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少額減価償却資産の特例とは?制度の概要から具体例までわかりやすく解説

少額減価償却資産の特例とは?制度の概要から具体例までわかりやすく解説

固定資産を取得した際、通常は減価償却により法定耐用年数にわたって取得価格を費用へ配分します。しかし、少額減価償却資産については、一定の要件を満たすと取得価額を一括で費用・損金とすることが可能です。今回は、少額減価償却資産の特例の概要や適用要件、具体例についてわかりやすく解説します。

少額減価償却資産の特例とは

少額減価償却資産の特例とは

少額減価償却資産の特例とは、中小企業者等が30万円未満の減価償却資産を取得した際に、取得価額相当額を損金の額に算入できる税制措置です。特例が適用される上限額は、その事業年度中に購入した少額減価償却資産の合計額300万円までとなります。

 

減価償却資産を取得する場合、通常は減価償却を行い、その資産の使用可能年数(法定耐用年数)にわたって取得費用を配分し、必要経費にしていきます。しかし、少額減価償却資産の特例が適用することで、固定資産の取得価額の全額をその期の費用に計上できます。

 

この特例は2022年(令和4年)3月31日までの予定でしたが、令和4年度税制改正において、適用期限が2024年(令和6年)3月31日まで2年間延長されました。

 

一括費用計上による節税効果を得られる

少額減価償却資産の特例は、一括費用計上による節税効果を得られるのがメリットです。取得価額30万円未満の減価償却資産であれば、全額がその期の費用・損金となります。減価償却資産を取得した事業年度の課税所得が小さくなるため、法人税等の負担軽減が期待できるでしょう。

 

通常の減価償却でも、最終的には取得価額相当額が費用・損金となりますが、法定耐用年数にわたって費用化するため、全額が損金となるまでに時間がかかります。

 

少額減価償却資産の特例の具体例

ここでは、事業用の機械装置(法定耐用年数10年)を28万円で取得するケースについて確認しましょう。

 

本来は、取得価額28万円を法定耐用年数の10年にわたり分割して必要経費にしていきます。しかし、取得価額が30万円未満であるため、少額減価償却資産の特例を適用することで28万円を一括で必要経費にできます。

 

機械装置を取得したときの仕訳は以下の通りです。

 

借方貸方
機械装置 28万円現金預金 28万円

 

償却時には以下のように仕訳します。

 

借方貸方
減価償却費 28万円機械装置 28万円

 

一度、固定資産に計上した後で、取得価額の全額を減価償却費として費用計上します。

 

税務上は、取得価額28万円全額がその事業年度の損金の額に算入されます。

 

少額減価償却資産の特例の適用要件

少額減価償却資産の特例の適用要件

30万円未満の固定資産を取得した際に取得価額を一括費用計上するには、特例を受けるための要件を満たす必要があります。

 

適用要件の内容は、大きく「適用対象法人」と「適用対象資産」の2つに分けられます。

 

ここでは、少額減価償却資産の特例の適用要件について解説します。

 

適用対象法人

少額減価償却資産の特例は、中小企業者に適用される税制措置です。

 

特例の適用対象となる中小企業者の主な要件をまとめました。

 

  • 青色申告法人である
  • 常時使用する従業員数が500人以下
  • 資本金が1億円以下
  • 適用除外事業者に該当しない

 

適用除外事業者とは、過去3年間における各事業年度の所得金額の年平均額が15億円を超える法人が該当します。

 

また、上記の要件を満たす中小企業者であっても、以下の点いずれかに該当する法人は特例の適用対象外となります。

 

  • 大規模法人に発行済株式数の2分の1以上を所有されている
  • 大規模法人に発行済株式数の2分の1以上を所有されている
  • 複数の大規模法人に発行済株式数の3分の2以上を所有されている

 

大規模法人とは、以下のいずれかに該当する法人になります。

 

  • 資本金が1億円を超える法人
  • 資本もしくは出資を有しない法人のうち、常時使用する従業員が1,000人超の法人
  • 大法人(資本金5億円以上の法人)との間に完全支配関係がある法人

 

適用対象資産

少額減価償却資産の特例は、取得価額が30万円未満の減価償却資産が対象となります。

 

機械装置や器具、備品といった有形減価償却資産だけでなく、ソフトウェアや特許権などの無形減価償却資産、所有権移転外リース取引で取得した資産、中古資産も対象に含まれます。

