2022年12月6日、Hotta Liesenberg Saito LLP(以下HLS/本社:Torrance CA/ マネージング・パートナー:齋藤俊輔氏)と株式会社AGSコンサルティング(以下AGS/本社:東京都千代田区/代表取締役会長:虷澤篤志、代表取締役社長:廣渡嘉秀)の共同出資により、ASTHOM PARTNERS株式会社が新規設立された。両会計事務所が“ASTHOM”という共同のブランドを持つことで、日本、アメリカ、メキシコ、ドイツ、インド、香港、ASEAN主要国をカバーできることとなり、クライアントのさらなる国際的事業活動を支え、ひいては日本経済の発展に資するグローバルネットワークの構築・運用を目指す。この新会社設立に至ったきっかけ、経緯、狙いなどを、両事務所のトップに聞いた。
Hotta Liesenberg Saito LLP マネージング・パートナー 齋藤 俊輔 様
株式会社AGSコンサルティング 代表取締役社長 廣渡 嘉秀
世界11カ国31地域で日本企業をサポート
ーー今回、両事務所が提携に至った経緯を教えてください。
廣渡
1970年の創業以来、AGSは独立系総合アカウンティグファームとして事業領域を広げてきました。その一翼を担うのが国際業務です。2013年のシンガポールに始まり、香港、マレーシア、タイ、フィリピン、ベトナムへと進出し、海外事業を展開する日本企業をサポートしています。
HLSの齋藤さんとの出会いは今から10年ほど前にさかのぼります。まさにAGSが国際業務立ち上げの準備をスタートしたタイミングでした。今後注力すべき国際業務のノウハウを吸収し、学ばせていただきたいと考え、海外、特に米国で最も活躍している日系の会計事務所をリサーチした結果、HLSのロサンゼルス事務所を我々が訪ねていったのが始まりでした。
以来10年以上にわたり、HLSとAGSはお互いの発展・成長を見守りながら協力関係を維持してきました。協働を通じて改めてわかったのは、我々は日本企業を支援する業務に情熱を持っており、海外でもホスピタリティに溢れたサービスを提供したいという使命感を抱いていること。そういった部分で、AGSとHLSは同一のマインドを共有していたんですね。
新型コロナ禍によって海外事業のスピードが滞り、今回の提携も一度は延期の憂き目に遭いました。しかし、コロナ禍もある程度落ち着き、改めて日本企業の海外進出意欲が膨らんでいく時機が到来しようとしています。そんな日本企業の一助になるべく、我々はHLSとの共同出資により、新会社ASTHOM PARTNERS(以下ASTHOM)を設立。今後は、日本企業が海外進出する際に必要となる会計、税務、監査、経営コンサルティングなどのプロフェッショナル・サービスをASTHOMというブランドのもとで提供していきます。
齋藤 HLSもまた海外進出を目指す日本企業のサポートで30年強の歴史があります。現在、米国6拠点、メキシコ2拠点、インド7拠点、ドイツに1拠点を置き、会計監査、税務、経営コンサルティングサービスを提供しています。各国のスペシャリストとの太いパイプを持ちながら、現地スタッフの大半は日本語を話すバイリンガル。これだけ日本企業向けに特化した事務所は、“ビッグ4”以外では希少だと自負しています。一方で、HLSとして未開拓エリアの東南アジアをカバーし、国内市場にも強いのがAGSです。また、廣渡さんがおっしゃるとおり、これまでの提携関係のなかで私たちが“目指したい未来”を同じくしていることもわかりました。ちなみに、お酒の飲み方まで似ている。
廣渡 大事なことです(笑)。
齋藤
そんなAGSとHLSが手を組めば、誰にも真似できない「日本発のグローバルネットワークができる」と考え、提携準備を進めてきました。
