日本とタイの会計・税務には似ている部分も多いですが、ある部分では日本の方が厳しく、一方である部分ではタイの方が厳しいといったように、取扱いが異なる部分も多く存在します。本稿ではそのような日本とタイの違いについて、以下の10項目を取り上げて簡単に解説します。
2022.10.11(最終更新日:2023.08.02)
日本とタイの会計・税務には似ている部分も多いですが、ある部分では日本の方が厳しく、一方である部分ではタイの方が厳しいといったように、取扱いが異なる部分も多く存在します。本稿ではそのような日本とタイの違いについて、以下の10項目を取り上げて簡単に解説します。
2022.10.11(最終更新日:2023.08.02)
以下が、本稿で日本とタイの違いとして取り上げる10項目です。各項目の概略についてそれぞれ見ていきます。
日本 | タイ | |
---|---|---|
会計監査 | 一定規模以上の法人 | 全ての法人 |
VAT (消費税=付加価値税) | ・年1回申告 ・帳簿方式 | ・毎月申告 ・インボイス方式 |
源泉税 | 法人間の取引では基本的にはかからない | 法人間の取引でも物品の売買以外の取引にはほぼかかる |
還付請求と税務調査 | 税務調査が入ることもある | ほぼ必ず税務調査が入る |
資産の除却 | タイほど厳しくない | 税務署職員および会計監査人の立会が必要 |
法定実効税率 | 事業税や住民税もあり複雑 | 法人所得税のみ |
法定耐用年数 | 細かく規定 | シンプル |
個人確定申告 | 年末調整制度あり | 確定申告が必要 |
社会保険料 | 高い | 安い |
株主数 | 1人でもよい | 3人以上必要 |
※各種資料を基に筆者作成
次に、それぞれの項目について概説します。
タイでは規模にかかわらず全ての法人に会計監査が義務付けられています。また、法人のみでなく、タイ国内にある海外法人の支店や、駐在員事務所も会計監査の対象となります。
タイではVATについて毎月の申告が求められています。また、インボイス方式のため、適正なタックスインボイスを入手しないと仕入税額控除が認められません。なお、日本でも2023年10月からはインボイス制度が始まる予定です。
タイでは内国法人との取引であっても源泉税の対象取引が広範囲にわたっており、物品の売買以外の取引にはほぼ源泉税がかかります。
例えば、内国法人との取引の場合でも、役務提供取引には基本的には3%の源泉税がかかり、賃貸料には5%の源泉税がかかります。なお、外国法人との取引の場合には、配当10%、ロイヤリティ15%などの源泉税がかかります。
タイでは還付請求をするとほぼ必ず税務調査が入ります。税務調査が入る時期も税務当局次第であり、税務調査が完了するまで還付金の返還はありません。還付請求をしてから還付金受領まで1年以上かかることも珍しくなく、3年以上かかるようなケースもあります。
タイでは棚卸資産や固定資産の除却損を税務上損金とするためには、税務署職員および会計監査人の廃棄現場への立会が求められます。このように、資産の除却処理には多くの時間とコストを要するため、除却したい資産の簿価が少額の場合には、税務リスクは残りますが、除却ではなく売却したということにして、その分の売上VATを支払うという方法を実務上はとる場合もあります。
タイには日本の法人住民税や法人事業税にあたるものがなく、法人の所得に係る税金は法人所得税のみです。そのため、法定実効税率は基本的には法人所得税率の20%となります。なお、一定規模以下の中小企業には軽減税率の適用があるため、その場合は法定実効税率が20%未満となります。
タイでは、例えば有形固定資産については、建物(20年)、コンピューター機器(3年)、それ以外(5年)と耐用年数がとてもシンプルに設定されています。なお、減価償却は月割ではなく、日割りで行うことが一般的であり、なぜかその部分だけ細かいです。
タイでも毎月の給与から源泉徴収されますが、年末調整のような制度はなく、追加納税がない場合であっても各個人に確定申告が義務付けられています。
ここからは、会計・税務以外の論点についての紹介です。タイの社会保険料率は労使折半で各5%です。ただし、上限額が750バーツ/月と決まっているため、日本人従業員は基本的には上限額の月額750バーツになる場合が多いです。労使合計では1,500バーツ/月となります。日本と比較すると、個人にとっても、法人にとっても負担感は低いと思われます。
タイでは株主は必ず3人以上必要です。そのため、日本親会社が100%直接保有のタイ子会社を作ることはできず、対応策として、日本親会社以外に日本親会社の社長や、海外部門所管の役員が1株株主として株を保有するような方法がとられています。
日本もタイも会計・税務の基本的な考え方の部分は似ていますが、具体的な制度となると上記のような違いが出てきます。本稿で紹介した事項はその中のほんの一部ですが、日本とタイの違いをイメージして頂ければと思います。