Case

コロナ禍乗り越え創業43年で東証プライムに新規上場
計画通りのIPOでガバナンス強化と知名度向上を実現

IPOコンサルティング事例 | 大栄環境株式会社

概要

産業廃棄物の収集・運搬から最終処分までワンストップでサービスを提供する大栄環境株式会社は、2022年12月14日、創業から43年で東京証券取引所プライム市場に新規上場を果たした。コロナ禍など想定外の出来事を乗り越えながら、IPO達成までの約3年半をAGSグループが伴走した。

  • 東口岳文氏

    東口岳文氏

    大栄環境株式会社
    総合政策本部IR部長

  • 大塚翔太氏

    大塚翔太氏

    大栄環境株式会社
    総合政策本部IR部グループリーダー

 

ーガバナンス強化と知名度向上へ上場目指す

 

東口氏:1979年に創業し、大阪府和泉市で廃棄物の最終処分事業からスタートした当社は、地域の皆さまからの信頼のもと創り上げてきた多くの施設により、廃棄物の収集運搬から中間処理・再資源化及び最終処分に至るまでのワンストップサービスを提供するとともに、土壌浄化や施設建設・運営管理等、環境創造に係るバリューチェーンを幅広い事業で展開しております。

IPOの目的は、ガバナンス強化と知名度の向上でした。創業期に8社だったグループ企業数は、当社のIPO検討が本格化した2019年時点で32社に上り、社員数は2,000名を超えていました。社内のガバナンス体制を構築する必要がありましたが、上場すればそれが実現できると考えました。産業廃棄物処理事業にはどうしてもネガティブなイメージが伴うので、今後事業エリアを広げるためにも、知名度と社会的信頼性の向上が急務だったことも背景にあります。

現社長が創業メンバーで、「2025年に世代交代を」と掲げていましたので、計画通りの2022年に上場を果たすというのが我々のミッションでした。

 

〈当初IPOを検討し始めたのは2017年9月、子会社で上場を目指した〉

ガバナンス強化と知名度向上へ上場目指す

東口氏:競合が上場後に社会的評価を上げたこともあり、当初は2017年に子会社化した株式会社ジオレ・ジャパンを上場させることで、当社の信頼性の向上を図ろうと考えていました。

ところが、当社とジオレ・ジャパンとの関係性の中で、子会社上場の問題があり、当社と同社の取引の一線を引くことが求められ、シナジー効果が見込めなくなったため、2019年2月に当社の上場について検討することになりました。同社を上場させるために作った規程はテキストなどを参考にしながら自力で作りましたが、当時32社あったグループ企業の規程を一新する必要がありました。当時所属していた総務部でなんとかしようという話も出たのですが、ノウハウもなく、人手も足りませんでした。そこで、主幹事証券会社の営業の方にいいコンサルティング会社がないかと紹介してもらい、費用面などを総合的に検討してAGSさんにお願いすることにしました。

 

ー規程作りに追われた上場準備期間

〈上場準備期間の2019年度は、各部門にヒアリングしながら規程を整備〉

規程作りに追われた上場準備期間

AGS岩本:作りかけのものもありましたが、規程自体は存在していたので、社内で試行錯誤されていたのが伝わりました。今後も自社で規程作りをしっかりと実行していくご意向を感じましたので、連携しながら進めたいと考えました。

 

東口氏:2019年度はひたすら規程作りをしたという印象です。誰にとっても初めてのIPOでしたので、ここまでやらないとならないのだと役員にも説明をしてまわり、理解をいただくのが大変でした。AGSの皆さんと各部門にヒアリングをして、事業内容を理解してもらいながら規程を作成しました。職務分掌規程や労務管理規程などの規程の作成から、内部監査のための監査室の設置、取締役会などの議事録の作成も最初からご支援いただきました。

 

AGS世取山:AGSに全ての対応を任せていただくという企業もいらっしゃいますが、大栄環境様の場合は、打ち合わせをしながら共同で進めていく形をとりました。

 

東口氏:上場したら終わりではなく、上場は手段でしかないので、上場後も体制を整えていかないとならないという意識がありました。社長をプロジェクトリーダーとして、役員や部長など多くの社員が関わるIPOプロジェクトだったので、絶対にやりきるという思いが各自にありました。

 

 

ー予想外だったコロナ禍や東証市場再編の対応

〈直前々期の2020年度、コロナ禍が襲った〉

予想外だったコロナ禍や東証市場再編の対応

東口氏:2020年度も引き続きシステム関連の規程などを整備しながら、内部監査の対応や予算管理、経営計画の策定も進めました。新型コロナウイルスが広がり始め、緊急事態宣言が発令されると、会議が思うように進まなくなり、会計制度の整備やJ-SOXの対応などに遅れが出ました。予算が未達になった時期もあり、審査が止まってしまう可能性もありましたが、営業部をはじめ、全社一丸となって案件を取ってきて立て直すことができました。

