企業の「廃業」とはどんな意味を持つか解説しています。似たような言葉として存在する「倒産」「解散」「休業」などとの違いや廃業が増えている背景、企業が廃業を選択するメリット・デメリット、実際に廃業をする際の手順や手続きについても紹介しています。廃業を検討されている場合は参考にしてください。
目次
- 廃業の意味とは
- 廃業と関連する主な用語
- 「倒産」との違い
- 「閉店」との違い
- 「解散」との違い
- 「清算」との違い
- 「休業」との違い
- 近年の廃業動向(2022年のデータ)
- 廃業が増加している背景
- 廃業を選択するメリット
- 廃業を選択するデメリット
- 廃業する際の手続き・手順
- 廃業を回避する「M&A(事業承継)」という選択肢
- 従業員の雇用を守れる
- 会社や事業自体を存続できる
- 取引先への影響を抑えられる
- M&A(事業承継)に関する支援策は豊富
- まとめ
廃業の意味とは
廃業とは、経営者が自らの意思で事業活動を永続的に終了させることを指します。
事業者の選択により決定するもので、廃業の原因としては後継者不足や事業者のリタイア、市場の変化による事業戦略の見直しなどが挙げられます。
廃業は経済的な理由だけでなく、戦略的、個人的な背景なども含む多面的な意思決定の結果として捉えられます。
廃業と関連する主な用語
廃業と関連する用語として、倒産や閉店、休業や解散などがあります。
ここでは、それぞれの意味と廃業との違いについて解説します。
「倒産」との違い
倒産とは、債務超過や経営不振などで経営が行き詰まり、事業を強制的に停止せざるを得ない状態を指します。
倒産は「法的倒産」と「私的倒産」に大別され、法的倒産では再建型と清算型、私的倒産では銀行取引停止と内整理に分類されます。会社がなくなるというイメージは廃業と似ているかもしれませんが、倒産には事業者の意思が反映されていない場合が多く、社会的な印象も異なります。
廃業は自主的な決断であり、ビジネスが成功していても選択される場合があります。
「閉店」との違い
閉店は、事業の一部である店舗や拠点の閉鎖を指しており、事業自体の終了を意味しません。たとえば、全国にチェーン展開するラーメン屋事業が経営戦略の見直しにより、利益が上がらない地域の店舗のみを閉める決断をした場合、「閉店」となります。
一方、後継者がおらず、ラーメン屋事業の活動をすべて終了し従業員との雇用契約を終了させ、事業登記も抹消した場合が「廃業」です。
廃業は事業の全体的な終わりを意味する一方で、閉店はあくまでその一部の終わりを表すため、閉店と廃業ではその範囲と意味合いに違いがあります。
「解散」との違い
解散は、法人としての存在が終わる手続きの最初のステップを意味します。たとえば、後継者不足で事業を終了する会社が、すべての商取引を終了し事業活動を停止したとしても、法人としてはまだ存在します。
未解決の債権・債務の管理や財産の整理などを行う場合、これは「廃業」となります。事業が行われていなくても、会社としての法的な義務や権利は保持されている状態です。
一方で、「解散」は、株主総会の決議や破産手続き開始の決定などによって発生し、法人格の喪失を意味します。解散は、会社を消滅させる最初の手続きといえます。
「清算」との違い
清算は、解散した会社の資産と負債の処理を行うプロセスを指します。例として家電量販店のグループ会社が廃業した場合は事業を閉めますが、会社としての解散はしていません。この段階では、まだ資産や負債の処理は行われていないのが一般的です。
会社が解散するとなった場合、会社に資産や負債が残っている状態になるため、資産の売却や債券の回収、負債の返済を行う「清算」を行わなければなりません。企業の資産で債務をすべて支払える場合は通常清算となり、裁判所の監督は受けません。負債返済のために会社資産が不足する場合は、裁判所の監督下にて特別清算が行われます。
「休業」との違い
廃業が事業活動の永続的な終了を意味するのに対し、休業は一時的な事業活動の停止を指します。
