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独立企業間価格(ALP)とは?定義から算定方法まで分かりやすく解説

独立企業間価格(ALP)とは?定義から算定方法まで分かりやすく解説

独立企業間価格は、移転価格税制における重要な要素の1つです。国外関連企業と取引のある法人は、移転価格課税に備えて独立企業間価格への理解を深めておくことが大切であるため、本記事では、独立企業間価格の概要や移転価格税制との関連性、算定方法について解説します。

独立企業間価格(ALP)とは

独立企業間価格(ALP)とは

独立企業間価格とは、国外関連企業との取引において、移転価格税制が適用される際に用いられる価格のことです。英語ではALP(Arm’s Length Price)と表記されます。

 

独立企業間価格は「国外関連者と取引を行う場合、支配関係がない第三者と同水準の価格で取引すべき」という考え方に基づいており、国外関連企業との取引価格の操作によって国外に所得が移転しているのか否かを判断する基準として、設けられています。

 

移転価格税制との関連性

上述の「移転価格税制」とは、国際的なグループ会社との取引価格を利用して、国外に所得を移転させて租税回避することを防止するための制度です。

 

「移転価格」とは、国外関連者との取引価格のことを指し、移転価格の設定次第で、課税に大きな影響を与えます。日本のような高税率国の課税を逃れようと、日本より税率が低い国へ所得を移転させるといった濫用を防ぐために存在している制度です。

 

この移転価格税制の適用を判断する際、国外関連取引が支配関係のない第三者と同じ価格水準で行われているかどうかを比較します。その比較をする際に用いられる価格水準が「独立企業間価格」ということです。 つまり、移転価格税制を適用するためには、独立企業間価格が必要であるということです。

 

 

独立企業間価格の具体例

ここでは、独立企業間価格を利用した課税イメージを紹介します。以下のような2つの取引があるとしましょう。

 

国外関連取引

  • 対象法人:100万円で仕入れ、国外関連者に200万円で販売(利益100万円)
  • 国外関連者:上記商品を顧客企業に400万円で販売(利益200万円)

 

比較対象取引

  • 対象法人:100万円で仕入れ、国外の第三者に300万円で販売(利益200万円)
  • 国外の第三者:上記商品を顧客企業に400万円で販売(利益100万円)

 

国外関連取引で移転価格税制が適用されると、対象法人は商品を200万円ではなく、独立企業間価格である300万円で国外関連者に販売したとみなされます。

 

その結果、対象法人の税務上の利益は100万円から200万円に増えるため、税負担も膨らみます。

 

移転価格課税による税負担

具体例で記載した国外関連取引の場合、国内の対象法人は独立企業間価格で取引を行ったものとして課税されます。一方で、国外関連者に対する海外での課税額は変わりません。

 

つまり、移転価格税制が適用されると、国外関連者で申告課税されている所得の一部が国内の対象法人で課税されることから、国際的二重課税が生じ、グループ企業全体の税負担が増えてしまいます。 国外関連者との取引ボリュームが大きくなる場合には、移転価格課税に備えることが大切です。

 

独立企業間価格の算定方法

独立企業間価格の算定方法

国内における独立企業間価格の算定方法には、OECD移転価格ガイドラインで国際的に認められた複数の方法があります。OECD移転価格ガイドラインとは、各国の移転価格税制の立法及び課税当局の移転価格課税の執行の指針として作成されたものです。

 

どの算定方法を選択するかによって、独立企業間価格は大きく変わる可能性があります。適用の優先順位はなく、以下の中から最も適切な方法を選ぶベストメソッドルールが多くの国で採用されています。

 

基本三法

基本三法とは、独立企業間価格の算定方法のうち「独立価格比準法」「再販売価格基準法」「原価基準法」の3つの総称です。

 

それぞれの特徴は以下の通りです。

 

独立価格比準法

独立価格比準法とは、国外関連取引と比較対象取引の価格を直接比較する方法です。

 

国外関連取引と同種製品及び同様な条件で第三者企業との間で行われた取引価格を独立企業間価格とします。独立企業間価格を最も直接的に算定できる方法と言えるでしょう。

 

ただし、高い類似性が求められることから比較対象取引がない場合がほとんどで、採用されるケースは多くありません。

 

再販売価格基準法

再販売価格基準法とは、国外関連取引および比較対象取引の売上総利益率(売上総利益÷売上高)を比較する方法です。

 

例えば、類似の取引である比較対象取引における売上総利益率が20%であるとした場合、国外関連者が国内の親会社から仕入れた商品を顧客に販売する際に、売上総利益率が20%となる価格を独立企業間価格とします。

 

このように、再販売価格を基準とするため、商社や販売会社に適した算定方法と言えます。

 

原価基準法

原価基準法とは、国外関連取引および比較対象取引のマークアップ率(売上総利益÷売上原価)を比較する方法で、考え方は再販売価格基準法と同様です。

 

第三者と行った比較対象取引と国外関連者のマークアップ率が同水準となるように、独立企業間価格を算定します。

 