 

AGS世取山最初に大栄環境様の規程を作り、その後に子会社の規程を作成していきました。途中で組織も変わっていったので、作っては更新してというのを重ねました。社長権限が多く、職務の分掌ができていない部分もありましたので、案件によっては部長決裁にするなどして整理もしました。

規程ができても、きちんと運用されているかを内部監査で確認する必要があります。子会社も10か所以上一緒に回って監査させていただきました。M&Aで買収した企業も多くありますので、意識や企業文化の違いがないか不安もありましたが、子会社の皆さんの意識も高く、杞憂に終わりました。子会社でも親会社と同じレベルの内部管理体制を構築できました。

 

東口氏:IPOの実現に向けては、社長自身が熱心に情報発信されていました。毎月、グループ企業の社長や部長らが集まる会議でも「必ず計画通りに上場を達成するんだ」と現場を鼓舞していました。上場日が近づくと、業績面で審査が止まる懸念が払拭されていただけに、もし自分の持ち場で問題が出ればスケジュールに遅れが出かねないと、どの部署も緊張感をもって仕事にあたっていました。

 

〈2022年4月の東証市場再編も決まった〉

東口氏:東証市場の再編は予想外の出来事でした。当初は、東証一部への上場を目指していたので、最上位のプライム市場を目指すこととなりましたが、プライム市場の上場企業は、世界の機関投資家からの資金を呼び込むためにTCFD(気候関連財務情報タスクフォース)の枠組みに基づく気候変動関連の開示が必要になりました。サステナビリティ対応などが追加で必要となりましたが、無事対応できました。

 

 

ー管理体制の整備や運用、決算早期化も

〈新規上場申請書類作成は、全部署を巻き込み〉

管理体制の整備や運用、決算早期化も

AGS世取山2020年度後半には、新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅱの部)を作り始めました。作成にあたっては各部署から多くの資料を提出いただく必要があったため、各部署に順番に集まっていただき、審査で聞かれる点や、回答するための資料作りに必要なものなどについて打ち合わせをしました。現場とメールでやりとりしてしまうと、伝言ゲームのようになってこちらの意図が伝わりにくく、ズレが生じてきてしまう可能性があったからです。多少時間はかかりましたが、打ち合わせの時間をとれたことで多くの人を巻き込みながらもスムーズに進めることができました。東口さんから、「現場にどんな資料を出してもらうか、そのあたりを説明するところから始めましょう」とおっしゃっていただけたので、助かりました。

 

東口氏:当時は書類を作るにしても、情報がなかなか集まらなかった状態でした。私たちが同席しながら、計10以上の部署と直接ご対応いただきました。

 

大塚氏:私は新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅱの部)の作成を担当しましたが、そもそも「Ⅱの部とは?」というところからのスタートだったので、各部署から出てきた資料を岩本さんにお渡しして文章を作っていただきながら、足りないものを現場にお願いしてというのを繰り返していました。岩本さんには毎年取得するべきデータについて教えていただくなど、一つひとつ根気強くお手伝いいただきました。Ⅰの部は144ページ、Ⅱの部は448ページで完成しました。

 

AGS世取山:Ⅱの部のページ数は子会社や事業数などによって変わってきますが、単一事業の会社なら100ページ程度で収まることもあるので、だいぶ量は多くなりましたね。

 

AGS岩本:大塚さんの隣の席をご準備いただいていましたので、コミュニケーションがとりやすかったです。審査対応の直前になると作業量も多くなり、終電を逃さないように駅まで走ったこともありました。

 

〈証券会社による審査も開始〉

証券会社による審査も開始

東口氏:2021年12月から証券会社の審査が始まりました。同時に経理の支援もいただき、2022年3月期から連結決算を導入しました。当社は連結会社が多いので、早期に決算が出るように経理規程の整備やシステムの更新などにも取り組みました。

証券会社の審査では、4回の審査で計650件の質問があり、1回あたり約27日間で回答をまとめなければなりませんでした。大変とは聞いていましたが、ここまで苦労するとは思いませんでしたね。創業のきっかけなど、40年以上前の創業時に関する質問もありましたが、当時の記録は残っていなかったので、社長も一緒になって昔の記憶をたどって、回答を作りました。分かりやすい表現など文章の構成については、きちんとお答えしないと追加質問を受けかねませんでしたので、AGSの皆さんには大変サポートしていただきました。

