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ストックオプションとは?かかる税金や仕組み、メリット・デメリットを解説

ストックオプションにかかる税金まとめ|課税タイミングや確定申告について整理しよう

ストックオプションは、あらかじめ決められた価額・株数で株式を取得できる権利のことです。ストックオプションで得た利益に対しては、どのようなタイミングで課税されるのでしょうか。この記事では、ストックオプションの概要を説明するとともに、かかる税金や確定申告などについて解説します。

ストックオプション制度とは

ストックオプションとは?

ストックオプションは、日本語で「自社株購入権」と訳します。ストックオプション制度とは、自社の役員や従業員などに対して「権利を行使できる期間(権利行使期間)内に、あらかじめ定められた価額(権利行使価額)で自社株を購入できる権利」を付与する制度です。また、株式会社における株式報酬制度のうち、新株予約権を付与する制度ともいえます。

 

ストックオプションは、報酬や賞与の代わりに付与されるケースも多く、特にグロース市場に上場している企業のうち9割以上が導入しているといわれています。

 

ここからは、そのストックオプションの仕組みやメリットについて解説します。

 

ストックオプションの仕組み

ストックオプションは、stock(=株式)option(=選択肢)という言葉通り、自社株を購入する(行使する)かどうかは、付与された従業員の意思によって決めることができます。

 

一般に、ストックオプションは自社の株価が上昇したタイミングを狙って行使します。市場株価がストックオプションの権利行使価額より高ければ、実際の価額よりも安く自社株を取得できるためです。取得した自社株はその後も保有し続けられますが、売却してキャピタルゲインを得ることも可能です。

 

また、ストックオプションが付与されていたとしても、自社の株価が権利行使価額を下回っている場合は行使する必要がありません。ストックオプションを付与された人は、リスクを取ることなく「将来株価が上昇したら多くのお金が手に入るかもしれない」という期待感を持つことができるのです。

 

ストックオプションを行使した後に注意するべきなのは、株価の低迷です。株式取得後に株価が取得価額よりも下がってしまうと、売り時を逃すこともあるでしょう。しかし、大半のストックオプション制度において、基準を満たした従業員であればストックオプションは無償で手に入る権利です。権利行使価額を下回っていたとしても売却金額は手に入るため、従業員にとってはほとんどリスクない制度といえます。

 

新株予約権との違い

新株予約権とは、付与された権利を行使すれば企業の株式を一定の価格で購入できる権利であり、ストックオプションは新株予約権の一部です。

 

新株予約権は、投資家や金融機関、関与先企業など対象が幅広い一方で、ストックオプションは株式を発行する企業の取締役や従業員が対象になるという違いがあります。

 

従業員持株会との違い

従業員持株会とは、役員や従業員などが自社株を積立で購入できる制度です。持株会に加入した会員の給与や賞与からお金を天引きし、会員全員から集めたお金で自社株を共同購入します。

 

自社株の単元株(売却できる最低株数)が高額な場合、最初のうちは端株であるため売却することはできません。しかし、単元株に達すると、個人口座に引き出して好きなタイミングで売却できるようになります。

 

ストックオプションでは、権利を行使するまでは株式が手に入りません。しかし、従業員持株会では、積立金額が単元株の購入価額に達すれば株式を手に入れることが可能です。

 

譲渡制限付株式(RS)との違い

譲渡制限付株式(RS)は、ストックオプションと同様に株式報酬制度の一つであり、給与の一部として株式を無償で支給します。

 

この株式はすぐに譲渡(売却)できず、保有期間や勤続年数などの条件を満たさなければお金に換えることはできません。ただし、譲渡制限期間中であっても、配当を得たり、株主総会の議決権を持ったりすることは可能です。

 

譲渡制限付株式(RS)では、権利行使をしなくても株式が手に入るという点がストックオプションと異なります。

 

ストックオプションの種類

ストックオプションの種類

ストックオプションにかかる税金について説明する前に、ストックオプションの種類について整理しましょう。

 

近年、「有償予約権信託」や「信託型ストックオプション」などと呼ばれる新しい手法を活用するケースも増えていますが、本記事では基本的な以下の3種類を紹介します。

 

通常型ストックオプション(税制適格ストックオプション)

