• 対談

M&Aによる事業承継を成功に導いた、経営者の心理とは

株式会社シンヨウ・ロジ
取締役会長 古沢 継雄 様

1972年の設立以来、食品物流のプロフェッショナルとして、輸送コストや在庫ロスの低減を実現するために最適なソリューションを提案し続けているシンヨウ・ロジ。
61歳という若さで事業承継を決断し、ヤマタネグループとのM&Aを実現した取締役会長の古沢継雄氏に、AGSコンサルティングの廣渡嘉秀が話を伺った。

シンヨウ・ロジの創業期

廣渡 はじめまして、本日はよろしくお願いします。
偶然なことに、御社の遠藤常務が弊社常務の和田と高校の同級生だそうで(笑)。

古沢 そのようですね(笑)。

廣渡 古沢さんは、62歳というご年齢にしてはずいぶんお若く見えますが、何かスポーツなどなさっているんでしょうか?

古沢 今はあまり。昔はゴルフが好きだったんですが、7年ほど前に止めてしまいました。

廣渡 相当やりこまれていて、お上手そうなイメージですが(笑)。

古沢 仕事の関係上取引先の方々とご一緒することが多かったものですから、否が応でも上達してしまいました(笑)。

廣渡 このあたり(千葉県)はゴルフ場も多いですし、うらやましい環境です。

古沢 かつてはゴルフばかりやっていましたが、そこで築いた人間関係のおかげで、ピンチの時もみなさんに応援していただくことができた。

廣渡 古沢さんはドライバーとして新卒入社されたと伺いました。

古沢 私たちシンヨウ・ロジは、創業時にアイスクリームの問屋事業を千葉で展開していたところ、取引していた森永製菓から県内の問屋さんへの配送も担うようになったのが、運送会社としてのスタートになります。
当時は新葉運輸倉庫という社名で、私の入社当時は30名ほど在籍していました。

廣渡 冷凍倉庫などの設備投資を進めていたことで、事業が拡大できたということでしょうか?

古沢 それがそうでもなくて、たまたま自社でドライアイスの販売もやっていたんです。葬儀屋さんにドライアイスを卸したりもしていましたね。当時はご遺体の保存にドライアイスを使用していたものですから。
ただ、当時はこれが優位性となっていたんですが、後々設備投資が遅れてしまう一因にもなってしまいます。

役員就任早々に味わった融資ストップ

廣渡 28歳で取締役に就任され、相当ご苦労されたようですが。

古沢 ちょうど小売業態も転換期に入り、私たちとしても既存事業を見直すべきタイミングでした。それがなかなか進まず経営難となってしてしまい、銀行から融資ストップを宣告されてしまいました。

廣渡 まさにピンチですね。

古沢 宣告のあった翌朝まずやったのは、トラックを購入していたいすゞ自動車の支店長に、支払期日のご相談をお願いすることでした。その件で銀行とはいろいろありましたが(笑)、いすゞの支店長には快く受け入れていただき、本当に助けられました。

廣渡 当時の経営難は、業績悪化によるところが大きいのでしょうか?

古沢 どちらかというと、内部管理体制が杜撰だったということです。それから、毎日のように財務責任者と資金繰りの話を繰り返し、再建を目指しました。聞く方も辛かったですが、計算するほうはもっと辛かったでしょうね(笑)。

廣渡 当時の古沢さんは社長だったんですか?

古沢 いえ、まだ社長ではありませんでした。なぜ社長でもない私が前線に出ていたかというと、当時社長であった創業オーナー家が会社に来なくなってしまったんですよ。

廣渡 なんと、逃げてしまった。

古沢 そこまでは言いませんが(笑)。
私は実家が事業に失敗したのを見てきた経験もあり、なんとかしなければならないなと。当時は従業員も5、60名ほどになっており、ご家族を路頭に迷わせてしまうことになりますから。

再建のポイントは、徹底した経営効率

廣渡 そこから、どのように建て直されたんでしょうか?