また、新会社設立のタイミングもHLSにとっては必然だったと思います。HLSは拠点もクライアントも世界各地に点在しているゆえ、統合的なマネジメントの手法について長らく試行錯誤を続けていました。ところが今回のパンデミックを経て、意外にも状況が好転。時間と場所を気にせず、リモートで集まれる非常にフラットな組織になった。また米国では従来、単純業務をインドにアウトソースする動きが顕著でしたが、これもパンデミックで加速。今では申告書の一部をインドで作成し、その後のレビューまで完了することができています。
つまり「ビジネスは米国、プロセスはインド、会計スペシャリストの業務は各国で」というグローバルな体制が出来上がりつつある。そのうえ、AGSと手を結んだことで日本の窓口機能も強くなります。まさに“機は熟していた”というわけです。
日本発の“血の通った”ネットワークが誕生
ーーASTHOMの組織体制を教えてください。
廣渡
ASTHOMには、AGSとHLSから3人ずつボードメンバーを置きます。もっとも、ASTHOMは株式会社ではありますが、AGSとHLSを中心としたアライアンスネットワークの象徴として捉えていただきたいと考えています。
つまり、実務はこれまでどおりAGSとHLSが担うかたちということ。またAGSとHLSだけのアライアンスであるとも考えておらず、将来的にはASTHOMという一つの“御旗”のもとグローバルネットワークをさらに拡張させていく方針です。我々の仕事に対するスタンス、クオリティに共感してくださる日本の会計事務所にも、ぜひご参加いただきたいと、お声がけをしていく計画です。
齋藤 また、我々が目指すのは「“日本一”の国際会計事務所」です。いずれは「海外進出するならASTHOMにサポートしてもらえばいい」と日本企業に思っていただけるようなポジションを確立したい。のみならず、海外にネットワークを持たない国内の会計事務所や税理士法人のサービスをもお手伝いします。アライアンスネットワークをそこまで広げてこそ、海外進出する日本企業を増やし、ひいては日本経済の発展に貢献できると考えているからです。
廣渡 さらにいえば、ASTHOMで仕事がしたい、海外に活躍の場を求めたいという若き会計人も歓迎します。ASTHOM自体の採用は現段階では考えていないのですが、AGSやHLSの門を叩いていただければ、ASTHOMのポテンシャルに触れる機会があるはずです。数年単位の海外赴任や、プロジェクト単位での国際業務など、幅広い経験が積めることは間違いありません。
ーー改めて、ASTHOMがクライアントである日本企業に提供できる価値とは?
廣渡 両事務所が価値観のすり合わせを行った際、出てきたキーワードが「血の通ったネットワーク」や「ジャパニーズ・クオリティ」でした。すなわち、日本国内と同等以上のレベルの“かゆいところに手が届く”丁寧なアカウンティングサービスを海外でも提供できるということですね。
齋藤 実は「ASTHOM」という社名にも、世界どこにいても「アットホーム」なサービスを受けられるネットワーク、という意味を込めているのです。
廣渡 正直なところ、海外の日系事務所の大半は、現地化の過程で、日本企業を満足させるだけのジャパニーズ・クオリティは提供できていないと感じています。またビッグ4にしても、一定規模以上の日本企業でない限り、なかなか納得のいくサービスを受けられないのが現状ではないでしょうか。
齋藤
その点、我々は海外に進出した日本企業の困り事を熟知しています。私自身、40年にわたり米国で仕事をするなかで、日本企業の趨勢を目の当たりにしてきました。日本企業が直面する壁として大きいのは、例えば言葉の問題や商慣習の違いです。それこそ、米国の専門家に支払うフィーの高さには驚くはず。にもかかわらずレスポンスは遅く、「契約はここまで」といった線引きが厳密です。
そこで我々がバッファとなり、現地の多様なスペシャリストと日本企業をつなぐ。それまで必死になって現地の会計士とコミュニケーションしていた日本企業は、窓口が我々に移り、英語から日本語に切り替わっただけでも、「本当に楽だ」と言ってくださいます。
