な資産全てに担保権が設定されることをいいます。
不動産以外では、例えば棚卸資産や売掛金にも設定されることとなり、様々な事務手続きが必要になります。
LBOの事例
LBOを行うのはPEファンドが一般的ですが、事業会社のLBOによる買収事例を紹介します。
昭和電工による日立化成の買収
昭和電工株式会社(現、レゾナック株式会社)が日立化成株式会社(現、日昭電工マテリアルズ)を買収した事例は、買収総額が1兆円程度と超大型案件であり、LBOとTOB(公開買付)によって買収が行われました。
TOBとは、不特定多数の株主から市場外で株式等を買い集めるM&A手法で、一定の上場株式の買付けを行う場合に必ず必要になります。2020年3月24日にTOBが開始され、2020年4月20日に終了し、成立しています。
昭和電工は、買収と資金調達の受け皿会社(SPC)としてHCホールディングス株式会社を設立しています。昭和電工はHCホールディングスに2,950億円を出資し、LBOローンとしてみずほ銀行から4,000億円、種類株式としてみずほ銀行と日本政策投資銀行から2,750億円を確保し、買収に必要な資金を調達しました。
なお、昭和電工の当時の時価総額は4,521億円で、買収対象企業の時価総額(8,501億円)の半分程度だったこともあり、LBOの特性を活かした事例であると考えられます。
ソフトバンクによるボーダフォンの買収
ソフトバンクは携帯電話市場への参入を果たすため、ボーダフォンの買収により既存事業者として参入を果たしました。ボーダフォンの買収では、1兆7,000億円の買収金額のうち1兆円をLBOローンによって調達しました。
当時ボーダフォンは携帯電話事業が不調であり、不採算の海外事業を手放すといわれていました。買収によって携帯ビジネスへの参入を検討していたソフトバンクは、ボーダフォンのインフラやブランドなどを活用して効率的に携帯電話ビジネスを軌道に乗せられると判断したのです。
ソフトバンクはボーダフォン日本法人が保有していた設備を活用し、iPhoneの発売などでさらなる発展を遂げました。携帯電話のような通信ビジネスは顧客の契約期間が長期にわたり、安定した収益が見込めるため、LBOに向いているビジネスといえます。ソフトバンクのボーダフォン買収は、LBOの有用性を示す事例といえます。
まとめ
LBOは、資金力が少ない企業でも大きな投資リターンを得られる可能性が高いM&A手法であり、場合によっては高い投資効率を実現できます。
しかし、複雑な手続きが必要となったり、多額負債を抱えることになったり等、重たい負担を抱えることにもなるため慎重な判断が必要です。
LBOを検討する際は、その複雑性を理解し、リスク判断を行うためにも専門家へ相談・連携することを推奨します。