古沢 1年ぐらい経った頃でしょうか、あるお客様との取引するようになったのがきっかけです。初月は数十万円ほどの売上からスタートしたところ、1年も経たないうちに約20倍にまで拡がった。まさにそのおかげで、なんとか持ち堪えることができました。

廣渡 それはまた、不思議なご縁ですね。

古沢 これが面白いもので、銀行が融資してくれない訳ですから、今ある車と人で、その20倍近く増えた分の仕事もこなすしかない。それは生産性がいいに決まってますよね(笑)。

廣渡 その利益を返済に回し、債務を減らすことで息を吹き返した。

古沢 そうしているうちに、ある下請け案件の荷主様から「直接取引したほうが早い。何とかならないか?」と言われた。困りましたよ(笑)。

廣渡 それは困りますよね、取引先との関係がありますから(笑)。

古沢 仕方なく、取引先の本社まで頭を下げに伺ったところ、「あなたのところならいいよ」と承諾いただいたんです。私たちが対応できないお客様をご紹介するなど、関係性が築けていたということもありますが。
いま思い返してみても、みんなに助けられているなと実感します。

廣渡 設備投資ができないなかで配送効率を高めた。決して容易なことではないはずですが、どのように実現したのでしょうか?

古沢 トラックの台数は決まっていますから、お客様にご相談するしかない。「この時間ならこの料金で運びます」と、通常の時間帯よりも安い金額を提示して真剣にお話しすると、案外検討してくれるものなんですね。
軌道に乗り始めてから3年ほどすると、金融機関も「これはおかしい、何かあったのでは」と様子を見に来たようです(笑)。

廣渡 経営難からの建て直しは相当難しいものですからね。

古沢 今となっては銀行に感謝しています。融資をストップしてくれたからこそ返済ができた。

廣渡 銀行としては、そう言われてしまうとバツが悪いかも知れません(笑)。

古沢 その銀行系のシンクタンクのコンサルタントが当社に出入りしているんですが、融資をストップされた当時の担当行員だったんですよ。

廣渡 へぇ・・・それもものすごい偶然ですね。

古沢 当時の話を揶揄すると、誉め言葉が返ってくるんです。
「私も百社を超えるお客様を担当してきましたが、ここまで建て直されたのは御社だけです」と。
ぜんぜん嬉しくないですが(笑)。

青果物流の変遷と、独自の創意工夫

廣渡 少し事業のお話を伺えればと思います。スーパーマーケットとの取引が中心となるようですが、市場からスーパーにシフトしていったポイントはどのあたりにあるのでしょうか?

古沢 市場の時代は「倉前渡し」が当たり前で、八百屋さんが商品を市場に取りに来ていたんです。ところが、スーパーなど量販店の時代になると、店舗まで配送することが求められるようになった。そこで市場に近い私たちがお声がけいただき、伸びていくきっかけとなりました。

廣渡 市場と店舗を繋ぐ役割が必要になってきた。

古沢 そうです。一般的な物流だと「明日これだけ荷物があるから、車が何台、作業員が何名必要になる」という考え方が常識ですよね。それが青果だと、終わってみなければわからない。

廣渡 それは興味深い。

古沢 なぜかというと、青果は売れ残ると腐ってしまいますから、余った商品を値下げしていく。すると、バイヤーは予定外のものを大量に買っていくこともあるんです。

廣渡 なるほど、特売品として捌けますもんね。

古沢 私たち物流業者としては、そうした追加の荷物も全て運ばなくてはならない。そこが青果の難しいところですね。

廣渡 車や作業員など、リソースのコントロールが難しい。

古沢 市場というものは、農家さんが出荷したものを全て受け入れる必要があります。なので、損失を出さないためには売り切るしかない。スーパーは大量に購入してくれますから、多少安くても捌けると助かるわけです。

廣渡 こうしたニーズに柔軟に対応できる物流業者は限られてくる、ということでしょうか。

古沢 私たちは市場のすぐ近くに拠点がありますから、他社に比べて優位性がある。結果として、競合するスーパー各社の荷物を同じトラックで配送してしまうわけです(笑)

廣渡 なるほど、だから御社のトラックはシンプルな白で統一されているんですね。

古沢 どのお客様に届けても良いように、わざと目立たないデザインにしています。
私たちの事業のポイントは、地の利を活かしてターゲットを千葉県一円に絞ることと、安易に設備投資しないこと。今ある車でできないような新規の仕事は、基本的に引き受けません。

廣渡 やはり、建て直しの時代に苦労された経験が活きている。

古沢 先程と似たような話にはなりますが、現在の主要取引先であるせんどう(市原市)というスーパーから発注いただいた際も、トラック16台近くと相当な規模だったにも関わらず、トラックを1台も増やしませんでした。

廣渡 そんなことが可能なんですか?

