• 対談

トップ対談 マネーフォワード×AGSコンサルティング

株式会社マネーフォワード 代表取締役社長 CEO 辻 庸介 様

ソニー株式会社・マネックス証券株式会社を経て起業し、2017年9月29日に東京証券取引所マザーズ市場へ新規上場を果たした、株式会社マネーフォワードの代表取締役社長CEO・辻 庸介氏。4年前からサポートを続けてきたAGSコンサルティングの廣渡嘉秀が、起業のきっかけやクラウドサービスの未来について話をうかがった。

クラウドサービスは戦国時代の”鉄砲”のような存在

廣渡2017年9月に東京証券取引所マザーズ市場に上場されたわけですが、上場してみて、何か変わりましたか?

僕の感覚としては、「やっとプロ野球に入れた」とワクワクしているところです。社内のメンバーにしてみると、ニュースなどでも取り上げられたことで、世の中にこういうカタチで受け止められる会社なんだな、という実感が湧いたようです。
社員数は250人くらい。オフィスがいっぱいになってきたので、移転を検討しています。

廣渡オフィスが広くなるって社長にとってはグッとくるものがありますよね。「こんな広いところ借りちゃうんだ・・・」っていう。

ワンルームから始まって、会議室のある1フロアを借りて、人が増えて2フロアになり。その時でも「大変なことになった」と思いましたが、さらに今のオフィスに移った時は気が引き締まりました。営業拠点は全国にあるので、リモート環境、テレワークなどを巧く利用したいと考えています。会計事務所もそうだと思いますが、変革期ですね。

廣渡私たちAGSでもテレワーク、サテライトオフィスを検討しています。クラウドサービスも同じですが、利用できるモノを巧く利用して変革していく会社とそうでない会社では、差がつくでしょうね。

クラウドサービスって戦国時代の鉄砲みたいな存在なんじゃないかと思うんです。当社でクラウド型のビジネスチャットツールを導入したところ、コミュニケーションのスピードが3〜5倍になりました。導入してみないと結果はわからない。織田信長は、「鉄砲ってすごいらしいぞ」「すごく高いし危険らしいぞ」など情報が色々あるなかで、実際に鉄砲を取り入れてみた。その結果、当時最強と言われていた武田軍を討ってしまったわけです。当時、鉄砲は最先端の技術で、導入するにはリスクを伴ったでしょう。今、「クラウドは戦国時代の鉄砲である」というのは、比喩的に面白いなぁと。

クラウドにはそのくらいのインパクトがあると思います。様々なデータがクラウド上で繋がって、AIが自動で最適化する。そんな世界じゃないですか。こうした一連の作業は人がやるより圧倒的に早くなります。

さらに進むと、インターネットで金融サービスを作ると決済手数料や送金手数料などは、今よりも劇的に抑えられるかもしれません。

廣渡金融サービス自体がブロックチェーンなどの技術でどこまで変わるのか。銀行業も今までと同じではいられなくなるだろうし、実際に、大変な危機感を持っておられます。

ユーザーの声を聞いて生まれた法人向けサービス「MFクラウド会計」

写真:対談風景

廣渡起業するキッカケとかこれは百回ぐらい話されていると思うんですが、本当のところを教えてくださいよ、取材用じゃなく本当のキッカケ 笑。

マネックス時代、ネット証券が出てきて手数料もすごく安くなり、グローバルな商品も入り、投資情報も機関投資家並みに手に入るようになりました。でも、日本の人口約1億3千万人の中で、ユーザーはわずか数百万人しかいないんです。ネット証券を使う人って一部の特殊な人だと感じました。
そういった一部のリテラシーが高い人だけでなく、お金に不安を感じている大勢の人のためのサービスがあるべきなんじゃないだろうかと思ったんです。起業した当時、食べログやクックパッドのように、みんなが使えるアプリはいろいろなカテゴリで出てきていました。しかし、「自分には今いくらお金があるのか?」「どのくらい使えるのか?」「どう運用したいのか?」、そういったお金に関するアプリは誰もやっていなかった。だったら自分でやりたいと思ったんです。

廣渡今のマネーフォワードの原型ですね。元々は個人向けだけで展開していこうと思っていたんですか? それとも、法人向けのサービスも視野に?

