ストックオプションは、あらかじめ決められた価額・株数で株式を取得できる権利のことです。ストックオプションで得た利益に対しては、どのようなタイミングで課税されるのでしょうか。この記事では、ストックオプションの概要を説明するとともに、かかる税金や確定申告などについて解説します。
2023.01.18(最終更新日:2023.09.26)
ストックオプションは、あらかじめ決められた価額・株数で株式を取得できる権利のことです。ストックオプションで得た利益に対しては、どのようなタイミングで課税されるのでしょうか。この記事では、ストックオプションの概要を説明するとともに、かかる税金や確定申告などについて解説します。
2023.01.18(最終更新日:2023.09.26)
ストックオプションは、日本語で「自社株購入権」と訳します。ストックオプション制度とは、自社の役員や従業員などに対して「権利を行使できる期間(権利行使期間)内に、あらかじめ定められた価額(権利行使価額)で自社株を購入できる権利」を付与する制度です。また、株式会社における株式報酬制度のうち、新株予約権を付与する制度ともいえます。
ストックオプションは、報酬や賞与の代わりに付与されるケースも多く、特に旧マザーズ市場に上場している企業のうち9割以上が導入しているといわれています。
ここからは、そのストックオプションの仕組みやメリットについて解説します。
ストックオプションは、stock(=株式)option(=選択肢)という言葉通り、自社株を購入する(行使する)かどうかは、付与された従業員の意思によって決めることができます。
一般に、ストックオプションは自社の株価が上昇したタイミングを狙って行使します。市場株価がストックオプションの権利行使価額より高ければ、実際の価額よりも安く自社株を取得できるためです。取得した自社株はその後も保有し続けられますが、売却してキャピタルゲインを得ることも可能です。
また、ストックオプションが付与されていたとしても、自社の株価が権利行使価額を下回っている場合は行使する必要がありません。ストックオプションを付与された人は、リスクを取ることなく「将来株価が上昇したら多くのお金が手に入るかもしれない」という期待感を持つことができるのです。
ストックオプションを行使した後に注意するべきなのは、株価の低迷です。株式取得後に株価が取得価額よりも下がってしまうと、売り時を逃すこともあるでしょう。しかし、大半のストックオプション制度において、基準を満たした従業員であればストックオプションは無償で手に入る権利です。権利行使価額を下回っていたとしても売却金額は手に入るため、従業員にとってはほとんどリスクない制度といえます。
株価上昇の背景には、企業の業績アップや事業拡大などポジティブな要因があります。そのため、成長めざましい企業のストックオプションは、将来の株価上昇によって想定以上の報酬になる可能性があります。ストックオプションの行使は、企業の成長に貢献してくれた従業員にインセンティブを上乗せするという意味合いにもなるのです。
また、ストックオプションを付与された従業員は、将来の企業の成長によって大きな報酬を得ることができます。そのため、仕事へのモチベーション向上にもつながるでしょう。
さらに、上場前に退職した従業員のストックオプションは失効する場合が多いため、退職や転職を思いとどまらせる理由にもなります。このように、ストックオプション制度は従業員の離職防止にも効果を発揮します。
自社株を取得する制度には、従業員持株会や譲渡制限付株式(RS)もあります。ストックオプションとはどのような点が異なるのでしょうか。
まず、従業員持株会とは、役員や従業員などが自社株を積立で購入できる制度です。持株会に加入した会員の給与や賞与からお金を天引きし、会員全員から集めたお金で自社株を共同購入します。自
社株の単元株(売却できる最低株数)が高額な場合、最初のうちは端株であるため売却することはできません。しかし、単元株に達すると、個人口座に引き出して好きなタイミングで売却できるようになります。
ストックオプションでは、権利を行使するまでは株式が手に入りません。しかし、従業員持株会では、積立金額が単元株の購入価額に達すれば株式を手に入れることが可能です。
一方、譲渡制限付株式(RS)は、ストックオプションと同様に株式報酬制度の一つであり、給与の一部として株式を無償で支給します。
この株式はすぐに譲渡(売却)できず、保有期間や勤続年数などの条件を満たさなければお金に換えることはできません。ただし、譲渡制限期間中であっても、配当を得たり、株主総会の議決権を持ったりすることは可能です。
譲渡制限付株式(RS)では、権利行使をしなくても株式が手に入るという点がストックオプションと異なります。
ストックオプションにかかる税金について説明する前に、ストックオプションの種類について整理しましょう。
近年、「有償予約権信託」や「信託型ストックオプション」などと呼ばれる新しい手法を活用するケースも増えていますが、本記事では基本的な以下の3種類を紹介します。
「通常型ストックオプション」は、一般に広く用いられているストックオプションです。会社の業績が向上し、株価が上昇した際にインセンティブの意味を持たせるために発行されます。
権利行使価額は、権利付与したときの株価以上に設定しなければなりません。税制適格の条件を満たすことが多いため、税制適格ストックオプションとも呼ばれています。
「株式報酬型ストックオプション」は、株式を報酬とすることが前提のストックオプションです。権利行使価額を低い価額に設定することで、権利行使時の株価がほとんどそのまま報酬となるようにしています。
権利行使価額を1円に設定することが多いため、「1円ストックオプション」とも呼ばれています。また、株式報酬型ストックオプションは、税制適格の条件を満たさないため、税制非適格ストックオプションとも呼ばれ、権利行使時と株式売却時の両方で課税されます。
「有償型ストックオプション」とは、新株予約権を時価で発行するストックオプションです。
つまり、ストックオプションの権利を得るためには、時価として算出された金額を払う必要があります。
そのため、手元資金に余裕がなければ利用しにくいというデメリットがあります。
ストックオプションは、権利行使すると付与された従業員にとって利益になりますが、その利益には税金がかかります。ここからはそのストックオプションにかかる税金について解説します。
ストックオプションを付与された時点では、株式を購入する権利を得ただけに過ぎません。行使するまでは株式を取得したことにはならず、その株式を売却するまでは手元にお金が入りません。そのため、ストックオプションを付与されただけでは税金はかからないということを覚えておきましょう。
それでは、ストックオプションに関して課税されるのはどのようなタイミングなのでしょうか?