古沢 朝は青果の配送を行っていたんですが、積込作業に時間を要しており、その間2時間以上トラック自体は稼働していなかった。この空白を利用したんです。もちろんそれほど単純な話ではありませんし、さまざまな調整が必要でしたが、その時間ならではの金額をご提案することで協力いただくことができた。
むしろ従業員に説明し、理解してもらうことのほうが大変でしたが(笑)。

選択肢としてのM&A

廣渡 せんどうというと、ヤオコー(埼玉県川越市)の持分法適用会社となりました。

古沢 2021年の10月ですから、ちょうどAGSの宗像さんとM&Aの話を進めていた時でした。驚きましたね。
千葉県ではせんどうとワイズマート(浦安市)が双璧になるんだと思いますが、こうした動きも、私たち自身のM&Aを改めて真剣に考えるきっかけになりました。

廣渡 オーナーの持ち分整理でも相当ご苦労されたようですが(笑)、最終的にご自身の株式をヤマタネグループに売却されることになります。

古沢 そうですね(笑)、苦労はしたものの、株式を整理できていたことは結果的に良かったなと思います。。

廣渡 当初はM&Aありきではなく、選択肢のひとつとして検討されていたと伺っています。

古沢 娘婿や常務に承継することを考えた時期もありましたが、苦労させたくない気持ちが強かったんです。M&Aの仲介会社からは頻繁にダイレクトメールが届いていましたし、いろいろ将来について思い悩んでいるなかで顧問の金坂税理士に相談したところ、AGSをご紹介いただいたのがはじまりです。
M&Aの仕組みや業界のことはわかっていませんでしたが、AGSと何度も事前に打ち合わせをしたり複数の候補先をご提案いただくなかで少しずつイメージできるようになりました。

廣渡 複数の候補先からオファーがあったものの、検討を一時中断されたこともあったとか。

古沢 方針が固まらずM&A自体を数年ストップしようとも考えましたが、金坂税理士もAGSも、急かさずじっくりコミュニケーションを続けてくれた。そして2020年末、ヤマタネと出会うことになります。

事業承継を考える経営者のみなさんに伝えたいこと

廣渡 私たちAGSとの初回面談から2年半という時間をかけてクロージングとなりましたが、61歳という若さでのご決断は、なかなかできることではありません。

古沢 生鮮市場に長く携わってきましたから、「鮮度が悪くなってしまったものは買いたたかれてしまう」という感覚が身に染みついています。どうせ売るのであれば、新鮮なうちのほうがお客様や従業員のためになるだろう、と。

廣渡 なるほど、事業承継を考える経営者のみなさんにも是非聞いていただきたい言葉ですね。

古沢 あと、AGSでご担当いただいた宗像さんがまた熱心で、気が利くんですよ。時には空振りすることもありましたが(笑)、いつも先回りを心掛けてくれたおかげで、今回のM&Aも大きく進めることができたと思っています。

廣渡 ありがとうございます(笑)。
古沢さんがおっしゃるように、次の世代に苦労させたくないという想いが、鮮度の高いタイミングでのご決断に繋がった。まさに三方よし、ですね。

古沢 はじめてヤマタネのお話をいただいた時、「この話、私さえ欲を出さなければまとまってしまうかもな」と直感したんです。私たちのノウハウや取引先を評価いただいたうえで、適正価格を提示いただけそうでしたから。

廣渡 欲というものは感情論ですから、本当に難しい問題です。私たちはコンサルの立場なので身に染みてわかりますが、実際に交渉のタイミングになると少しでも高く売ろうとしてしまい、決裂してしまうケースが多い。