個人経営のカフェが、経営者の長期療養のために一定期間閉店の決断をした場合、休業にあたります。顧客に対しても「再開予定」のアナウンスがあれば、一時的だと捉えられます。また、休業期間中も法人や事業としての身分を保持し、将来的には再び営業を開始する可能性がある状態です。
一方、経営者の加齢により、カフェを継続するのが不可能と判断し、すべての事業活動を停止する場合は廃業になります。
休業は事業活動が一時的に休止される状態を指し、廃業はその事業の完全な終了を意味します。
近年の廃業動向(2022年のデータ)
経済の変動や政策の影響も含めた社会的要因によって、近年は廃業が増加傾向にあります。ここでは、2022年1月から12月の廃業動向を解説します。
廃業が増加している背景
20年以上の事業を有する企業群が休廃業・解散するケースが目立つ背景として、経営者の高齢化に伴う後継者不足、コロナウイルス感染症の流行が要因であるといえます。
また、給付型支援の一時的な資金繰り改善効果が薄れ、企業の持続可能性に対する厳しい現実が明らかになったケースもありました。
将来に対する不透明感が増すなかで、多くの経営者が市場からの撤退を選択した結果として、休廃業・解散企業が前年比11.8%の増加に転じたといえます。企業倒産も3年ぶりに増加しており、厳しい経営環境が伺えます。
出典:東京商工リサーチ「2022年の「休廃業・解散」4.9万件、2年ぶり増加 コロナ支援縮小のなか、黒字率が過去最低の54% ~ 2022年「休廃業・解散企業」動向調査 ~」
廃業を選択するメリット
廃業は、適切なタイミングで選択することで経営状態の深刻化を回避し、ステークホルダーへの影響を最小限に抑えられます。また、事業者自身も引退後の生活の見通しを立てられるというメリットがあります。
廃業によって事業を整理し、資産を売却すれば債権者に対して支払責任を果たしつつも自己資産を保護できるため、従業員や取引先への負担を最小限に抑えられます。
たとえば、不動産や設備などの資産を現金化して債務の一部またはすべてを支払い、残りの資産で廃業後の計画を立てられます。
計画的な廃業は、事業の責任を適切に終えた事業者にとって、次の人生の段階へと移行するための有効手段となり得ます。
廃業を選択するデメリット
廃業を選択するデメリットとしては、従業員の失業、事業の消滅、そして取引先への影響が挙げられます。
廃業した場合、消滅した事業部の従業員は新たな就職先を見つける必要があり、その過程で経済的不安やキャリアの断絶を経験する可能性があります。
また、自社が取引先の主要な顧客だった場合、取引先の売り上げに大きな影響を及ぼすでしょう。特に中小企業などでは、廃業による取引の中断が連鎖倒産を引き起こすリスクも考えられます。
廃業は、事業者にとっては損失を抑える計画的な撤退となるかもしれませんが、従業員や取引先、そして地域社会には大きな負の影響を及ぼす可能性があることを認識しておきましょう。
廃業する際の手続き・手順
廃業には、いくつかの手続きがあります。資料の作成や届け出など複雑なものも多いため、専門家への相談もおすすめです。ここでは、事業の終了日を決定し、従業員や関係者への書面通知が済んだあとの廃業手続きの手順を解説します。
- 株主総会の特別決議:解散を決めるため、株主総会で特別決議を行う。
- 解散および清算人の登記:法務局に解散および清算人の変更を登記する。
- 解散を関係各所に届け出:解散事実を税務署や社会保険事務所など関連する各機関に届け出る。
- 財産目録、貸借対照表の作成:財産の全体像を示す目録と、貸借対照表を作成する。
- 債権者保護手続き:公告を行い、債権者に対する保護措置を講じる。
- 税務署へ解散確定申告書の提出:解散した事実を税務署に報告する。
- 資産の現金化、債務弁済、残余財産の確定および分配:会社の資産を売却して現金化し、債務を弁済したあと、残った財産を株主に分配する。
- 税務署へ清算確定申告書の提出:清算の完了を税務署に申告する。