廣渡 同様のサービスを今回の提携により、まずは米国を含め、世界11カ国31地域で展開していく。また、それ以上に守備範囲を広げていけるよう、各国の日系事務所とのアライアンスを画策しているところです。
日本企業の海外進出は“第二幕”に向かう
ーーでは、新会社ASTHOMの将来展望をお聞かせください。
齋藤 歴史上、日本企業のグローバル化は製造業が先行しました。そして今、テクノロジーの進展により、サービス業のグローバル化が可能な段階に。先ほど「ビジネスは米国で、プロセスはインドで、会計スペシャリストの調達は各国で、窓口は日本で」と申し上げたのがよい例です。こうしたグローバルなアライアンスネットワークを生かし、日本企業が海外進出する際のハードルを下げることが私たちの使命といえます。
廣渡
製造業の海外進出は、日本企業がグローバル化するにあたっての“第一幕”だったのだと思います。その段階の日本企業に寄り添い支えようとしたのが、米国に事務所を開設した当時のHLSだったのでしょう。
これから始まるのは第二幕です。そして、製造業以外の日本企業がグローバル化するのに合わせて、それをサポートする会計事務所も第二幕にふさわしい取り組みが必要になるはず。ASTHOMを、そのようなニーズに貢献できるアライアンスネットワークとして育てることが、目下の課題だと思っています。
ーー最後に、本誌の読者である会計人、企業経営者に向けてメッセージをお願いします。
廣渡
特に若手の会計士が、これからの時代に活躍しようと思うのなら、視野を広げ、多様性を受け入れる経験が不可欠だと思います。そのためには、ASTHOMのようなグローバルなアライアンスネットワーク、あるいはAGS、HLSのような価値観を持った事務所で働くことに目を向けてみるのも一つの選択肢ではないでしょうか。
職業会計人のキャリアは様々です。監査や税務に専門性を置いて活躍する方もいることでしょう。そこに「海外進出する日本企業をサポートする」という新たな活躍の場が生まれるのです。これからのASTHOMに、ぜひ注目してください
齋藤 繰り返しになりますが、ASTHOMの使命とは、最終的には“日本経済の発展”に貢献することです。日本経済の発展には、日本企業の海外進出がマストのはず。日本が誇る優れた技術、製品、サービスを武器に海外市場に輸出しないといけない。その時に我々が果たすべき役割が、日本と世界をシームレスにつなぐ、会計アドバイザリー業務のインフラを整えること。ジャパニーズ・クオリティのアカウンティングサービスを日本語で提供し、日本企業が海外とのギャップに悩まされることなく、事業に専念できる環境を整えていきたい。当然ながら、そのためにはAGSとHLSだけではリソースが不足しています。海外進出を目指す企業、企業を支える会計事務所、そんな事務所で働きたいと願う会計人など、多くの人たちの力を総動員する必要があるのです。ぜひ、我々ASTHOMの仲間になっていただきたい。そう願っています。
※この記事は会計プロフェッショナルのヒューマンドキュメント誌『Accountant’s magazine』vol.68(2023年1月1日発行)に掲載された記事を基に作成したものです。
-
Hotta Liesenberg Saito LLP マネージング・パートナー 米国公認会計士
齋藤 俊輔
1987年、南カリフォルニア大学卒業後、デロイトでの勤務を経て、92年にHLSに入所。多国籍企業の監査やレビューを数多く担当する一方、監査や税務といった会計事務所における伝統的サービスのみにこだわらず、業務監査や組織再編、買収などにかかわるビジネスアドバイザリー・サービスを幅広く提供。 -
株式会社AGSコンサルティング 代表取締役社長 公認会計士・税理士
廣渡 嘉秀
ひろわたりよしひで
1990年、早稲田大学商学部卒業後、センチュリー監査法人(現EY 新日本有限責任監査法人)入所。国際部(ピートマーウィック)に所属。94年、株式会社AGSコンサルティング入社。2004年、同社代表取締役専務に就任。08年、同社代表取締役社長およびAGS税理士法人代表理事に就任。