古沢 もちろん、少しでも高く売れたほうが私としては嬉しいですが、やはりお客様と従業員が大事ですから。

廣渡 言うは易く行うは難しで、実行できるオーナーはなかなかいらっしゃらない。周囲から「そんな条件ではもったいない」などと言われるでしょうから(笑)。本当にご立派ですよ。

M&Aを有利に進めるために

古沢 M&Aというものは、お互いの波長が合わないことには成立しないと思うんです。当初、何社かご紹介いただいて膝詰めで話したものの、残念ながら進まなかった。

廣渡 ご縁もそうですが、案外直感が大切ですね。追い詰められた状態で交渉するM&Aは難しくなりますが、古沢社長の場合は心理的に良いポジションで交渉に臨まれていたのが成功のポイントだったと思います。

古沢 事業も好調で、幸い資金的にも困っていたわけではない。私自身も健康ですから、無理に売らなくても良いと開き直った気持ちがありました。売り手の心理状態としては理想的でしたね(笑)。もちろん、ノウハウや実績の豊富なAGSにサポートいただかなかったら実現しなかった話ですが。

廣渡 ありがとうございます。今後のために、ご評価いただけたポイントがあればご教示ください。

古沢 本当にプロだなと感心することが多かったですね。今日いろいろ打合せた内容が、翌朝には一表に整理されて送られてくるわけですよ。ご存知のとおり私は朝早いですから、5時にはパソコンを開くんですが、届いている(笑)。数字の分析は会計事務所ならではのレベルだと思いますし、資料の内容もタイミングも的確ですから、事前にしっかりと準備することができ、最小限のキャッチボールで交渉を進めることができました。

廣渡 デューデリジェンスの途中に税務調査が入ったと伺いましたが、大変だったのではないですか?

古沢 そのあたりについても、AGSと金坂先生がしっかり連携いただいたおかげで無事に終えることができました。税務リスクがないことを証明できたので、むしろちょうど良かったかも知れません(笑)。
税務調査もそうですが、M&Aのようにこれまでに経験したことのないような大きなイベントを進めるうえでは予期できないようないろいろなことが起きますから、多少コストがかかったとしても信頼できるプロフェッショナルに伴走してもらうほうが、結果的にプラスだと思いますね。

廣渡 今後ともよろしくお願いします。
本日はどうも、ありがとうございました。

※この記事は2023年4月4日の取材を基に作成したものです。
※対談時はマスクの着用など、感染防止策を講じたうえで実施しています。

【シンヨウ・ロジのご紹介】
1972年の設立以来、食品輸送に特化し、スーパーなどへの配送業務や物流センター運営、倉庫事業、その他のスポット対応など荷主のあらゆるニーズに対応するトータル物流サービスを展開。
一般的な運送業者と異なり、新鮮な食品を運送するため、温度管理や運行管理には常に最大限の注意を払い、「安全、迅速、正確」をモットーに、鮮度を保ったまま輸送できるよう心掛けている。
食品物流のプロフェッショナルとして、常にお客様の視点に立ち、輸送コストや在庫ロスの低減を実現するための最適なソリューションをご提案している。
株式会社シンヨウ・ロジのHPはこちら

  • 古沢 継雄

    古沢 継雄

    ふるさわつぐお

    株式会社シンヨウ・ロジ 取締役会長

    1961年、千葉県生まれ。79年新葉運輸倉庫株式会社に入社し、取締役、常務取締役を経て、2008年に代表取締役社長に就任、2022年に取締役会長に就任、現在に至る。

  • 廣渡 嘉秀
    interviewer

    廣渡 嘉秀

    ひろわたりよしひで

    株式会社AGSコンサルティング 代表取締役社長

    1967年、福岡県生まれ。90年に早稲田大学商学部を卒業後、センチュリー監査法人(現 新日本監査法人)入所。国際部(KPMG)に所属し、主に上場会社や外資系企業の監査業務に携わる。 94年、公認会計士登録するとともにAGSコンサルティングに入社。2008年より社長就任。同年のAGS税理士法人設立に伴い同法人代表社員も兼務し、現在に至る。