米国輸出管理規則の概要|米国輸出管理規則について(前編)

米国輸出管理規則の概要|米国輸出管理規則について(前編)

米国の輸出管理規則(EAR)では、たとえ日本で製造した製品であっても、規制対象である米国産の製品・部品、ソフトウェア、技術が一定以上含まれている場合などは、輸出する際に米国政府の許可が必要になることがあります。前編となる本稿ではEARの概要について、後編では、輸出許可の有無の判断、許可の取得方法を含めた実務手続きについて解説します。

 

※本稿は、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社の情報サイト「BizBuddy」寄稿記事の転載となります。

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昨今、経済安全保障問題について活発に報道されるようになり、「輸出規則」という言葉が身近に聞かれるようになりました。輸出規則というと、日系企業にとっては、日本から海外に製品を輸出する際に、日本(自国)の輸出規則の対象となり、あくまでも自国だけの規制と思われている方も多いのではないかと思います。

しかし、米国の輸出管理規則(Export Administration Regulations:EAR)では、たとえ日本で製造した製品であっても、規制対象である米国産の製品・部品、ソフトウェア、技術が一定以上含まれていたり、米国産の技術が使用されている場合は、輸出する際に米国政府の許可が必要になることがあります。無許可での製品輸出などのEAR違反に対しては、禁錮刑だけでなく米国製品や技術の輸出権限の剥奪等、厳しい罰則があります。日本で製造活動を行っている企業であっても、米国産の製品、技術、ソフトウェアを取り扱っており、米国が規制している国・地域と取引を行っている場合は、EARに注意する必要があります。

本稿では、2回に分けてEARについて解説します。前編では、EARの概要について、後編では、輸出許可の有無の判断、許可の取得方法を含めた実務手続きについて解説します。

EARの概要

輸出規則とは、兵器や軍事転用可能な製品・技術など安全保障に関する分野における輸出管理や大量破壊兵器の拡散防止、通常兵器の過剰な蓄積を防止するために、国際的な枠組みのもと、各国が自国で整備した法律です。

米国の場合、輸出規則は、複数の法令・規則及び監督官庁によって整備・管理されています。例えば、防衛関連品については、国務省が国際武器取引規則(International Traffic in Arms Regulations:ITAR)を通じて管轄し、兵器に転用可能な民生両用品(Dual Use Goods)は、商務省がEARに基づき管轄しています。本稿では、防衛産業以外の一般企業に影響を及ぼす可能性のあるEARに焦点を当てます。

EARは、連邦政府の法律である輸出管理改革法(Export Control Reform Act of 2018)を根拠法としており、同規則の対象となる品目を輸出、再輸出、及びみなし輸出する際に、品目(製品、技術、ソフトウェア)、最終仕向地、最終使用目的、最終使用者等に応じて、輸出者に許可の取得を義務付けています。

EARの対象品目

EARの対象品目は次のとおりです。

  • 米国内にある全ての産品(原産地国を問いません)
  • 全ての米国原産品(場所を問いません)
  • 一定割合を超えるEAR対象の米国原産品(製品・部品、ソフトウェア、技術等)が含まれた非米国原産品(米国原産の割合とは、デミニミス規則と呼ばれており、一般的には製品価格に占める割合の25%超からEARの対象になります)
  • 米国の技術やソフトウェアを使用して米国外で製造された直接産品
  • 米国の技術またはソフトウェアを使用し建設された、米国外にある製造施設、装置で製造された産品

 

上記のとおり、EARの対象品目は広範囲に及びますが、実際に輸出許可が必要になる品目は、米国の軍事、外交政策、経済安全保障の観点から規制が必要とされるものであり、一部の品目に限られます。例えば、ソフトウェアでいえば、日常的に使用されるパソコンのOSは、ごく一部のテロ支援国家への輸出が規制されているだけですが、高性能のコンピュータ開発のためのソフトウェアとなると規制レベルが上がり、規制対象国が広がります。なお、書籍や新聞等の出版物、公知の技術やソフトウェアは、一部の例外を除きEARの対象外です。

