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【シンガポール税務】GSTの税率変更にあたっての留意点

【シンガポール税務】GSTの税率変更にあたっての留意点

シンガポールでは、2023年1月1日から物品・サービス税(GST)が現行の7%から8%へ、2024年1月1日からは9%と2段階で税率の引き上げが行われます。GSTの変更は経理部門だけでなく、現場の担当者にも影響します。本稿ではGSTの税率の引き上げが行われる際の留意点について簡単に解説します。

1.はじめに

2022年のシンガポール予算の発表において、物品・サービス税(Goods & Services Tax:GST)の税率の引き上げが公表されました。現行の7%から新しく適用される税率及び実施時期は以下のとおりで、2段階で引き上げが行われます。

 

  1. 2023年1月1日以降:8%
  2. 2024年1月1日以降:9%

 

以前からGSTの引き上げは予定されていたのですが、引き上げ時期が明確にされました。ここでは、主にGST登録業者が自社で請求書を発行する際の留意事項について解説します。

 

2.GSTの概要

シンガポールにおけるGSTは日本でいうところの消費税にあたります。GSTは登録制であり、自主的にGSTの登録申請をし、承認されればGSTの登録が認められた企業(GST登録企業)となることも可能ですが、12カ月間の課税売上高が1,000,000シンガポールドルを超える企業はGSTの登録が必須となります。

 

GST登録企業は、提供した財・サービスについてGSTを顧客に請求することができ、その際には一定の要件を満たしたTax invoiceを発行することが求められています。また、3カ月に一度GSTの申告・納付が必要となります。

 

3.適用される税率

基本的には2023年1月1日(以下、基準日)以降に発行されるTax invoiceから、GSTは8%が適用されることとなります。

 

しかし、物品・サービスの提供や支払い等が2022年12月から2023年1月にかけてまたがる場合には注意が必要です。ポイントとなるのは以下の3つの時点です。

 

  1. 請求書発行日
  2. 支払いを受けた日(支払受領日)
  3. 物品・サービスの提供日

 

それぞれの日付が、基準日の前後のいつになるかによってGSTの税率が変わってきます。

 

【請求書の発行が基準日よりも前】

支払受領日物品・サービスの提供日適用されるGSTの税率
基準日より前基準日より前7%
基準日以降
基準日前後にまたがる場合
基準日より前基準日より前
基準日以降8%
基準日前後にまたがる場合基準日より前に提供した物品・サービス:7%
基準日以降に提供した物品・サービス:8%
基準日前後で支払いを受けた場合基準日より前7%
基準日以降基準日より前に受領した支払額:7%
基準日以降に受領した支払額:8%
基準日前後にまたがる場合以下の金額のうち低い方が、8% GSTの対象となる。
(i)基準日以降に受領した支払額、
または
(ii)基準日以降に提供した物品・サービス
残額については7%が適用される。

 

【請求書の発行が基準日以降】

支払受領日物品・サービスの提供日原則的なGSTの税率7%選択の可否備  考
基準日より前基準日より前7%基準日より前に全額の支払いを受領しているため、7%が適用される。
基準日以降
基準日前後にまたがる場合
基準日以降基準日より前8%可能基準日より前に物品・サービスのすべてが提供されたため、7%を選択することが可能。
基準日以降不可基準日以降に物品・サービスが提供されるため、7%の適用は不可。
基準日前後にまたがる場合一部について可能基準日より前に提供された財・サービスの価格に対して7%を適用することが可能。残額については、8%が適用される。
基準日前後で支払いを受けた場合基準日より前基準日より前の支払い分:7%
基準日以降の支払い分:8%
可能基準日より前に物品・サービスのすべてが提供されたため、7%を選択することが可能。
基準日以降不可基準日以降に物品・サービスが提供されるため、7%の適用は不可。
基準日前後にまたがる場合一部について可能以下の金額のうち高い金額について7%の適用が可能。
(i)基準日より前に受領した支払額、または
(ii)基準日より前に提供された物品・サービスの価格残額については8%が適用される。

 

4.店頭表示

2023年1月1日からは、すべての表示価格はGST8%を含む形で表示しなければなりません。もしも、2022年12月31日から2023年1月1日にかけての一日で変更が難しい場合、基準日より前は7%のGSTを含む価格、基準日以降は8%のGSTを含む価格として表示することも可能です。

 

税込価格で表示しており、基準日以降に値上げしない場合には、表示価格の変更の必要はありません。

 

5.税率変更に向けての準備

GSTの税率変更に向けて、以下のような事項について準備しておくことが必要です。

 

  • 会計システム、Invoiceを発行するシステムが新しい税率に対応できるか
  • 店舗におけるレジ等のシステムが新しい税率に対応できるか
  • 新しい税率を反映した表示価格
  • 税率変更時の移行ルールについての従業員への研修
  • 顧客との契約におけるGSTの取り決めについての再確認
  • 顧客へ対してGST変更についての通知 等

 

6.おわりに

GSTが単に1%上がるだけといっても、しっかりと準備しておかないと混乱が生じることが予想されます。本稿でご紹介した事項以外にも、細かな取り決めについて内国歳入庁(IRAS)から公表されている資料がありますので、自社にとってどのような影響があるか、どのような対応が必要なのかを確認しておくことが重要です。

 

GSTの税率の引き上げまでにはまだ時間がありますので、十分な準備をされることをお勧めします。

 

参考IRAS e-Tax Guide 2023 GST Rate Change:A Guide for GST-registered Businesses

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  • 間所 拓平

    監修者

    間所 拓平

    株式会社AGSコンサルティング
    国際部門シンガポール支社 マネージャー・会計士

    2009年、監査法人A&Aパートナーズ入社。小規模企業から上場企業を対象に監査業務、内部統制支援、IPO支援等の業務に従事。
    2018年にAGSコンサルティングに入社。M&Aトランザクション業務に従事後、AGS Consulting Singaporeにて日系企業のシンガポール進出に際しての会計・税務支援、内部統制支援、クロスボーダーの財務デューデリジェンスやその後のPMI等をサポートしている。

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