「監査役」は会社役員の一種ですが、すべての会社に必要というわけではありません。そのため、どのような役割があり、会社のために何をするのかわからない方も多いでしょう。自社に監査役を設置するかを判断するには、監査役ついての正しい知識が必要です。そこで、この記事では監査役の概要から選任方法、必要性について解説します。
目次
- 監査役とは?
- 監査役の定義
- 監査役の任期
- 監査役の種類
- 監査役の報酬
- 監査役の設置が必要な会社とそうではない会社
- 監査役が必要な会社
- 監査役の設置が必要ない場合
- 監査役の役割
- 業務監査
- 会計監査
- 取締役との役割の違い
- 監査役の権限
- 監査役の選任方法
- 監査役に適した人
- 監査役になれない人
- 監査役の選任に必要な手続き
- 株主総会の普通決議により選任
- 監査役の変更登記
- まとめ
監査役とは?
監査役を設置する場合、会社における監査役とはどのような役員なのかの基礎的な理解が必要です。
最初に監査役の定義や種類について押さえておきましょう。
監査役の定義
「監査役」とは、株式会社において取締役の職務執行状況を監督・監査する役職です。
取締役に不正がないかを調査し、不正が発覚した際には是正します。不正とは、たとえば粉飾決算・脱税や労働基準法違反などです。
最近では、企業のコンプライアンスやガバナンスが重視されるようになり、監査役の重要性が増しています。
監査役の任期
監査役の任期は会社法により原則4年とされており、株式の譲渡上限を定めている非公開会社は定款によって10年までの延長が可能です。
任期満了後に同じ人が監査役として再任する場合でも、登記が必要となります。取締役の任期が2年なのに対し監査役の任期が長いのは、監査役の実効性を高めるためです。
監査役の種類
企業の監査役には、「社内監査役」と「社外監査役」があり、それぞれが「常勤監査役」と「非常勤監査役」に分かれます。
「社内監査役」と「社外監査役」
社内監査役とはその会社の役員や従業員だった人が、監査役に就任するケースです。
一方で、社外監査役とは、文字通り社外から迎え入れる監査役です。
一般的に常勤監査役が社内監査役、非常勤監査役が社外監査役となる傾向にあります。
常勤監査役
「常勤監査役」とは他に常勤の仕事をしておらず、業務時間中はその会社の職務に従事している監査役です。どの程度の勤務状況を「常勤」とみなすかの決まりは会社法にありません。一般的に週に3日から4日以上出社する監査役は、常勤とみなされます。
常勤監査役は社内監査役であるケースが多いため会社の内部事情を熟知しており、監査のための情報収集や調査をしやすい点がメリットです。
一方、客観性に欠け、十分にチェック機能を果たせない可能性も懸念されます。
非常勤監査役
「非常勤監査役」は常勤監査役以外の監査役を指し、取締役会や監査役会出席のために月に数回程度出社するような役員です。非常勤監査役は、社外監査役である場合がほとんどです。
社外監査役は、グループ会社を含めその会社の役員または従業員だったことがない、あるいは退職してから10年以上経過するなどの要件を満たす必要があります。
経営陣との馴れ合いが想定される人を排除し、社外取締役の独立性を担保するためです。
監査役の報酬
監査役の報酬を決めるには株主総会での決議が必要です。
株主総会では監査役の報酬総額を決定し、個別の配分は監査役同士の協議で決められます。報酬金額の相場は常勤か非常勤か、企業の規模などによって異なります。
一般的には常勤監査役で500万円から1,500万円程度、非常勤監査役で100万円から500万円程度が目安です。多くの場合、監査役の報酬は取締役より低めとされています。
監査役の設置が必要な会社とそうではない会社
以前の株式会社では、「株主総会」「取締役会」「監査役」が必須でした。
しかし、2006年(平成18年)の会社法施行により、一定の条件を満たせば監査役の設置が任意となりました。
ここでは、監査役の設置義務について解説します。
監査役が必要な会社
監査役の設置が条件となっているのは、「取締役会設置会社」と「会計監査人設置会社」です。この2つを「監査役設置会社」といいます。
また、一定の条件を満たす会社は、「監査役会」も設置する必要があります。
取締役会設置会社