- 決算報告書の作成および承認:清算に伴う決算報告書を作成し、株主総会で承認を得る。
- 清算終了を法的に登記:清算の終了を法務局に登記する。
- 解散を関係各所に届け出:最終的な解散の手続きとして、必要な各機関へ届け出る。
これらの手続きは順序立てて進め、法的な要件を満たす必要があります。特に財産の現金化や債権者への配慮、税務申告には細心の注意が必要です。
廃業を回避する「M&A(事業承継)」という選択肢
従業員や取引先への影響を考え、廃業ではなく事業承継を検討するのもおすすめです。事業者にとっては、これまで築き上げた企業価値を未来へとつなげられるメリットがあり、従業員にとっては雇用の継続が大きなメリットとなります。
事業承継にはいくつか種類がありますが、M&Aも選択肢の一つとして挙げられます。
従業員の雇用を守れる
事業承継の際に、従業員の雇用継続を明確な条件として盛り込めば、従業員の生活基盤と将来を守るための手段となり得ます。
経験豊かな従業員の雇用継続は、買収側企業にとっても新たな雇用のために時間や予算を割く必要がないだけでなく、事業の継続性を円滑に保てるというメリットになります。
会社や事業自体を存続できる
長年培った技術やノウハウを承継することで、事業自体を存続できます。
買収側企業のリソースやネットワークを活用して、未開拓の市場へ進出したり新製品を開発したりする機会を得られれば、さらなる事業拡大にも期待できるでしょう。
取引先への影響を抑えられる
廃業は取引先にも波及し問題が発生する可能性があります。例として、特定の部品を独占的に供給していた会社が廃業すると、取引先は急遽新しい供給者を見つける必要に迫られ、その過程で生産の遅延やコスト増加のリスクが高まります。
ほかにも、取引先が販売する商品の主要な買い手だった企業が廃業すると、取引先の売り上げが大きく低下し取引先が事業を継続できなくなることがあります。こうした状況は、取引先の業務に大きな混乱を与え、場合によっては連鎖的な財務困難を招く危険性があります。
M&Aを通じて事業を継続すれば、取引関係の安定性を維持し、供給の途絶えや主要販売先の喪失を防げます。また、新しい経営体によってリソースが注入されると、取引先に新たなビジネスチャンスをもたらす可能性もあります。
事業承継は、取引先への負の影響を最小限に抑えるだけでなく、その関係をさらに発展させるための基盤作りにもなります。
M&A(事業承継)に関する支援策は豊富
M&A(事業承継)に関する国や自治体の支援策として、経営者が円滑な事業承継を実現するための相談窓口の設置、資金面での補助、そして税制上の優遇措置などがあります。
適切な売却先を見つけるのは容易ではないため、国や地方自治体は相談窓口を設け、専門家が事業の実態に合わせたアドバイスを提供しています。
資金面では、事業承継を円滑に行うために必要な経費の一部を補助する制度があります。たとえば、評価額の算定費用や法的手続きの費用など、M&Aに伴うさまざまな出費に対しての支援が期待できます。
また、事業承継税制として、承継時の税負担を軽減するための税制優遇措置があり、相続税や贈与税の納税猶予や免除の制度があります。
M&A(事業承継)を実施する際は支援策の活用も検討しましょう。
出典:国税庁公式サイト「法人版事業承継税制」
出典:中小企業庁公式サイト「事業承継の支援策」
まとめ
近年、コロナウイルス感染症の流行や経済の変化、経営者の高齢化などの要因で廃業する事業者が増加しています。
廃業は事業者にとって重要な決断であり、その選択が従業員や債権者、取引先といった多くの関係者に影響を与えるため慎重な検討が必要です。
廃業のメリット・デメリットを理解したうえで、M&A(事業承継)という選択肢も視野に入れ最終的な経営判断につなげましょう。廃業や事業承継などは、事業者にとって大きな決断となります。専門的な知識を必要とされる場面も多いため、専門家と相談しながら検討していくのがおすすめです。