「通常型ストックオプション」は、一般に広く用いられているストックオプションです。会社の業績が向上し、株価が上昇した際にインセンティブの意味を持たせるために発行されます。

 

権利行使価額は、権利付与したときの株価以上に設定しなければなりません。税制適格の条件を満たすことが多いため、税制適格ストックオプションとも呼ばれています。

 

株式報酬型ストックオプション(税制非適格ストックオプション)

「株式報酬型ストックオプション」は、株式を報酬とすることが前提のストックオプションです。権利行使価額を低い価額に設定することで、権利行使時の株価がほとんどそのまま報酬となるようにしています。

 

権利行使価額を1円に設定することが多いため、「1円ストックオプション」とも呼ばれています。また、株式報酬型ストックオプションは、税制適格の条件を満たさないため、税制非適格ストックオプションとも呼ばれ、権利行使時と株式売却時の両方で課税されます。

 

有償型ストックオプション

「有償型ストックオプション」とは、新株予約権を時価で発行するストックオプションです。

 

つまり、ストックオプションの権利を得るためには、時価として算出された金額を払う必要があります。

 

そのため、手元資金に余裕がなければ利用しにくいというデメリットがあります。

 

信託型ストックオプション

信託型ストックオプションとは、ストックオプションに信託を組み合わせたものです。

 

ストックオプションを信託に預け、信託期間中に役員や従業員は業績や評価に応じてポイントが付与され、信託期間満了後にポイントに応じたストックオプションが付与されます。

 

信託型ストックオプションの課税方法

信託型ストックオプションの場合、信託会社がストックオプションを付与しており、税制面において分離課税の譲渡所得(約20%課税)との見解がありました。しかし、国税庁は2023年5月にストックオプションに対する課税に対し、以下のような見解を示しました。

 

信託型ストックオプションは信託会社が付与しているものですが、実質的には発行会社が付与しています。したがって、役員や従業員に付与されるストックオプションは「給与に該当する」というものです。

 

その結果、分離課税の譲渡所得(約20%課税)ではなく、ほかの所得と通算し超過累進税率(最大55%)によって所得税が課されることになります。

 

出典:国税庁「ストックオプションに対する課税(Q&A)」

 

ストックオプションにかかる税金

ストックオプションにかかる税金

ストックオプションは、権利行使すると付与された従業員にとって利益になりますが、その利益には税金がかかります。

 

ここからは、そのストックオプションにかかる税金について解説します。

 

課税されるタイミング

ストックオプションを付与された時点では、株式を購入する権利を得ただけに過ぎません。

 

行使するまでは株式を取得したことにはならず、その株式を売却するまでは手元にお金が入りません。そのため、ストックオプションを付与されただけでは税金はかからないということを覚えておきましょう。

 

それでは、ストックオプションに関して課税されるのはどのようなタイミングなのでしょうか?

 

権利を行使したとき

ストックオプションの権利を行使すると、行使価額で株式を取得できます。「株が手に入った」ということは「未確定ながら利益が生じた」ということであるため、権利行使時に課税される場合があります。

 

しかし、これは株式報酬型ストックオプション(税制非適格ストックオプション)の場合のみであり、通常型ストックオプション(税制適格ストックオプション)では課税されません。

 

株式を売却したとき

ストックオプションの権利行使によって取得した株式は、保有者の好きなタイミングで売却できます。株式の譲渡によって得た利益には、一律20.315%(所得税15%、住民税5%、復興特別所得税0.315%)の税金がかかります。

 

一般的な株式譲渡と同様に、ストックオプションで得た株式を売却する際にも20.315%が課税されます。この課税は、株式報酬型ストックオプション(税制非適格ストックオプション)、通常型ストックオプション(税制適格ストックオプション)共通です。

 

従業員にやさしいのは税制適格ストックオプション

上述のように、ストックオプションの課税タイミングは、通常型ストックオプション(税制適格ストックオプション)では株式譲渡時の1回だけ、株式報酬型ストックオプション(税制非適格ストックオプション)では権利行使時と株式譲渡時の2回です。では、株式報酬型ストックオプション(税制非適格ストックオプション)のように、株式を取得した段階で課税されるとどのようなことが発生するでしょうか。

 