元々は個人向けだけで、法人向けは全く考えていませんでした。2012年12月にマネーフォワードをリリースしてから、定期的にユーザーアンケートを実施していたんです。「どんな機能が欲しいですか?」というアンケート内容の中に何気なく入れていた「確定申告」という項目が一番欲しいという結果が出ました。
マネーフォワードの便利な仕組みを使って、面倒な確定申告を楽にして欲しいと。僕もソニーで経理をやっていたので、会計業務の非効率さについては経験していましたし、技術的にも可能なのでやろうと思いました。
「ヒト、モノ、カネが全部足りない」と、みんなに反対されましたが 笑。

廣渡開発には結構時間がかかったんじゃないですか?

たまたまエンジニアの中に、過去に起業して自分で決算を組んでいたメンバーと、会計士の試験に受かったメンバーがいたんです。この2人、仕様を決めなくても、自分たちで勝手にプログラムを書き始めて、2ヶ月半くらいでサービスを作ったんです。そして、2013年11月にリリースしました。もしあのタイミングじゃなかったら間違いなく競合に出遅れてしまっていたでしょうね。

廣渡それは奇跡ですね。

本当にラッキーだったと思います。
あの日深夜にリリースしたあと、大きな事故がないことをみんなで確認して、恵比寿のビアガーデンに昼間から飲みに行ったんです。あの時のビールの味はいまだに覚えてますね。人生最高のビールでした。

廣渡これはうまくいくな と思ったのはいつごろなんですか?

いまだに思ってないですけどね 笑。でも、これまでゲームカテゴリにしか見られなかったプレミアム課金モデルが意外と使われると分かった時、うっすらと光が射した気がしましたね。

クラウドサービスの繋ぎ合せを会計事務所がアドバイス

廣渡辻さんと初めてお会いしたのは、4年前くらいですよね。

廣渡さんに初めてお会いした時、「クラウド会計の時代が来るね」っておっしゃいました。当時、AGSさんのような大きな会計事務所の代表クラスで、そんな発言をする方は少なかったんです。アンテナが高い方だなぁと思ったのを覚えています。

廣渡クラウドサービスには注目していて、私たちも会計事務所として一緒に何かできないか? と模索していた時でした。

僕は、中小企業を良くしようと思ったら、銀行はもちろん会計事務所の助けが絶対に必要だと考えています。社長って自分で会計をやりたい訳ではないですから。決算、申告もサポートして欲しいし、経営に関するアドバイスも欲しい。会計事務所の力は必要です。私自身、経理の経験から身に沁みているんです。

廣渡機械化できない泥臭い部分があって、会計事務所が担うべき役割というのが結構ありますからね。
クラウドサービス自体が全体的にそうだと思いますが、MFクラウド会計は、ビジネスの世界を様変わりさせると思います。

MFクラウド会計は、スタンドアローンの会計ソフトというより、さまざまなサービスと連携して経営を改善できるプラットフォームをめざしています。例えばPOSレジや勤怠システムなど、個々のシステムからデータを取り出し、最終的に会計ソフトに仕訳をまとめる作業が今までは必要だった。それが、全てのデータがリアルタイムに繋がり、蓄積されたデータを元にAIがアドバイスするような世界をめざしています。

廣渡MFクラウド会計だけで完結することなく、周辺サービスと繋がっていく。

ユーザーが自社と相性の良いサービスを繋ぎ合わせて使っていくようなイメージです。
会社で考えると、業種とか規模によってどんなサービスを選ぶか変わってきます。選択肢が増えると経営者はどのサービスを選んで良いかわからないと思うので、そこを会計事務所がアドバイスすることは意義があると思います。
的確なアドバイスを受けられる会社が強くなると思うし、生産性が上がって、給料も出せる。そうすると良い人が集まって、さらに成長するみたいな流れが加速していくはずです。

AGSの経験値とキャラクターは素晴らしい

写真:対談風景

廣渡AGSと連携して良かったこと、これからAGSに期待することはありますか?