取締役会設置会社とは取締役会を置く株式会社、または会社法により取締役会の設置義務がある株式会社を指します。
会社法では、原則として株式会社に取締役会の設置が必要ではありません。しかし、取締役会の設置には、株主総会を招集することなく経営の重要な意思決定が可能になるなどのメリットがあります。
そのため、多くの会社では取締役会を設置しています。取締役会の設置をする場合、原則として監査役の設置も必要です。
会計監査人設置会社
会計監査人設置会社とは、文字通り、会計監査人を設置する株式会社です。
会計監査人とは、会計監査を職務とする会社の機関で、大会社では会計監査人の設置が義務づけられています。大会社とは、資本金5億円以上または負債200億円以上の会社を指します。
この会計監査人設置会社には監査役の設置が前提とされているため、大会社は会計監査人設置会社であり、監査役の設置が必須ということになります。
監査役会が必要な会社
監査役会とは、複数の監査役によって取締役会の業務を監査する機関です。
監査役会には3人以上の監査役が必要で、そのうち1人は常勤監査役でなければなりません。公開会社かつ大会社では、監査役会の設置が義務づけられていますが、それ以外の会社でも設置は可能です。
公開会社とは、会社の承認なしで株式の譲渡ができる株式会社のことで、上場会社のように株主が日々変動します(公開会社イコール上場会社ではありません)。
つまり、監査役会には規模の大きな会社のコンプライアンスやガバナンスを強化する役割が求められるというわけです。
監査役の設置が必要ない場合
監査役の設置が必要とされる会社でも、設置をしなくてもよいケースがあります。
上述した会計監査人設置会社の中には、委員会設置会社という種類があり、その委員会設置会社は監査役の設置ができません。委員会設置会社とは、「指名委員会」「監査委員会」「報酬委員会」という3つの委員会を置く株式会社のことです。
また、取締役会を設置していても会計参与が置かれている会社の場合、監査役の設置が義務ではありません。ただし、会計参与と監査役の両方を設置することも可能です。
会計参与とは、取締役と共同で決算書類を作成する株式会社の役員のことで、税理士・税理士法人・公認会計士・監査法人だけが就任できます。
監査役を置くメリット
企業が監査役を置くと、専門的な知見によって会社の問題点が見つかり、トラブルや不祥事の防止が見込めます。
また、コンプライアンス意識の高い会社というイメージを構築でき、金融機関などからの信用が増すでしょう。
ビジネス経験の豊富な監査役に就任してもらうと、経営に役立つ助言も期待できます。
監査役を置くデメリット
監査役を設置すると、監査役報酬という大きな費用がかかります。
また、旧会社法では監査役設置が義務づけられていましたが、機能していないケースも散見されました。
監査役設置が義務でない会社であえて監査役を置くのであれば、費用対効果などの慎重な検討が必要でしょう。
監査役の役割
監査役の役割には取締役の職務執行についての「業務監査」と、決算などに関わる「会計監査」があります。
そのような監査をして不正が見つかった際には、取締役会に差止請求をしたり株主総会で報告をしたりします。
業務監査
業務監査とは、取締役の職務内容が適法か、法律や社内ルールを遵守しているかをチェックすることです。
一般的には「適法性検査」と呼ばれます。取締役の違法行為などのために会社の業績が悪化すると、株主や従業員が不利益を被ります。取締役への業務監査は、会社のコンプライアンス体制を維持するうえで重要な役割です。
ただし、公開会社でない場合、定款で監査役の役割を会計監査に限定する旨を定めると、業務監査を監査役の職務から除外できます。
会計監査
会計監査とは、文字通り会社の会計に関する監査です。株式会社では決算時に会社の損益を算出する書類の作成が必須となります。
監査役は、これらの決算書類が「適正な会計基準に則っているか」を監査します。
取締役との役割の違い
取締役は会社の経営を監督する役割があり、監査役は取締役が法律を遵守しているかを監査する役割です。
取締役は株式会社に必要ですが、監査役は必ずしも必要な役員ではありません。
監査役の権限
上述のような役割・職務を遂行するために、監査役は会社法にて以下のようなさまざまな権限を与えられています。