まず、1回目の課税タイミングである権利行使(株式取得)時は、「取得した株式の分、給与所得(社員を前提)が増えた」ということになるため、かかる税金は所得税です。しかし、実際には株式を手に入れただけであり、現金が入ってきた訳ではありません。そのため、税金だけを支払わなければならないことになります。また、その年の所得が多額となり、所得税率が上がったり、来年度の住民税についても上昇していきます。

 

これでは、せっかく受け取ったストックオプションの行使に躊躇する人もいるでしょう。株式報酬型ストックオプション(税制非適格ストックオプション)が退職金代わりに使われる場合が多いのも、このような背景があるためです。

 

このような状況に配慮して、ストックオプション税制の優遇措置が設けられているのが通常型ストックオプション(税制適格ストックオプション)です。税制適格ストックオプションに該当すると、ストックオプションの権利行使時には課税はされず、株式を売却したときのみに課税されます。売却益から税金が支払えるので、従業員にとっては税制適格ストックオプションの方がメリットが大きいといえるでしょう。

 

税制適格ストックオプションの要件

税制適格ストックオプションに該当するためには、「付与対象者要件」「権利行使期間要件」「権利行使価額要件」「権利行使価額の制限の要件」など、すべてを満たさなければなりません。

 

付与対象者は、自社や子会社の取締役、従業員などに限られ、監査役や大口株主などは認められません。権利行使期間は、付与決議の日から起算して2年経過した日から10年(一定の要件を満たした場合15年)経過するまでの間に設定する必要があります。また、権利行使価額はストックオプションの付与時点の価額以上である必要があり、権利行使価額が年間1,200万円を超えてはいけません。

 

さらに、税制適格ストックオプションを付与したときは、付与した年の翌年1月31日までに「特定新株予約権等の付与に関する調書」および「特定新株予約権等・特定外国新株予約権等の付与に関する調書合計表」を税務署に提出する必要があります。

 

確定申告について

ストックオプションの権利行使や株式譲渡で課税された場合、税の確定申告は必要なのでしょうか。

 

まず、株式報酬型ストックオプション(税制非適格ストックオプション)で、権利行使(株式取得)のタイミングで課税される場合について説明します。このときにかかる税金は所得税であり、基本的には源泉徴収されます。そのため、ほかに申告すべき収入や所得控除がない限りは、確定申告は不要です。

 

次に、株式報酬型ストックオプション(税制非適格ストックオプション)と通常型ストックオプション(税制適格ストックオプション)において、株式譲渡で譲渡益が発生した場合です。証券会社で口座を作る際は、「源泉徴収ありの特定口座」と「源泉徴収なしの特定口座」そして「普通口座」を選択できます。源泉徴収ありの特定口座にした場合、譲渡益にかかる税金は源泉徴収されるため、確定申告は必要ありません。

 

このように、ストックオプションで税金を支払ったとしても、確定申告しなければならないケースはあまりないと考えられます。証券口座が普通口座や源泉徴収のない特定口座の場合でも、1年間の株式譲渡益が20万円以下の場合は確定申告をする必要がありません。ただし、譲渡損失の3年間繰越控除制度を利用する場合は申告が必要です。

 

ストックオプションを導入するメリット

ストックオプションを導入するメリット

ストックオプションを導入することは、従業員と会社の双方にメリットがあります。

 

どのようなメリットがあるのか、以下で解説します。

 

従業員のモチベーション向上につながる

自社の業績が上がり株価が上がることは、ストックオプションを付与された従業員個人の資産増加にもつながります。

給与や賞与も企業から受け取れる報酬ですが、ストックオプションの付与によって従業員は仕事の成果や企業の業績を「自分事」として捉えやすくなります。

 

人材の確保や流失防止につながる

ストックオプションは、将来的なインセンティブです。

 

特に資金が不足しがちなスタートアップ企業で人材を確保できない場合でも、ストックオプションの付与で魅力を感じてもらえる可能性があります。まだ上場していない企業でも、上場準備に入っている企業であれば上場時に株式の時価が明確になります。このように、ストックオプションの付与は採用活動や人材確保にもつながります。

 

