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一般社団法人を設立する方法まとめ。流れや必要な手続きについて解説

一般社団法人を設立する方法まとめ。流れや必要な手続きについて解説

「法人を設立しよう」と思ったときに、まず思い浮かぶのは株式会社ではないでしょうか。しかし、法人には株式会社のほかにもさまざまな種類があり、「一般社団法人」も選択肢の1つとなります。一般社団法人の設立を検討する場合は、特徴や手続きを理解しておくことが大切です。今回は、一般社団法人の概要や設立要件、必要な手続きについて解説します。

一般社団法人とは

一般社団法人とは

一般社団法人とは、「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」に基づいて設立される社団法人です。社団とは、一定の目的のために組織された団体のことで、法律によって法人格を与えられた社団を社団法人といいます。

 

一般社団法人は基本的に営利目的ではなく、利益の分配は行えません。ただし、公益性を求められているわけではないため、収益事業を行うことも可能です。法務局への登記のみで成立し、比較的簡単に設立できます。

 

社会福祉法人やNPO法人とは何が違う?

社会貢献を目的に法人を設立する場合、一般社団法人以外にも社会福祉法人やNPO法人といった法人形態もあります。

 

社会福祉法人は、社会福祉事業を目的として設立される法人のことです。老人ホームや保育所といった社会福祉事業のほか、公益事業や収益事業も行えます。設立には所轄庁による認可が必要です。また、さまざまな要件を満たさなくてはならないため、法人設立の難易度は高いと言えます。

 

NPO法人は、特定非営利活動を行う団体のうち、法律に基づいて法人格を取得した法人のことです。特定非営利活動には、「保険、医療又は福祉の増進を図る活動」など20種類の分野があります。収益事業を行うことも可能ですが、事業で得た収益は分配せず、さまざまな社会貢献活動に充てられます。NPO法人を設立するには、所轄庁による認証と法務局への登記が必要です。

 

以上のことを踏まえると、一般社団法人は事業の目的に制限がなく、登記のみで成立するため、社会福祉法人やNPO法人に比べると設立しやすいでしょう。

 

一般社団法人を設立するメリット

一般社団法人を設立するメリット

一般社団法人は、他の法人格と比較して以下のようなメリットがあります。

 

手続きが簡単で設立しやすい

一般社団法人は、手続きが簡単で設立しやすいのが魅力です。

 

社会福祉法人やNPO法人はさまざまな条件を満たさなくてはならず、所轄庁の認可・認証も必要となります。

 

一方、一般社団法人は法務局への登記のみで成立するため、法人設立の手間を大幅に省くことが可能です。

 

少ない資金で設立できる

一般社団法人は、コストをかけずに設立できるのもメリットです。

 

資本金は不要で、定款認証手数料や登録免許税、その他手数料のみで設立できます。

 

設立費用について、自分で手続きを行う場合は15万円程度、司法書士などの専門家に代行を依頼する場合は20万円程度が相場です。

 

株式会社は資本金1円から設立できますが、外部からの信用を得るには100万円程度のまとまった資本金を用意する必要があり、一般社団法人よりもコストがかかります。

 

小規模で運営できる

一般社団法人は、最低2名の社員がいれば設立できます。設立後に社員が1名だけになっても、解散する必要はありません。

 

一般社団法人は事業目的に制限がないので、公益性の高い事業はもちろん、個人で手がけていた収益事業などを法人で小規模から始めることも可能です。

 

一般社団法人を設立するデメリット

一般社団法人を設立するデメリット

利益分配はできない

株式会社の場合、事業がうまくいって利益が出れば株主や社員に分配できます。

 

そのため、利益分配が事業に取り組むメンバーのモチベーションになりえます。しかし、一般社団法人は利益分配ができません。

 

利益が出ても収入は変わらないため、社員のやる気低下を招く恐れがあります。

 

収益事業の利益には法人税等が課税される

一般社団法人は、「非営利型法人」と「非営利型法人以外の法人」の2つに分かれます。

 