ストックオプションの権利を行使すると、行使価額で株式を取得できます。「株が手に入った」ということは「未確定ながら利益が生じた」ということであるため、権利行使時に課税される場合があります。
しかし、これは株式報酬型ストックオプション(税制非適格ストックオプション)の場合のみであり、通常型ストックオプション(税制適格ストックオプション)では課税されません。
ストックオプションの権利行使によって取得した株式は、保有者の好きなタイミングで売却できます。株式の譲渡によって得た利益には、一律20.315%(所得税15%、住民税5%、復興特別所得税0.315%)の税金がかかります。
一般的な株式譲渡と同様に、ストックオプションで得た株式を売却する際にも20.315%が課税されます。この課税は、株式報酬型ストックオプション(税制非適格ストックオプション)、通常型ストックオプション(税制適格ストックオプション)共通です。
上述のように、ストックオプションの課税タイミングは、通常型ストックオプション(税制適格ストックオプション)では株式譲渡時の1回だけ、株式報酬型ストックオプション(税制非適格ストックオプション)では権利行使時と株式譲渡時の2回です。では、株式報酬型ストックオプション(税制非適格ストックオプション)のように、株式を取得した段階で課税されるとどのようなことが発生するでしょうか。
まず、1回目の課税タイミングである権利行使(株式取得)時は、「取得した株式の分、給与所得(社員を前提)が増えた」ということになるため、かかる税金は所得税です。しかし、実際には株式を手に入れただけであり、現金が入ってきた訳ではありません。そのため、税金だけを支払わなければならないことになります。また、その年の所得が多額となり、所得税率が上がったり、来年度の住民税についても上昇していきます。
これでは、せっかく受け取ったストックオプションの行使に躊躇する人もいるでしょう。株式報酬型ストックオプション(税制非適格ストックオプション)が退職金代わりに使われる場合が多いのも、このような背景があるためです。
このような状況に配慮して、ストックオプション税制の優遇措置が設けられているのが通常型ストックオプション(税制適格ストックオプション)です。税制適格ストックオプションに該当すると、ストックオプションの権利行使時には課税はされず、株式を売却したときのみに課税されます。売却益から税金が支払えるので、従業員にとっては税制適格ストックオプションの方がメリットが大きいといえるでしょう。
税制適格ストックオプションに該当するためには、「付与対象者要件」「権利行使期間要件」「権利行使価額要件」「権利行使価額の制限の要件」など、すべてを満たさなければなりません。
付与対象者は、自社や子会社の取締役、従業員などに限られ、監査役や大口株主などは認められません。権利行使期間は、付与決議の日から起算して2年経過した日から10年(一定の要件を満たした場合15年)経過するまでの間に設定する必要があります。また、権利行使価額はストックオプションの付与時点の価額以上である必要があり、権利行使価額が年間1,200万円を超えてはいけません。
さらに、税制適格ストックオプションを付与したときは、付与した年の翌年1月31日までに「特定新株予約権等の付与に関する調書」および「特定新株予約権等・特定外国新株予約権等の付与に関する調書合計表」を税務署に提出する必要があります。
ストックオプションの権利行使や株式譲渡で課税された場合、税の確定申告は必要なのでしょうか。
まず、株式報酬型ストックオプション(税制非適格ストックオプション)で、権利行使(株式取得)のタイミングで課税される場合について説明します。このときにかかる税金は所得税であり、基本的には源泉徴収されます。そのため、ほかに申告すべき収入や所得控除がない限りは、確定申告は不要です。
次に、株式報酬型ストックオプション(税制非適格ストックオプション)と通常型ストックオプション(税制適格ストックオプション)において、株式譲渡で譲渡益が発生した場合です。証券会社で口座を作る際は、「源泉徴収ありの特定口座」と「源泉徴収なしの特定口座」そして「普通口座」を選択できます。源泉徴収ありの特定口座にした場合、譲渡益にかかる税金は源泉徴収されるため、確定申告は必要ありません。
このように、ストックオプションで税金を支払ったとしても、確定申告しなければならないケースはあまりないと考えられます。証券口座が普通口座や源泉徴収のない特定口座の場合でも、1年間の株式譲渡益が20万円以下の場合は確定申告をする必要がありません。ただし、譲渡損失の3年間繰越控除制度を利用する場合は申告が必要です。
ストックオプション制度は、従業員にとって働くモチベーションを与え、企業の業績向上に寄与します。今後の成長が期待できる企業や株式の新規上場を計画している企業では、導入するメリットは大きいでしょう。従業員の税負担を考えると、通常型ストックオプション(税制適格ストックオプション)の方が望ましいですが、多くの要件が定められているため、準備に手間と時間がかかります。
ストックオプションは、単に自社株が手に入る制度というだけではなく、従業員にとって将来への希望や熱意にもつながる制度です。そのため、しっかりと制度を理解した上で、従業員のためになるストックオプション制度を設計しましょう。