 

ただし、主要な事業として行われるものを除き、貸付けの用に供した減価償却資産は適用対象外です。

 

その事業年度において、少額減価償却資産の取得価額の合計額が300万円を超える場合は、その合計額のうち300万円に達するまでが損金算入額の限度となります。

 

「少額減価償却資産の特例」以外の取り扱い

「少額減価償却資産の特例」以外の取り扱い

減価償却資産については、法定耐用年数より短期間で償却できる制度が複数用意されています。

 

ここでは、「少額減価償却資産の特例」以外の税務上の取り扱いと判定基準を紹介します。

 

取得価額が10万円未満のもの

10万円未満の減価償却資産を取得した場合は、取得した事業年度に一括で必要経費にすることができます。会計上は消耗品費などの勘定科目で費用処理します。

 

取得価額が10万円未満かどうかは、通常取引される1単位あたりの価額で判定します。

 

例えば、応接セットを購入する場合、通常はテーブルと椅子が1組で取引されるため、1組あたりの取得価額で判定を行います。

 

使用期間が1年未満のもの

使用可能期間が1年未満の減価償却資産を取得した場合も、取得した事業年度に一括費用計上が可能です。

 

会計上は消耗品費などで処理します。

 

一括償却資産(取得価額10万円以上20万円未満)

取得価額が10万円以上20万円未満の減価償却資産は「一括償却資産」に該当します。一括償却資産は3年間で均等償却するため、通常の減価償却よりも早く費用化できるのが特徴です。

 

例えば、15万円の一括償却資産を取得した場合、取得した事業年度から3年間で年5万円ずつ費用計上します。

 

なお、一括償却資産は、中小企業者以外の法人も適用対象となります。

 

少額減価償却資産の特例の留意事項

少額減価償却資産の特例の留意事項

少額減価償却資産の特例を利用する場合は、以下の事項について留意する必要があります。

 

少額減価償却資産の取得価額の判定基準

減価償却資産の取得価額が30万円未満かどうかを判定する基準は、取引単位あたりの価額となります。機械装置なら1台、工具や備品などは1個、1組のように、通常取引される単位ごとに判定されるということです。また、消費税の会計処理方式(税抜経理方式・税込経理方式)の違いも取得価額の判定に影響を与えます。

 

ここでは、中小企業者が税抜29万8,000円の備品(法定耐用年数7年)を購入するケースについて確認しましょう。

 

消費税率10%とすると、税込で32万7,800円です。税抜経理方式を採用している場合は、税抜の価額が取得価額となります。備品の取得価額は30万円未満であるため、少額減価償却資産の特例を適用することが可能となります。

 

一方、税込経理方式を採用している場合は、税込の価額を基準に判断します。備品の取得価額は30万円以上となるため、一括費用計上は認められず、法定耐用年数の7年にわたって減価償却をすることになります。

 

固定資産税(償却資産)がかかる可能性がある

償却資産とは、土地・家屋以外の事業用資産のことです。

 

1月1日現在の償却資産の所有者には、その資産が所在する市区町村から固定資産税が課税されます。

 

少額減価償却資産の特例が適用された資産も償却資産の申告対象となるのでご注意ください。

 

特例を受けるために必要な手続き

少額減価償却資産の特例を受ける場合は、取得した事業年度において取得価額相当額を損金経理します。

 

また、確定申告書に「少額減価償却資産の取得価額に関する明細書(別表16(7))」を添付する必要があります。

 

まとめ

中小企業者が取得価額30万円未満の減価償却資産を取得した際は、少額減価償却資産の特例を適用することが可能となります。

 

合計300万円を上限に取得価額を損金に算入できるため、うまく活用すれば法人税等の負担軽減が期待できます。

 

減価償却関連の業務に携わる機会がある場合は、少額減価償却資産について理解を深めておきましょう。

 

  • 髙木 康行

    監修者

    髙木 康行

    株式会社AGSコンサルティング
    OS部門長・公認会計士

    2014年AGSグループ入社。公認会計士・税理士。会計監査の経験を活かしながら現在はOS事業部にて、法人税務、組織再編支援、M&A支援、バリュエーション業務を中心に従事。

    会計、税務という枠組みに捉われない支援をモットーに、AGSの幅広いサービスメニューをワンストップで提供している。

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