非営利型は税務上「公益法人等」として取り扱われ、収益事業以外から生じた所得には法人税等が課税されません。

 

それに対して、非営利型法人以外の法人は税務上「普通法人」として取り扱われ、すべての所得が課税対象となります。

 

一般社団法人を設立しても、無条件で税制優遇を受けられるわけではない点に注意が必要です。

 

事務処理に手間がかかる

一般社団法人は、事務処理に手間がかかるのもデメリットです。

 

上述の課税の観点から、収益事業とその他事業を区分する必要があり、個人事業主や株式会社よりも会計処理が複雑になります。

 

また、一般社団法人の役員には任期があり、任期が終了するたびに登記が必要です。

 

加えて、毎年開催する社員総会の資料作成などの業務も発生するため、法人設立前より事務処理に時間を要する可能性があります。

 

一般社団法人を設立するための要件

一般社団法人を設立するための要件

一般社団法人を設立するには、設立時社員を2人以上確保した上で定款を作成し、公証人の認証を受ける必要があります。設置機関は社員総会のほか、業務執行機関として理事を最低1名置かなくてはなりません。定款に記載することで、理事会や監事、会計監査人といった機関を置くことも可能です。

 

定款(ていかん)とは、法人の目的や事業、組織、活動に関する根本規則のことです。法人の商号や所在地、事業内容といった基本情報をはじめ、法人運営に関するさまざまなルールを記載します。

 

機関設計は5パターンある

一般社団法人の機関設計は以下5つのパターンがあります。

 

  • 社員総会+理事
  • 社員総会+理事+監事
  • 社員総会+理事+監事+会計監査人
  • 社員総会+理事+理事会+監事
  • 社員総会+理事+理事会+監事+会計監査

 

それぞれの機関の役割は以下の通りです。

 

機関役割
社員総会一般社団法人の重要事項(役員の選任・解任など)を決定する意思決定機関。構成員はすべての社員で、原則として社員1名につき1個の議決権を有する。
理事一般社団法人の役員で、法人運営に関する職務執行権を持つ。
監事理事の職務執行を監査する権限を持つ。理事に対して事業報告を求めたり、職務内容の調査を行ったりできる。
理事会すべての理事で組織され、法人の業務執行の決定や理事の職務執行の監督、代表理事の選任・解任などを行う。
会計監査人一般社団法人が作成する貸借対照表・損益計算書といった計算書類の監査を行う。

 

理事会、もしくは会計監査人を設置する場合は、監事を置く必要があります。

 

大規模一般社団法人(貸借対照表の負債の合計額が200億円以上)は、会計監査人を置かなくてはなりません。

 

一般社団法人を設立する手続きの流れ

一般社団法人を設立する手続きの流れ

 

ここでは、上述した「一般社団法人を設立するための要件」を踏まえて、設立手続きの流れを紹介します。

 

STEP1.社員を2名以上確保して理事を選任する

まずは社員を2名以上確保し、理事を1名以上選任します。理事と社員は兼任できるため、総社員が最低2名いれば、一般社団法人を設立できます。

「社員」とは、従業員やスタッフではなく、議決権を持つ一般社団法人の構成員のことです。

 

もし社員が自分1人だけであれば設立できないため、自分以外の社員を1名以上探しておきましょう。

 

STEP2.定款を作成して公証人の認証を受ける

定款とは、上述したように、法人運営に関するさまざまなルールを記載したものです。

 

定款の作成は、専門家に相談しながら進めるといいでしょう。定款を作成したら、公証人役場で公証人の認証を受けます。

 

STEP3.設立時理事を選任し、設立手続きの調査を行う

設立時理事を選任し、その理事が設立手続きの調査を行います。

 

具体的には、手続きの内容が法令や定款に違反しないかを確認します。

 

調査の結果、違反や不備があった場合はその旨を設立時社員に通知します。

 