その甲斐あって2022年7月に証券会社の審査をクリアし、東証による審査が始まりました。東証の審査では376件の質問があり、1回あたり約9日間の回答期間で対応しました。

 

AGS岩本:東証の審査では、証券会社の審査の時点で回答をだいぶご準備いただいたので、それを活用することで時間の短縮になりました。

 

大塚氏:おかげで審査面談の際に深く突っ込まれてもしどろもどろにならずに対応できました。

 

東口氏:審査の際に証券会社との間に入ってご対応いただいたことは大きかったです。有価証券届出書の最終提出先である財務局の対応も一緒にしていただきました。

 

 

ー計画通りIPOを達成

〈2022年12月14日、東証プライム市場に上場。初値は公募価格の27%高の1,710円で、時価総額は2022年にIPOした銘柄で2番目の大きさとなった〉

2022年12月14日、東証プライム市場に上場。初値は公募価格の27%高の1,710円で、時価総額は2022年にIPOした銘柄で2番目の大きさとなった

東口氏:最終的な上場の承認は11月9日におりました。承認後も、週に1度ほどは東証から確認の電話がかかってきていたので、最後まで油断はできませんでした。

上場日には、初値がつくところを証券会社に見に行きましたが、セレモニーや記者会見などでばたばたした一日でした。

 

大塚氏:上場日にはとにかく「終わったんだ」という気持ちでいっぱいで達成感はあまり感じなかったです(笑)。

 

AGS田中上場承認がおりた後も東証からの問い合わせ対応に追われていた様子を見ていたので、上場日には皆さんが晴ればれとした顔をされていて安心しました。

 

AGS世取山書類の多さや時間的なプレッシャーもあったと思いますが、大きなトラブルなく進めることができて本当によかったです。これだけの規模のIPOをスケジュール通りに実現できたことは歴史に残ると、証券会社の方にも喜んでいただけました。社長をはじめ、全社でIPOに向けて一枚岩になれたことが全てだったと思います。上場パーティーにもご招待いただいて、非常にありがたかったです。

 

東口氏:上場して名が知られ、協業案件の持ち込みも増えたので、社会からの信頼を獲得できていると実感しています。当社では現在、メーカーやゼネコンなどとも取引していますが、今後は現状、約20%となっている自治体の売上比率をさらに高めたいと考えています。自治体との連携には、市民の視点もありますので会社の知名度が欠かせません。2014年度に197だった取引自治体数は2022年度までに425に伸びました。今後は、当社が各地の施設で自治体の廃棄物と地域の産業廃棄物を一体的に処理し、エネルギーや資源に変える「公民連携事業」に注力していきます。

 

ーIPO後も支援は継続

〈M&Aが今後の成長戦略の一つ〉

M&Aが今後の成長戦略の一つ

AGS世取山IPO後もIR資料や議事録の作成、内部監査などで引き続き、支援させていただいています。今後は、M&A関連の提案も積極的にできれば幸いです。

 

東口氏:当社の成長戦略の一つはM&Aです。現在30ある連結子会社のうち、半数以上はM&Aで買収しています。事業エリアは近畿が中心ですが、2020年4月には関東の中間処理事業者がグループ入りしました。全国では後継者不足や価格競争による利益率の低下などに悩まれている中間処理事業者もいらっしゃると思います。救済型M&Aで、当社にグループ入りした結果、黒字転換を果たしております。当社の事業展開余地がある地域でM&Aを進めたいと考えていますので、引き続きサポートをお願いします。

AGSグループ担当者(関西)からのメッセージ

  • 世取山大輔(公認会計士)

    世取山大輔(公認会計士)

    スケジュール通りとはいえ3年半にわたり色々な方々と関わりながら組織的に対応させていただきました。関西でこれほど大きなIPOはなかなかない出来事なので、我々にとっても財産になりました。

  • 田中佐久真(公認会計士)

    田中佐久真(公認会計士)

    大栄環境のお二人は我々よりももっと遅くまでご対応されていたと思います。引き続き一緒にお仕事をさせていただいていますので、IPO以外でもお付き合いさせていただけますとうれしいです。

  • 岩本和也(公認会計士)

    IPOの最初から最後まで一気通貫で関与するのが個人的に初めてだったので、貴重な経験をさせていただきました。夜遅くまでかかる仕事もありましたが、上場といういい結果につながり、うれしく思っています。

お客様プロフィール

大栄環境株式会社

創業: 1979年

事業概要

環境関連事業、有価資源リサイクル事業
資本金 5,907百万円 

URL:https://www.dinsgr.co.jp/

記事の内容は掲載当時のものです。