また、ストックオプションには、一定期間権利を行使しない旨を確約する「ロックアップ」制度が存在します。少なくとも権利行使が可能になるまでは、付与した従業員の流出を防止しやすいという特徴もあります。

 

出典:経済産業省公式サイト「ストックオプション税制」

 

従業員側のリスクが少ない

ストックオプションは、株式を購入する「権利」であるため、ストックオプションを行使しないという選択も可能です。

 

たとえば、権利行使価格が1,000円で、現在の株価が1,500円の場合、権利を行使すれば差額500円の利益を得ることができます。一方で、権利行使価格が1,000円で、現在の株価が500円の場合、権利を行使しなければ損失は発生しません。

 

会社の業績が悪化して株価が権利行使価格より下がった場合でも、権利を行使しなければ損失を回避できます。

 

ストックオプションを導入するデメリット

ストックオプションを導入するデメリット

ストックオプションの導入にはメリットがある一方で、デメリットもあります。

 

ここでは考慮しておきたいデメリットについて解説します。

 

株価下落がモチベーションに影響を与える

株価上昇がメリットになる反面、株価の下落はストックオプションによって得られるはずのキャピタルゲイン(売却差益)が減少することになります。

 

そのため、企業のために働いても得られる利益が目減りしていくことになり、従業員のモチベーションに影響を与える可能性があります。

 

株価は一般的に上昇と下落を繰り返すため、一時的な下落なら大きく気にする必要はありません。もし株価の下落が続く場合は、従業員のモチベーション低下に注意しましょう。

 

権利行使後に離職者が出る可能性がある

ストックオプションの制度目的で入社した従業員がいる場合、権利行使によって利益を得た後に離職してしまう可能性があります。

 

ストックオプションの行使を一定期間制限する制度はありますが、行使後の制約はないため、従業員がその後もモチベーション高く働き続けてくれる仕組みや取り組みを検討すると良いでしょう。

 

権利付与者・数に納得感が必要

ストックオプションを「誰に」「どのくらい」付与するかは、企業の有価証券報告書等で公開されます。つまり、従業員は他の従業員がどれくらいストックオプションを付与されたかわかってしまいます。その結果、付与されなかった従業員や、他の従業員の付与数に不満が発生する可能性があります。

 

そのため、従業員の貢献度や期待値など、ストックオプション付与に関する基準やルールが必要です。どこまで明らかにするかは各社経営判断になりますが、社員間の不平等感を防ぐためにも、ある程度従業員の理解・納得感を得られるよう。

 

ストックオプションの導入が向いている企業

ストックオプションの導入が向いている企業

ストックオプションの導入が向いている企業は、上場を目指しているスタートアップ企業や、すでに上場している企業です。

 

上場を目指している企業は事業に勢いがあり、伸び代も大きいです。ストックオプションを導入することで、採用時点で高待遇を提示できなくても優秀な人材を確保できる可能性が高まります。人材の確保は結果的に業績の向上、その先の株価に影響するため、ストックオプション導入に向いているといえます。

 

すでに上場をしている企業でも、ストックオプションを活用して優秀な人材を確保する事が可能です。既存事業や新規事業に将来性があれば、今の株価から上昇することも珍しくありません。また、上場企業の場合は、退職金としてストックオプションを活用する場合もあります。

 

まとめ

ストックオプション制度は、従業員にとって働くモチベーションを与え、企業の業績向上に寄与します。

 

今後の成長が期待できる企業や株式の新規上場を計画している企業では、導入するメリットは大きいでしょう。従業員の税負担を考えると、通常型ストックオプション(税制適格ストックオプション)の方が望ましいですが、多くの要件が定められているため、準備に手間と時間がかかります。

 

ストックオプションは、単に自社株が手に入る制度というだけではなく、従業員にとって将来への希望や熱意にもつながる制度です。そのため、しっかりと制度を理解した上で、従業員のためになるストックオプション制度を設計しましょう。

  • 中村 宏

    監修者

    中村 宏

    株式会社AGSコンサルティング
    取締役 IPO部門長・税理士

    2000年にAGSグループに入社。国内税務、事業承継、M&Aなどの業務に広く関わるとともに、2019年にはIPO部門長に就任。

    現在は年間200プロジェクトを支援するIPO事業の部門長を務める。税理士登録2003年。

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