STEP4.設立の登記申請を行う

法人の代表者(設立時理事または設立時代表理事)が、法務局に一般社団法人設立の登記申請を行います。

 

登記申請を行った日が、法人の設立日となります。申請手続きは代理人に任せることも可能です。申請内容に不備がなければ、通常は一週間程度で手続きは完了します。

 

一般社団法人設立の主な必要書類

一般社団法人設立の主な必要書類

一般社団法人の設立手続きでは、さまざまな書類を準備しなくてはなりません。

 

スムーズに手続きを進められるように、必要書類の種類や内容を把握しておくことが大切です。

 

ここでは、一般社団法人を設立するときに必要な書類について解説します。

 

設立登記申請書

設立登記申請書は、登記申請を行う際に法務局へ提出する書類です。

 

法務局の窓口で受け取るか、法務局ホームページからダウンロードして入手しましょう。

 

記載例を参考に必要事項を記入し、設立時代表理事が法人の実印を押して提出します。申請時には登録免許税が必要です。

 

定款

設立時社員によって作成され、公証人による認証を受けた定款が必要です。

 

定款には「絶対的記載事項」と「相対的記載事項」の2つがあります。

 

  • 絶対的記載事項:必ず記載しなくてはならない事項
  • 相対的記載事項:必要に応じて記載する事項

 

絶対的記載事項は商号や所在地、目的などで、掲載漏れがあると有効な定款とは認められません。相対的記載事項は、社員総会以外の機関設置などが該当します。

 

設立時代表理事選定書

「設立時代表理事を選定した」ということを証明する書類です。

 

理事会を設置する場合は、代表理事の選定が必要となります。

 

設立時役員の選任に関する決議書

設立時役員の選任が決定した旨の決議書のことで、定款で設立時役員を選定している場合はこの決議書が不要となります。

 

定款ではなく、設立時社員が設立時役員を選任した場合や主たる事務所の所在地を定めた場合は決議書を添付します。

 

設立時役員の就任承諾書

設立時役員に選任された人が、就任に承諾したことを証明する書類です。

 

役員ごとに就任承諾書を作成する必要があります。

 

本人確認書類

設立時役員の本人確認書類として、住民票記載事項証明書や運転免許証のコピーなどを添付します。

 

運転免許証は裏面もコピーし、本人が原本と相違ない旨を記載して記名する必要があります。

 

印鑑証明書

印鑑証明書は、設立時役員が就任承諾書に押印した印鑑について市区町村長が発行したものを添付します。

 

理事会を設置する場合は代表理事、設置しない場合は設立時理事全員の印鑑証明書が必要です。

 

印鑑届出書

印鑑届出書は、設立する一般社団法人の印鑑(実印)を届け出る書類です。

 

商号や事務所の所在地、提出者の資格(役職)・氏名などを記入し、届出印の押印を行って提出します。

 

印鑑カード交付申請書

印鑑カード交付申請書は、法人の印鑑証明書を発行する際に必要となる「印鑑カード」の交付を受けるための書類です。

 

設立登記完了後に、法務局の窓口やオンラインなどで手続きを行います。

 

委任状(代理人が手続きをする場合)

委任状は、申請手続きを代理人に委任した場合のみ必要です。

 

代理人が申請する場合は、設立登記申請書にも代理人の住所と氏名を記入して印鑑を押します。

 

まとめ

一般社団法人は比較的簡単に設立可能で、費用を抑えられるのがメリットです。

 

社員を最低2名確保して定款を作成し、必要書類を添付して登記申請を行えば設立できます。

 

ただし、利益の分配はできず、収益事業の利益には法人税等が課税される点には注意が必要です。

 

メリット・デメリットを比較した上で、一般社団法人を設立するか検討しましょう。

 

  • 井上 智博

    監修者

    井上 智博

    株式会社AGSコンサルティング
    マネジメントサービス第2部門長

    2004年にAGSグループ入社、2006年に税理士登録。法人税務、M&A業務を経て、事業承継業務に従事。年間100件超の事業承継案件に関与。

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