- 取締役の職務執行の監査(第381条1項)
- 取締役への事業報告請求権、業務・財産状況調査権(第381条2項)
- 子会社への調査権(第381条3項)
- 取締役会への出席・意見陳述(第383条1項)
- 取締役会の招集請求権・招集権(第383条2項・3項)
- 取締役の違法行為差止請求権(第385条)
- 取締役と会社間の訴訟代表権(第386条1項)
監査役の選任方法
ここからは会社に監査役を置く場合の選任方法について解説します。
監査役選任の流れは以下の通りです。
- 監査役候補者へ就任依頼
- 監査役または監査役会の同意を得る
- 株主総会で決議
監査役に適した人
監査役には、職務遂行に必要な専門知識や能力のある人材を選ばなければなりません。
具体的にどのような人材が監査役にふさわしいかを見ていきましょう。
弁護士
監査業務では、法律に則った事業運営が行われているかのチェックが必要です。
例えば、顧客の個人情報流出などの企業不祥事がニュースになることがありますが、このような報道で会社名が公表されれば、会社の信用を損ない業績も悪化するおそれがあります。
こういった会社の違法行為を未然に防ぐために、弁護士を監査役に迎える企業も少なくありません。
公認会計士
公認会計士は、会計の専門家として会計監査に適しており、企業会計の監査ができる独占資格です。
公認会計士による会計監査は不正会計による粉飾決算の防止など、会社のステークホルダーへの損害を未然に防ぐことが期待できます。
さまざまな企業の監査をしている人材であれば、問題になりやすい会計上のポイントを熟知しているため、監査役にふさわしいといえます。
内部監査経験者
独立した監査部門を持ち、自主的に内部統制を強化している企業で内部監査に携わった人であれば、監査役に適任と考えられます。
内部監査とは、業務上の不正防止や業務効率改善を目的として、企業が任意で行う監査のことです。内部監査の担当者は関連する法律や会計の知識があり、業務部門では気づかない問題点を発見してくれます。
こうした職務経験を持つ人を監査役に迎えると、会社のガバナンスの向上が期待できるでしょう。
監査役になれない人
監査役を選ぶにあたって、監査役になれない条件を事前に確認しておきましょう。
監査役は、株式会社もしくはその子会社における取締役・支配人・その他使用人・会計参与・執行役との兼任が、会社法で禁じられています。
つまり、自社の取締役は監査役に就任できず、監査役が取締役にはなれないというわけです。これは「監査する立場」と「監査される立場」を分ける必要があるためです。
これ以外にも、以下の条件に該当する場合、監査役にはなれません。
- 法人
- 成年被後見人・被保佐人
- 会社法や金融商品取引法などで刑に処せられ、執行後2年以内の人
- 上記以外の法律で禁錮以上の刑に処せられ、執行が終わるもしくは執行を受けなくなるまでの人
監査役の選任に必要な手続き
会社法に定められた監査役の選任手続きについて解説します。
株主総会の普通決議により選任
監査役は取締役と同様に会社役員であるため、株主総会の決議によって選任されます。
役員の選任は、議決権が行使できる過半数の株主が出席し、その過半数の賛成をもって行われます。
監査役の変更登記
監査役選任後は、2週間以内に本店所在地において監査役の変更登記申請を行います。
監査役の役員変更は、株主総会の決議だけでは対外的な効力が発生しません。登記に必要な書類は以下の通りです。
- 変更登記申請書
- 株主総会議事録
- 株主リスト
- 就任承諾書
- 印鑑証明書
- 本人確認書類
登記にかかる登録免許税は資本金1億円超の会社で3万円、1億円以下で1万円かかります。司法書士に依頼する場合は、約3万円の手数料がかかります。
なお、期限内に登記を完了しない場合、100万円以下の科料(制裁金)の対象になるため、注意が必要です。
まとめ
監査役の職務は、取締役がカバーしきれないコンプライアンスやガバナンスの観点を補う重要な役割を担っています。
会社法において、監査役の設置は任意です。しかし、専門的な知見のある人材に会社の業務や会計を監査してもらうのは、大きな損失の回避に繋がります。
会社の対外的な信頼を強化したいと考えるなら、監査役の設置を前向きに検討するとよいでしょう。