EARでの輸出の定義

輸出とは、EAR対象品目を米国外へ輸送や伝達することであり、「みなし輸出」という考え方も含まれます。みなし輸出とは、米国内にいる外国人に対して技術やソースコードを開示・移転することです。この場合の外国人とは、一般的に米国籍や米国永住権を有する者以外の者とされているため、商用ビザで米国に入国している出張者も外国人と見なされます。したがって、日系米国子会社で勤務する日本人駐在員(米国籍もしくは米国永住権を有しない)がEARの対象製品や技術を取り扱うことは、みなし輸出の対象になるため、輸出許可が必要になる場合があります。

再輸出とは、外国から別の外国へ上記のEAR対象品目を輸送することや情報を伝達することと定義され、輸出許可が必要になる場合があります。したがって、再輸出は単に迂回輸出を規制するだけではなく、外国にいる外国人(すなわち、その外国の国籍や永住権を有しない者)への技術やソースコードの伝達についても規制しています。再輸出の例として、次のものが挙げられます。

・日本で事業活動をしている法人が、EAR対象品目である米国産の技術や部品を使用して日本国内で製造し、それらの製品を規制対象国へ輸出する場合は、再輸出になります。また、この製品の製造現場において、当該技術を日本人従業員には輸出許可なく開示できたとしても、日本人以外の外国人従業員に開示するには、輸出許可を必要とされる可能性があります。

・米国子会社と日本の親会社との間で、EAR対象品目である米国産のソフトウェアや技術情報等について電子メールでやり取りをする際、メールサーバーが外国にあり、メールがいったん日本にあるサーバーに入り、その後、別の外国のサーバーを経由して米国のサーバーに戻るような場合は、このメールの流れが再輸出と見なされます。

EARでの禁止行為と輸出許可の有無の確認

EARで禁止されている行為は全部で10項目ありますが、一般の日系企業が影響を受けやすいとされる行為は次のとおりです。

  • EAR対象品目をEAR対象国(輸出許可が必要とされている国)に無許可で輸出・再輸出すること
  • デミニミス値を超える、EAR対象である米国原産品(製品、部品、ソフトウェア、技術等)が含まれた非米国原産品をEAR対象国に向けて、無許可で再輸出すること
  • EAR対象である米国原産の技術・ソフトウェアを用いて製造された直接製品を無許可で再輸出すること
  • EAR対象品目を禁止されている最終用途(エンドユース)で、もしくは最終使用者(エンドユーザー)向けに無許可で輸出・再輸出すること
  • EARに違反することを事前に把握していた上で取引を行うこと

EARの罰則規定

EAR違反に対する罰則には刑事罰と行政罰があります。刑事罰は、1回の違反につき最高20年の禁錮刑または最高100万ドルの罰金、もしくはその両方、行政罰は、1回の違反につき最高30万ドルまたは取引額の2倍のいずれか大きい金額の罰金となります。また、輸出特権の剥奪もあります。なお、EARでは、個人(=従業員)に罰則が科せられることもあります。

日系企業における重要な留意点としての補足となりますが、外国人への米国の安全保障に関わる情報流出を規制するというEARの趣旨を考えますと、外国人(米国籍もしくは米国永住権を有しない者)の輸出管理担当者がEARの実務を行うこと自体が違反である可能性があります。したがって、日系企業の場合、EARに関する社内ポリシーや管理体制は日本本社で作ることができますが、実際の輸出許可の要否判断や申請実務は、米国子会社の米国籍もしくは米国永住権を有している担当者に任せる必要があるということも、実務上気を付けていただきたい点となります。

以上、EARの概要について説明しました。EAR違反は厳しい罰則を伴い、場合によっては、米国産品の取り扱いができなくなるリスクもあります。米国産品(製品、部品、技術、ソフトウェア等)を取り扱っていて、EARの対象になる可能性がある場合には、ぜひ専門家にご相談ください。

共著:Hotta Liesenberg Saito LLP、株式会社AGSコンサルティング