たくさんあるのですが、プロダクトのブラッシュアップと、あとはやはり上場準備をお手伝いいただいたことはとてもありがたかったです。
何をしたら良いかわからない、時間もリソースも限られたなかで、本音で相談もしやすかったです。しかも、現場の様子をよく見てくださいました。理想論をおっしゃるんではなくて、「理想はこうですけど、まずはここからやりましょう」と、現実的なアドバイスをいただけました。本当にありがとうございました。

廣渡2017年は90社中26社の上場をお手伝いさせていただきました。
足元で上場を目指してらっしゃるクライアントは200社程度でしょうか。IPOは圧倒的に得意分野です。

もちろん固有名詞は出ませんでしたが、他社がどうしているのかを教えていただけたことは貴重でした。
この対談のタイトルをつけるなら「ベンチャー企業が上場するならAGS」ですね 笑。ベンチャー企業の駆け込み寺、みたいな 笑。

お金の流れを変えて日本経済を活性化させたい

廣渡今後の展望ですが、MFクラウド会計からはじまったものの、そこに連なるサービスをすごい勢いでリリースしていますよね。

会計、給与、請求書、経費、マイナンバーなどをリリースしていて、手入力を無くすためのサービスを拡充しています。例えばグループ会社のクラビスのサービスは、領収書や請求書など紙の証憑をスキャンすると、仕訳データとして返してくれるんです。領収書などを手入力する必要がなくなります。こうしたサービスを全て使うと、人がやっていた仕事がどんどんなくなると思うんですよね。自動化で生産性を上げ、リアルタイムで数字が見えるようになることで、経営判断が早くなる。さらに、会計データを元に金融機関からオンラインで融資を受けられる、新たな融資のスキームも始めています。
これがFinTechの文脈で言うところの、コストを下げることによって、ユーザーにメリットを提供する、ということ。お金の流れを変えて、ひいては日本経済を活性化しようと。早くそういう世界を作り、日本でNO.1になってアジアに進出したいです。

廣渡アジア進出も素晴らしいことですが、日本でやりきるだけでも、ものすごいことですよね。世の中を変えるわけで。
幸運にも私たちAGSは早い段階で辻さんとお話しすることができた。
マネーフォワードさんが躍進して色々なクラウドサービスが充実してくると、それらを繋ぎ合わせるコーディネーターの必要性は、より高まってくると感じます。その上で経営に関する専門的なアドバイスをする、それが会計事務所の役割になっていくのかも知れませんね。

数字やデータを集めるところまではどんどん簡単になるんですけど、それを読み解いて何をするか、ということが大切だと思います。そこのところをAGSさんに教えていただけると非常に助かります。ベンチャーにとって良いCFOを雇うことはなかなか難しいですし、バックオフィス自体、競争優位たりえない。そこの役割もAGSさんが補って、最小限で上場できる体制をサポートいただけると助かると思います。経営者も本業に集中できますから。

  • 辻 庸介氏

    辻 庸介氏

    株式会社マネーフォワード
    代表取締役社長 CEO

    AGSさんには
    現実的なアドバイスをいただけましたし、
    本音で相談もしやすかったです。

    京都大学農学部を卒業後、ペンシルバニア大学ウォートン校MBA修了。ソニー株式会社にて経理、マネックス証券株式会社にてマーケティングマネージャーを経て、2012年に株式会社マネーフォワード設立。2017年9月29日、東京証券取引所マザーズ市場へ新規上場。新経済連盟の幹事、経済産業省FinTech検討会合の委員も務める。

  • 株式会社マネーフォワード

    株式会社マネーフォワード

    https://corp.moneyforward.com/

    事業内容:インターネットサービス開発
    森永プラザビル 本社:〒108-0014 東京都港区芝5-33-1 森永プラザビル本館17F

  • AGSコンサルティング代表取締役社長

    廣渡 嘉秀

    Yoshihide Hirowatari

    株式会社AGSコンサルティング
    代表取締役社長

    MFクラウド会計は、
    ビジネスの世界を様変わりさせると思います。

    1967年、福岡県生まれ。90年に早稲田大学商学部を卒業後、センチュリー監査法人(現 新日本監査法人)入所。国際部(ピートマーウィック)に所属し、主に上場会社や外資系企業の監査業務に携わる。94年、公認会計士登録するとともにAGSコンサルティングに入社。2004年に代表取締役専務、06年に副社長を経て08年より社長就任。09年のAGS税理士法人設立に伴い同法人代表社員も兼務し、現在に至る。