売上原価を基準とするため、製造業に適した算定方法と言えます。

 

その他の方法

独立企業間価格を算定する際は、基本三法のほかに以下のような方法も認められています。

 

取引単位営業利益法

取引単位営業利益法とは、対象法人(または国外関連者)と比較対象企業の営業利益率を比較する方法です。

 

基本三法のように独立企業間価格を直接算定するのではなく、比較対象企業の利益率水準を独立企業間価格として、個々の取引について移転価格に問題がないかを確認します。

 

独立企業間価格の算定において使用されることが多い方法です。

 

利益分割法

利益分割法とは、対象法人と国外関連者の合算利益を人件費などの分割要因(分割ファクター)で分割することによって独立企業間価格を算定する方法です。

 

分割方法によって、「寄与度利益分割法」「比較利益分割法」「残余利益分割法」の3つに分けられます。

 

3つの利益分割法の概要

  • 寄与度利益分割法:合算利益を、その発生の寄与度で分割する方法
  • 比較利益分割法:合算利益を、比較対象取引の利益配分率をもとに分割する方法
  • 残余利益分割法:合算利益から基本的利益を控除し、残った利益(残余利益)を一定の要因で分割する方法

 

ディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)

DCF法は、令和元年度税制改正において新たに導入された方法です。

 

国外関連取引から生じると予測される利益を、合理的な割引率で割り引いた現在価値をもとに算定します。

 

比較対象取引を見出すことが困難な場合、利益分割法が適用できない場合などに有効な方法と言えます。

 

独立企業間価格の算定における留意点

独立企業間価格の算定における留意点

上記のような方法を駆使して独立企業間価格を算定する際、以下のような留意点があります。

 

比較可能性の検討

「比較可能性」とは、独立企業間価格を算定する際に比較対象取引を選定するための要素です。

取引される資産の「同種性」、取引段階・取引数量・法人の果たす機能などの「類似性」などが主な基準となります。

 

その基準をもとに、各計算方法の指標となる価格や利益率に影響を及ぼす差異がないこと、差異があっても調整できること、といった要件の充足が検討されます。

 

差異の調整が必要である場合

国外関連取引と比較対象取引に差異があり、独立企業間価格の算定に大きな影響を与える場合は差異の調整を行います。

 

国税庁の移転価格事務運営要領では、「貿易条件の調整(運賃・保険料相当額を加減算する)」「決済条件の調整(決済までの金利相当額を加減算する)」などの差異調整方法が示されています。

 

比較対象取引が複数ある場合の対応

比較対象取引が複数ある場合は、原則として、比較対象利益率などの四分位に基づいて独立企業間価格を算定します。

 

移転価格課税リスクへの備え

移転価格課税リスクへの備え

移転価格課税リスクに備えるためには、「ローカルファイル」を作成しておくことが大切です。

ローカルファイルとは、独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類のことを指します。「前事業年度の国外関連取引の合計金額が50億円以上、または無形固定資産取引の合計金額が3億円以上」の要件を満たす法人には、確定申告書の提出期限までにローカルファイルを作成し、保存することが義務付けられています。

そのローカルファイルを用意する上で、必要な情報例をこの章で紹介いたします。

 

棚卸資産の売買

国外関連取引が棚卸資産の売買である場合は、以下の情報が必要です。

 

  • 棚卸資産の種類
  • 主要売上先
  • 主要仕入先
  • 取引条件
  • 取引開始時期

 

国外関連者の役割や機能、取引条件は単価や通貨、貿易条件などが分かる書類を準備しておきましょう。

 

役務(サービス)の提供

国外関連取引が役務提供の場合は、以下の情報が必要です。

 

  • 役務の内容
  • 主要提供先
  • 取引条件
  • 提供開始時期

 

役務を外注している場合は、主要外注先も提示する必要があります。

 

金銭の貸借

国外関連取引が金銭の貸借の場合は、以下の情報が必要です。

 

  • 元本および金利の金額・通貨
  • 貸借時期・期間
  • 担保および保証の有無

 

上記のほかに、取引の目的なども提示できるように準備しておくといいでしょう。

 

まとめ

グローバル化に伴い、大企業だけでなく中小企業においても移転価格課税リスクは高まっています。

 

国外関連者との取引がある場合は、独立企業間価格への理解を深めておくことが大切です。

 

移転価格課税への備えとして、必要に応じてローカルファイルを作成しておきましょう。

  • 渡辺 清弥

    監修者

    渡辺 清弥

    株式会社AGSコンサルティング
    国際事業部パートナー税理士、日米公認会計士

    Big4の大手会計事務所にて東京を始め、ニューヨーク、ワシントンD.C.にて、25年以上に渡り移転価格に関するプロジェクト、その他法人税申告等の税務業務を経験。

    ミネソタ大学において税法の修士号(Master of Taxation)を取得するなど、幅広い税務経験を有する移転価格専門家。

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